第8話 ムラマサの愛刀ムラマサ
「それでムラマサよ、お主の荷物とやらは何処に置いてあるのじゃ?」
ノイエリタンをなんとか説得して待機していたライラとミズマリスと合流した。あいかわらず他人がいるとノイエリタンはヤンデレの本性を隠してくれる。ただまあ異常なまでに他人に対して興味がない、もしくは攻撃的になるのだけはやめてほしいのだが、まあ問答無用で殴り掛からないだけよしとしよう。
最大の難関をなんとか突破し、この世界で最後にやらなくてはならない一仕事。それはこの世界から元来た世界へ帰る時、もう必要ないと思って置いていった俺の荷物。こいつを回収しなくてはならない。
「えっとよお、ミルグレアの貸金庫に預けてあんだよ。ただよ、ここが何処だか皆目見当もつかないんだけどさ、リタ、ここってどこ?」
ノイエリタンの目ん玉を飲み込んで、知らない間にここまで来てたが転移させられたので、今いる場所が何処だか全く分からない。彼女がいたあの不気味な部屋も一体なんだったのか。
「ん? ここは私の家だが?」
「は!? ここがお前の家? あの訳の分からない空間がか!?」
「おい、ムラマサ、ちょっとこっち来い」
突然ノイエリタンに胸倉を掴まれて部屋の端っこのほうへ連れていかれた。それも抵抗することも敵わないくらいの物凄いバカ力で。
「ねえマサオ、あなた本気で言ってるの? あなたが私の為に作ってくれた家なのよ? 私とあなたの愛の城なのに……」
「は!? そ、そんなこと俺したか? 俺がお前に家を…… あっ……」
思い出した。そういや俺がこの世界から元来た世界へ帰る時、この女は物凄い癇癪を起して自分の家を破壊したんだった。その後なんとか宥めたはいいが、粉々に砕け散った家が元通りになるはずもなく……
仕方なく俺はクリエイトの力でこいつの家を作ったんだった。その頃俺は家を一軒完璧に作れるほどの力がなかった。だから俺はノイエリタンと精神をリンクさせ、尚且つ彼女の力を借りてこの家を完成させたんだった。
ちなみにその直後、こいつは形見の品だといって自分の目ん玉をくり抜いて俺に渡してきたのだ。俺は引いた。とんでもなく引いた。ヤバい奴だとは思っていたが、まさかここまでだとは思っていなかった。
とはいえ無くなった目玉は彼女のスキル『超再生』で、少ししたら元に戻ったのだが。つまりノイエリタンの目玉は世界は違えど3つ存在していたことになるわけだ。
話は戻り、この家の内装をデザインしたのはリタだったから家の中身がどうなってるのか俺は全く知らなかった。まさかこんなおかしな内装になっていたとは……
ちなみに今いる部屋はさっきまでリタと戦っていた部屋のすぐ隣の部屋なんだが、20畳くらいの広さがあるのにもかかわらず、物がひとつもない。白一色の殺風景な部屋。さっきの部屋もヤバかったが、この部屋はこの部屋でずっといたら頭がおかしくなりそうだ。
「ああ、確かにお前に家作ったわ。家の中入ったの初めてだったからよお、ちょっと面喰っちまったんだわ」
「うふふ、そうだったのね、ならいいわ。ちなみに先程までいた部屋は瞑想の部屋よ。あそこで気を落ち着けるの。素敵でしょ?」
「あ、う、うん、そだね……」
瞑想する部屋でどんだけ暴れまわってたんだよ!? まあいい、こいつにはツッコんだら負けだ。
こいつの家ってことはここは大都市ミルグリアだな。
ミルグリアは今いるこの世界で最も巨大な国『ルクセリア王国』の首都だ。ちなみに最初に俺が訪れた酒場もミルグリアにある。てことは俺は物凄い至近距離で転移させられたのか。徒歩でもそうかからない距離なのに……
なんだろう、この釈然としない気持ちは……
「まあいいや、気を取り直して貸金庫のある店まで行こうぜ」
そうして俺は魔王、勇者、精霊を引き連れて貸金庫へと向かったのだった。
◇
「おっさん、久しぶり、荷物よろしく」
「おお! ムラマサ様! ご無沙汰しております。4,5年ぶりでしょうか? お預かりしていたモノですな。少々お待ちを」
貴重品を客から預かる貸金庫屋。辺りには見るからに屈強そうな対強盗用として雇われている男達が絶えず店の中を厳重に監視している。
貸金庫の店主に案内された先は、ズラリと並んだ扉の中のひとつ。
その扉には魔法陣が描かれており、これが個人を識別する鍵の役割を果たしているのだ。
「さっ、ムラマサ様、この魔法陣へ手をかざしてください。ムラマサ様の掌の静脈を検知して扉が開くシステムとなっておりますので」
「了解。じゃ、開けるぞ」
分厚い扉に描かれた魔法陣に手をかざすとどこからかガチャリとロックが解除されるような音が聞こえた。
扉を開くと中には10畳程度の広さのスペースがあり、そこには所狭しと俺がこの世界に置いていった数々の想いでの品が眠っていた。
「それでムラマサよ、この一見するとガラクタしかないような物の中から一体なにを持っていくのじゃ?」
「おい! ガラクタ言うな! ここにあるのは全部俺がこの世界を生きた証なんだぞ! 全て等しく価値があるもんなんだよ! ほら見てみろ! これなんか俺が最初にこの世界に来た時に作った木の枝を削った武器だ」
「ガラクタじゃの……」
身も蓋もないことを言われ少し凹みそうになったが、俺が取りに来たのはこいつじゃない。俺のお目当ては――
――コイツ! この俺の愛刀! その名も妖刀ムラマサ!
「ああ、お主のいつも使っとった刀じゃの。久々に見たが相変わらず無骨な刀じゃのう」
その刀は柄の部分は包帯のような布で巻かれており、刀身の根元の辺りに汚い字でムラマサと書かれていた。
「見た目はアレだがこいつはすごいんだぞ。切れ味抜群、刃こぼれしても自己修復する、そして何よりカッコいい!」
「カッコいいかどうかは分からんが……してソレを持ち帰ってどうするのじゃ? お主の武器として使うくらいしか思いつかんが」
「まあそれは向こうへ帰ってからのお楽しみだ。あとは~、適当に使えそうなもん持ってくかな」
目ぼしいアイテムを適当に手に取り、その辺に転がっていた麻袋にぶち込む。ひとつひとつのアイテムを見ていると、この世界で繰り広げてきた冒険の数々が走馬灯のように目に浮かぶ。
この石ころは確か…… とても貴重な宝石だと言われてこちらが所持していた貴重なアイテムと物々交換したのだが、実は何の変哲もない只の石ころで、要は詐欺られていたという思い出の石。戒めの為に取っておいたんだった。はあ、懐かしい。
「おい、ムラマサ、そんな石ころ眺めて惚けておらんと、さっさと支度せんか」
「あ? あ、ああ、そうだな。ついな、思い出が込みあげてきてよ」
「我はもう眠いのじゃ。あちらへ行くならさっさとしてほしいのじゃ」
「ああ、お前昔から寝てばっかりだったもんな」
ミズマリスは強大な魔力のせいで一日のうちあまり長く起きていられないらしい。起きているだけで物凄い体力を消耗するのだそうだ。
今は村娘の姿に擬態していて魔力を抑えてはいるが、彼女が本来の姿に戻れば彼女の体からあふれ出すエネルギー量で、如何に彼女が膨大な魔力を秘めているのかが分かるはずだ。
「じゃあそろそろ行くか」
「うむ、参ろう」
「ふんっ! 行くならさっさとしろ」
「ねえムラマサ、今回は私もついていくことにしたわ」
ライラが唐突についてく宣言をした。どういった風の吹き回しだ? 前回誘った時には来なかったくせに。いや、せっかく来てくれるというのだ。断る理由はない。
「マジか! うれしいぜ! んでもよお、せっかくこの世界に戻ってきたんだ。一日だけ泊っていきたいんだけどよ、いいか?」
「我は構わんぞ、とにかく我はもう寝たい。何処か宿でも取ってくれるか?」
「はあ、分かりました。私が探してまいります」
ライラが面倒くさそうにそう告げると、宿を探しに建物から出ていった。
ノイエリタンは相変わらずフルプレイトアーマーにフルヘルムを装着しているおかげで、何を考えてるのか想像もつかないが、まあこいつは放置しておこう。
「あっ! そういやさ、リタのパーティメンバー、3人いたじゃねえか。あいつらどうしたんだよ? ソフィアとお前の兄貴のアルファ、あとは~、あれ? あいつなんだっけ? オタクじゃねえや、オコタでもない、なんつったっけなあ? いっつもお前の尻を追いかけてたヤツ」
「オクタヴィアンだ。あの3人は魔王討伐の任から解かれてすぐ何処かに消えた。どこへ行ったかは知らん」
「マジか、てか行先くらい聞いとけよ…… まあ俺も知らん仲でもないし、会えたら挨拶だけでもしときたかったんだが、それならしゃーないな」
3人の顔を見れなかったのは少し心残りではあるが、まあよしっ! こっちでやるべきことは全て終わった。
俺たちは次の日に元来た世界へ帰ることにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます