第31話 女神像

 魔王国からステラ神聖国へと戻ったライオットは、ステラ王国時代からあった神殿に足を踏み入れていた。

 その最も神聖とされる祭壇には、とても立派な大理石の台座が置かれている。

 そう…ご立派な台座のみが鎮座しているのであった。

 如何に、歴代のステラ王国の王達が女神ステラへの信仰を民衆から忘れさせようとしたかを証明する歴史的な建造物である。

 ライオットと一緒に神殿に入った聖女タマムが、その神聖さの欠片もない雰囲気に、呆れ返った顔で内装を見渡す。

 これならば、まだインス村の教会の方が狭くても神聖さは格段にまさっている。


 ライオットは、大地竜サラマンドラが住処としていた洞窟の床をくりぬいた岩塊を収納空間から取り出す。

『ミュー、女神ステラのイメージを送ってもらえる?』

『あいよ!御安いご用だ』

 江戸っ子なミューオンから女神ステラのイメージを受け取ったライオットが、錬金・彫刻・解析・変換スキルを同時発動させると岩塊がその姿を徐々に変化させて行く。

 岩塊は長年、大地竜サラマンドラの巨躯を支えて来ただけあって、圧迫による鉱物密度がとてつもなく高い。

 その硬度は、ダイヤモンドなどを遥かに凌ぐものとなっていた。

 貴重な岩塊を惜し気もなく使った、ステラ女神像がまもなく完成しようとしている。

 神々しさを身に纏った8頭身の秀麗な女神像…では全くなく、片眼を瞑りウィンクしながら横ピースを決めた2頭身女神像が岩塊から姿を現した。

 その表面はぴっかぴかに磨かれていて、まるで鏡面の様に光を反射している。

『ねえ、ミュー…このステラ女神像ってミューにそっくりじゃない?2頭身だし』

『なに言ってんの全然違うじゃない。女神に失礼よ!まあ満更でもないわよ…その御世辞』

『でも髪型マッシュだよ』

『天上界ではトレンドだからね!女神のお薦めヘアスタイル』

 自分で造っておきながら、どこか納得のいかないライオットに反して、

「なんという事でしょう!神々しくも愛らしくある女神ステラ様をここまで忠実に具現化して下さるとは…感激致しました。誠心誠意お祈りを捧げて参ります」

 聖女タマムが感動の涙を流し、床に膝をつけて祈りのポーズを取る。

 その後、2頭身の女神像はホリディアンによって担がれると、何も置かれていなかった台座の上に載せられた。

 それまで殺伐とした雰囲気だった神殿が、息を吹き返したかの様に神聖な光に包まれると、装飾が何も施されていなかった柱や壁に神聖幾何学模様が刻み付けられて行く。


 神殿の周りを取り囲んで様子を見守っていたステラ神聖国の民衆が、吸い込まれる様に神殿の中へ入ると祈りを捧げ始める。

 その様子を見守りつつ、ライオットは出来上がったステラ女神像を複製スキルでコピーすると他の種族の元へ届けるためにゲートを開く。

「やっぱりミューにそっくりだよ」

 ポツリと呟くとライオットは、ゲートの中へと足を踏み入れた。


 新たな女神の歴史を刻むべく、これからも妖精ミューオンと使いパシるライオットに本意ほいない覇王のオーラが刻まれつつあることを、本人はまだ自覚していない。

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