第22話 砂漠エリア
帰還の魔方陣により、カフラーダンジョンの草原エリア入り口に戻った【チャリオット】は街へと一旦帰ることにした。
ダンジョン内では、夜が来ないというのが地味ながらも身体には
冒険者ギルドにも、草原エリアの階層ボス討伐を報告しに行かなければならない。
ダンジョン的には階層ボスを倒した者達は、自動的に次の砂漠エリアに入る資格を得るのだが、ギルドに報告せずにそれをやるのはルールに抵触するらしい。
要は、階層ボス討伐の稀少な魔石をギルド以外に売ることは許さないという事だ。
冒険者ギルドでは登録したてのパーティーが、草原エリアとはいえ短期間で攻略したことで大騒ぎになってしまった。
ましてや、モイラとソーニエールはFランクだったため即行で試験が行われて、Cランクへの昇格が決定する。
そのモイラとソーニエールだが、チイ虎になったテイヒュルを巡っては主従関係が入れ替わってしまった。
「テイヒュルちゃ~ん、モイラちゃんにもモフモフさせてね~」
猫なで声でモイラが手を伸ばすと、ビシッとチイ虎のテイヒュルが前足で叩く。
テイヒュルを膝に乗せ、煉瓦色の毛並みを撫でているソーニエールが、
「あらあら、お嬢さまは随分とテイヒュルに嫌われてしまったようですね」
と
「なんで撫でさせてくれないのよ!ワタシはソニーの
「そういう上から目線の尊大な態度が、可愛いチイ虎に気に入ってもらえない原因なのでしょうね」
ソーニエールによりテイヒュルが自主的にモイラの手を叩いてる様になっているが、ライオットは知っている…誰がテイヒュルに指示しているかを。
そのライオットは、新鮮なビックボアの生肉によってテイヒュルの餌付けに成功してモフモフを堪能させてもらっている。
モイラとソーニエール、そしてテイヒュルと別れて宿屋の部屋に入ると、
「少しくらいだったら、ミューの可愛らしい頭を撫でさせてあげてもいいんだからね」
妖精であるミューオンが、ツンデレながらもテイヒュルの小さな可愛さに対抗心を燃やしていた。
だが、久しぶりの夜を迎えたライオットは宿屋のベッドにダイブすると、すぐさま夢の世界へと入り込む。
翌朝、宿屋の朝食を食べ部屋でのんびりしていると仕度を整えたモイラとソーニエールが入って来た。
トテトテと短い足を動かして、チイ虎のテイヒュルも付いてくる。
可愛い…可愛いのだが階層ボスの魔物のはずだったのに、このあざとさはなんなんだ。
だが、わかっていても抗えない…可愛いは最強だ。
両手を差し出して抱っこしようとすると、横からシュッと手を伸ばしてテイヒュルを奪おうとする狼藉者がいた…モイラである。
その瞬間、モイラの手はテイヒュルによって叩かれてしまう。
睨み合う少女とチイ虎…刹那、高速で繰り出される手と前足の攻防戦。
いい加減見飽きたライオットは、
「ソニーさん、砂漠エリアに入るにあたって移動手段になる馬車に手を加えたいんです」
と、モイラとテイヒュルのじゃれ合いをスルーしてソーニエールに話しかけた。
「馬車のどこを改造したいのですか?」
「今のままだと砂にめり込んでしまうので、馬車の車輪にキャタピラーを装着したいですね」
「それは、馬車の前輪と後輪に履帯を嵌めるということでいいんですか?」
「さすがはソニーさん、その通りです」
「なるほど…砂地に接する面積を増やせば掛かる重量を分散出来ますね」
「車輪と履帯が、滑らない様にしたいのですが大丈夫でしょうか?」
「車輪にピンを嵌め込んで、履帯の穴と同調させれば外れることはないでしょう」
「どれくらいで準備出来ますか?」
「その程度の改造ならすぐ出来ますよ」
「助かります。それじゃあ出発しましょうか」
ソーニエールはテイヒュルを抱き上げて、ライオットは駄々をこねるモイラの手を引っ張って、宿屋を後にするとダンジョンへと向かった。
3つ並んだダンジョン入り口の真ん中へと、【チャリオット】は踏み入れる。
暗闇を抜けると、そこには遥か彼方にまで拡がる砂、砂、砂があった。
しばらく歩いて入り口から離れると、ソーニエールに改造した馬車を出してもらう。
すでにお願いしておいたキャタピラーが装着されていて、外装も黒から砂漠で目立たないデザート迷彩へと変更されている。
「さすがはソニーさんですね!馬車の砂漠仕様、完璧じゃないですか」
「お褒めに預かり恐悦至極。細かい部分にまで気を配るのがメイドの役目ですから…」
ソーニエールがボリュームのある胸を張ると、
「ワタシに対しても、少しは気を配って欲しいものよね」
主であるモイラが拗ねる。
「お嬢さま何をおっしゃいますか?お嬢さまが、快適に過ごせる環境を整えているのですよ」
「じゃあ聞くけど、ワタシより先にテイヒュルを大事そうに乗せてるのはナゼなのかしら?」
「可愛いは最優先事項でございますけど…何か?」
ソーニエールが小首を傾げつつ応えた。
「もういいわ。ところで、この砂漠エリアではワタシメインで闘っていいわよね。草原エリアではソニーばっかり活躍していたんだから」
「御意…ライオット氏、お嬢さまは距離をおいての弓矢と魔法攻撃が
ライオットはソーニエールから漆黒の
「カッコいいね!本物の探検家みたいだ」
「いえ、探検家ではなく女王様の魔道具として作成したものです。捕獲したいモノを思い浮かべてその方向へ鞭を振れば、自動的に伸びて絡め取って来ます」
「それは便利だね!女王様も動かずに、必要なモノを手元に持って来れるんだね」
「いえ、女王様はその様な使い方はしないと愚考致します。モノ以下、ブタ野郎な殿方に使用すると悦ばれる魔道具だと聞いて造りましたので…」
「ふ~ん?そう聞いても造っちゃうんだ。ちょっと想像つかない使い方だね」
ライオットは、漆黒の鞭を振る練習をしながら応える。
砂漠エリアの魔物は地中に潜むものが多いので、ライオットは探索スキルを地中にも展開していた。
「モイラ様、砂の中からお出ましです」
「やっとワタシの活躍の時間ね」
モイラが、背中に携えていた弓矢を構える。
馬車の横10m程の砂が盛り上がると、体長2mのサンドワームが姿を現した。
サンドワームは
目に見える手や足はないが、身体中にある棘を小刻みに動かして地中を移動している。
攻撃の際には地上に姿を現すので、
大きさは、1m程の小物から20m近くまである大物まで個体差が激しい。
まだ砂漠エリアに入ったばかりなので、そう大きな個体には出くわさないはずだ。
「まずは小手調べね」
馬車の屋根に追加された4枚の魔鋼板からなる装甲射手席からモイラが立ち上がると、牙が無数に生えた口を開いて襲い掛かって来たサンドワームに弓矢を射かける。
弓矢が突き刺さったサンドワームは、すぐさま黒い靄と魔石になった。
ライオットが御者台から魔石に向かって漆黒の鞭を振るうと、魔石が鞭の先端で絡め取られて手元に引き寄せられる。
魔石を回収していると、今度は前方に3匹のサンドワームが顔を出す。
モイラは3本の矢を同時に
「このペースだと弓がもったいないわね。魔法攻撃に切り換えるわ」
「モイラ様お見事です。砂漠エリアの魔物は基本、乾燥しているので火魔法に弱いです」
「わかったわ…ファイヤーアロー!」
モイラは弓に矢を番えずに構えると、魔法で造り出した矢を放つ。
魔法の矢とは思えない速度と正確さで、次々と地中から現れるサンドワームを疾走する馬車の上から射掛けて行く。
魔石を回収するため鞭を振るうライオットの方が、忙しくて余裕がなさそうだ。
サンドワームは砂漠の砂の中を移動しているため目はなく、砂に伝わる振動で獲物の場所を特定している。
なので遮断スキルを発動させて馬車から出る振動を遮ってしまえば、サンドワームは襲って来なくなるのだが、この砂漠エリアでは魔石を必要とする重要な施設があるので面倒でも数多く討伐しておくことが必要不可欠なのだ。
モイラが、かなりの数のサンドワームを倒してくれたおかげで魔石もたくさん回収出来ている。
ライオットの探索スキルに反応があった施設が、徐々に近づいてきた。
オアシスである。
砂漠エリアの数ヵ所に休憩が取れる安全地帯として存在する重要な施設であり、魔石を多数用意しておかなければならない要因だ。
半透明のドーム型結界に守られたオアシスに近付くと、出迎え用のサンドゴーレムが結界の外に出てきた。
「ヨウコソオアシスへ。ゴリヨウニハセイブツ1コアタリ、マセキ2コヲイタダキマス。バシャハ、マセキ5コイタダキマス」
ライオットはテイヒュルの分も含めて、合計13個の魔石をサンドゴーレムに渡す。
「マイドアリガトウゴザイマス。ソレデハケッカイノナカヘオハイリクダクダ…クダ」
サンドゴーレムは赤い光の弱くなった魔石を顔の中心から外すと、ライオットの渡した魔石をそこへ嵌め込んだ。
「シツレイイタシマシタ。ドウゾオハイリクダサイ」
結界の中に入ると暑さが和らぎ砂埃もなくなったので、顔に巻いていたストールを外す。
なぜか妖精のミューオンも一緒になってストールを外しているが、2頭身なのでストールの占める面積が半端ない。
オアシスの結界の中に居れば、魔物の襲撃の心配は要らないし砂嵐が来ても無事にやり過ごせる。
さすがに宿屋や食事処はないが、自前の調理ならば火を使っても問題ない。
「モイラ様、かなりの魔力を消費したと思いますけど大丈夫ですか?」
「問題ないわ。魔力ポーションも購入しておいたしね」
ライオットは購入したスパイスをふんだんに使って、普段の野営料理よりも豪華に調理する。
草原エリア、砂漠エリアと戦闘する機会がなく、魔石を回収しているだけだったし魔道具の鞭も貸してもらって更に楽になったので、体力は有り余っているのだ。
モイラは魔法を使いまくっていたので食欲が旺盛なのはわかるのだが、馬車の中でのんびり寛いでいたソーニエールとテイヒュルも盛大に食べまくっているのはナゼなのだ。
砂漠エリアにも夜は来ないので、馬車の中で食後の睡眠はしっかりと取ることにする。
砂漠の暑さの中で、睡眠不足から来る疲労に気付かないのはとても危険であり、パタッと倒れてそこで終わってしまう。
しっかりと休息を取った【チャリオット】のメンバーは、次の中継地点となるオアシスを目指して出発する。
砂漠エリアの中盤になるので、出て来る魔物のレベルも上がってくる。
定番のサンドワームも小型から中型にレベルアップし、全長5m程の大きさとなり狂暴さも増す。
他にはデスストーカーと呼ばれるサソリの魔物や、デザートフォックス等が出没する。
だが戦闘方法は基本変わらず、走行する馬車からの火魔法攻撃一択だ。
「さあ、鋭気も養ったしガンガン狩るわよ!」
モイラが、馬車の屋根にある装甲射手席に陣取って気合いを入れ直すと、ふと思い出した様に、
「でもアオシスって不思議よね?いかにも冒険者のために用意された施設でしょ。ダンジョンを造ったのは人間じゃないのにね」
と疑問を口にした。
「そうなんですよね。ダンジョンは自然発生的に造られたはずなんですが、何者かの意向が反映された施設が結構あるんですよ」
御者台に座って、漆黒の鞭を取り出しながらライオットが応える。
「管理者がいるってことなのかしら?」
ストールを顔に巻き付けているので、わずかに覗ける眼光を鋭くしながらモイラが言う。
その眼光の先に今までとは倍以上の体躯をしたサンドワームが、鋭い牙だらけの口を開けて砂丘から飛び出して来た。
「冒険者の間では、ダンジョンマスターがいるんじゃないかって噂になってますね」
モイラが弓を引いてファイヤーアローを繰り出すと、同時にサンドワームが飛び出た方向に漆黒の鞭を繰り出しながらライオットが応える。
鞭の先には、先程アオスシで拠出した魔石の倍近い大きさのものが括られて手元に戻って来た。
それからも、砂中から出てくるサソリの魔物のデスストーカーや群れをなして襲い掛かって来るデザートフォックスをモイラは片っ端から血祭りに上げていく。
射手席からリズミカルにファイヤーアローを射るモイラの弓の先に、今までは青空しか見えていなかった地平線に突然、茶色い巨大な雲が発生した。
それに気付いたライオットは、
「砂嵐が来ます。次のオアシスまで急ぎますよ」
と言うと、馬車の速度を上げる。
馬車は、小石や
魔道具の馬達にトップスピードを出させると、たぶん馬車はわずかに浮き上がっていたはずだ…身体がフワッと浮き上がる感覚があった。
凄まじい勢いでオアシスに辿り着くと、
「ヨウコソイラッシャイマシタ……」
お決まりのセリフを述べる、サンドゴーレムに15個の魔石を渡して、
「砂嵐が来てるんで、急ぎで入れさせて下さい!魔石2個はチップです」
と頼み込む。
「マイドアリ~」
サンドゴーレムは、意外と融通が効くようだった。
馬車の車体が結界内に収まるか否かのタイミングで、砂嵐がオアシスに襲い掛かって来る。
だが半円ドームの結界は砂嵐にびくともせず、中は変わらず快適な環境を維持していた。
「ふぃ~、間に合った」
ライオットが、御者台の上で巻いていたストールを首まで下ろすと盛大にため息を吐く。
「ここまで急がなくても、馬車の周りだけなら自分で結界を張れば
モイラが射手席から降りて来つつ問う。
「それはそうなんですけど…いつ収まるかわからない砂嵐に対してと、地中から現れるかもしれない魔物に対して結界を張り続けるのは魔力の消費が半端ないですからね」
「ふ~ん、意外と慎重なのねライオットって」
「え?モイラ様…意外とってちょっと心外なんですけど、僕どう見ても小心者ですよね?」
「う~ん…どうかな?」
「ええー!
繊細な自分を認めてもらえなかったのが、余程ショックだったのか愚直さが取り柄のライオットがどんよりとした雰囲気を醸し出す。
「ライオット氏、さすがの魔道馬達も砂漠でのフルスピードで魔力をかなり消費してしまった様なので、魔石を補充して貰えますか?」
馬車からテイヒュルを抱いて降りてきたソーニエールが、落ち込んでいるライオットに声を掛ける。
「あっ!そうでした…気が付かなくてすいません。すぐに新しい魔石と交換しますね」
やるべき事を思い出したライオットが、いそいそと魔道馬達の魔石を交換し始めたのを見て、
「お嬢さまの相手の本質を見抜く眼は、素晴らしい能力ではあるのですが、残念ながらストレート過ぎるのとデリカシーに欠けていますね」
と、ソーニエールがモイラを
「ふん、ワタシでもたまには失敗ぐらいするわよ」
「ご自分の非を認められる様になっただけでも、成長されていますね」
「ソニーに褒められても、ちっとも嬉しくないわね」
「ツンデレですか?お嬢さま」
「違うから」
そこへ、魔道馬達の魔石を交換し終わったライオットが戻って来て、
「この先なんですが、さすがに今までの様に馬車を走らせながら討伐という訳には行かないと思います」
と、本来の地道な作業をした事により慎重さを取り戻して言った。
「それは、出て来る魔物のレベルが違うということなの?」
「ええ、今までとはレベルも大きさも違うハズです」
「どういう戦術で行くのかしら?」
「サンドワームも10mから20m近くになりますし、個体数は少ないですがデザードスパイダーやサンドスネークドラゴン等が出て来ると、それだけで馬車が吹っ飛ぶ危険があります」
「バトルメイドたる自分が、前衛でそいつらを引き付ければいいのね」
ソーニエールが、自分の出番がやっと回って来たと勇む。
「ソニーさんには、テイヒュルと一緒にその役目を担ってもらいます」
ちい虎だったテイヒュルがソーニエールが乗れる大きさに変化すると、従魔としての役目を与えられた事を嬉しがるようにガルルと唸る。
その背に乗ったソーニエールが、
「いいコンビね。この機動力なら、魔物を誘い出しての一撃離脱も簡単そうだわ」
と、テイヒュルの背中をポンポン叩きながら笑みを浮かべた。
ライオットは御者台で横になり、モイラは馬車の中でソーニエールは虎ほどの大きさになったテイヒュルを枕にして仮眠を取っていると、次第にオアシスの外で吹き荒れていた砂嵐の勢いが弱まる。
それを感じた【チャリオット】のメンバーは、
まずは囮の前衛として、テイヒュルに跨がり片手に槍を握ったソーニエールがアオシスの結界から飛び出す。
草原エリアの階層ボスであった虎の魔物のテイヒュルに乗るメイド服のソーニエール、煉瓦色の体毛に絶対領域とされる太股の肌色が映える。
少し距離を置いて馬車を走らせる御者台のライオットと、射手席に座り魔力を練り上げているモイラが続く。
すぐにライオットの探索スキルに、先を行くテイヒュルの青い光点に近付いて来る魔物の赤い光点が表示された。
『ソニーさん10時方向、地中から来ます。コンタクトまで約30秒です』
念話でソーニエール・テイヒュル・モイラに伝える。
熱波に晒される砂漠では大声など出したら、ストールで覆っていても熱風と砂で喉と肺をやられてしまう。
30秒後、ソーニエールとテイヒュルが横っ飛びで進路から外れると、直後に15m級のサンドワームが地中から飛び出して来た。
今までとは比べ物にならない威圧感を纏っていて、馬車すらも一飲みできそうな大きな口の内側に無数の牙が覗く。
モイラがファイヤーアローをすぐさま放つが、体表を少し焦がす程度で致命傷には程遠い。
「さすがにこの程度の火力では通用しないわね…ならファイヤーバードでどうかしら!」
射手席でモイラが呟くと、構えた弓から巨大な鳥の形をした炎を解き放つ。
ファイヤーバードは一旦空へと舞い上がると、急降下でサンドワームに接近して真っ二つに切断する。
2つに引き裂かれたサンドワームは、巨大な魔石となりライオットに漆黒の鞭で回収された。
『ちょっとお嬢さま、自分とテイヒュルの出番が全くないじゃないですか!これじゃただの撒き餌ですよ』
横っ飛びで進路から外れたソーニエールが、1周して進路に戻って来るとモイラに念話でクレームを入れる。
『せいぜい、ワタシのために魔物を呼び寄せて頂戴な』
大規模な攻撃魔法を決めて、変なスイッチが入ったのか口調が女王様っぽくなったモイラが返す。
『2時の方向と9時の方向から魔物2体来ます!』
間髪入れず、探索スキルに赤い2つの光点の反応を確認したライオットが念話で叫ぶ。
『2時の方向からは地表で来るから速い。ソニーさんお願いします…コンタクトまで約1分です』
『了解。テイヒュル、今度は邪魔されないよ』
〈ガウッ!〉
ソーニエールとテイヒュルが、指示のあった方向へと突き進む。
『9時方向、コンタクトまで約2分…地中から来ます。結界スキルで馬車を保護しときますね』
『了解…結界にぶち当たったら外に出て来るわね。きっと』
射手席で、魔力ポーションをらっぱ飲みしながらモイラが応える。
ソーニエールとテイヒュルが砂丘に立つと、視界の先に茶褐色の蜘蛛が姿を現した。
デザードスパイダーである…体長が10mを超える蜘蛛の魔物が、複数の長い脚部を複雑に動かしながら砂の上をかなりのスピードで向かってくる。
『う~ん、可愛くはないな』
『ソニーさん、デザードスパイダーは左右6本の脚と頭胸部にある2本の触肢、毒牙で攻撃して来ます。弱点は赤い6つの眼がある頭頂部です』
鑑定スキルを発動させたライオットが、デザードスパイダーの情報を伝えると、
『オッケー、それじゃあ脚を切り落として動きを止めちゃうおっかな~、行くよテイヒュル!』
片手槍を携えたソーニエールが、突撃の合図と共に応えた。
ガッゴーン!馬車の周りに張られた結界に衝撃が走る。
地中から巨大な蛇の魔物が大量の砂を噴き上げながら上昇して来ると、鎌首をもたげて馬車を見下ろした。
頭だけでも3mはあり、砂に隠れている尻尾まで入れれば全長は30mを超えるのではないだろうか。
腹部を除いた身体の大部分がゴールドの体鱗で覆われていて、ターコイズブルーの瞳にある垂直の瞳孔が冷たく
『姿を現したわね………なんて魔物かしら?とりあえず結界を解除していいわよ、ライオット』
『サンドスネークドラゴン(砂蛇竜)ですモイラ様。蛇竜の一種で、口にある上下2本ずつの牙に毒があります』
『サンドスネークドラゴン…長いですね。サスドラでいいでしょう』
砂蛇竜と馬車の間にあった結界が解除されるや否や、モイラがファイヤーバードを放つ。
鎌首をもたげている状態から、一気に地を這う様に身体をくねらせると、砂蛇竜は金色の体鱗で滑らす様にファイヤーバードの攻撃を
そのまま巨大な口を開くと、上下2本ずつの毒牙が剥き出されて襲いかかって来る。
ライオットが馬車をフルスロットルで動かすと、間一髪のタイミングで砂蛇竜の毒牙がすり抜けて行く。
『モイラ様、サンドスネークドラゴンの体鱗は魔法耐性に優れているので、魔法攻撃のみで倒すのは厳しいと思います』
ライオットのアドバイスを聞いて、モイラは射手席で考え込む。
ファイヤーバードは何度も砂蛇竜に襲い掛かるが、体鱗に受け流されてダメージを与えることが出来ずにいる。
モイラは意を決すると、馬車の射手席から飛び出して砂漠の地に降り立つ。
『ライオット、少し離れて結界で馬車を守っていてくれるかしら』
『了解です。モイラ様は大丈夫ですか?』
『サスドラちゃんの鱗が邪魔なのよね。長期戦になると階層ボスの時に魔力が不足しちゃうから、そろそろ闘い方を変えて倒すわ…』
モイラが冷酷に呟くと、ムッとするほどの砂漠の熱気が冷気へと変化した。
『来なさい…
モイラの呼び掛けに応じて、艶消し赤の禍々しい装飾が施された
モイラは腰を低く落とすと、紅杖を眼前に構えて砂の上を走り出す。
丸い大きなターコイズブルーの瞳と垂直に走る瞳孔が、小さなモイラの動きを冷ややかに追う。
顔の側面にモイラが回り込むと、前方60度しか視界を確保できない砂蛇竜が、見失った獲物を捉えるために首を動かし始める。
「セイッ!」
軽い掛け声と共にモイラが紅杖を投擲すると、短杖だったサイズがみるみる大きくなり加速度を増して砂蛇竜の左目に突き刺さった。
「シャッー!!!」
いきなり左目を潰された砂蛇竜は怒り狂うと、毒牙を剥き出しにして砂の上を這う様にしてモイラへと襲い掛かる。
モイラは強襲の風圧で後ろへ吹っ飛びながら、
「ファイヤーバード、止めを差して!」
と呟いた。
すると上空を旋回していたファイヤーバードが、急降下して来て紅杖の上部に嵌め込まれた紅の魔石へと吸い込まれて行く。
刹那、サンドスネークドラゴンの黄金色の体鱗が膨張すると、その隙間から紅蓮の炎が吹き出し砂蛇竜の巨躯を焼き尽くす。
砂漠の砂を焦がした炎と黒い靄が熱風に流されると、その跡に紅杖と大きな魔石が残されていた。
モイラがその2つを拾い上げて、砂丘に佇む馬車を振り返ると砂埃を上げて駈け寄って来るテイヒュルとソーニエールの姿が見える。
「あれ、終わっちゃってました?急いでお嬢さまの助太刀に来たんですけど…」
モイラの元へと、【チャリオット】のメンバーが集まって行く。
「助太刀なんて要らないわよ。それよりそっちはどうだったの?」
「デザートスパイダーの脚、全部切り飛ばしてやりましたよ。あ!ライオット氏、これ収穫した魔石です」
テイヒュルに跨がったソーニエールが、大きな魔石をライオットに投げて寄越す。
「お疲れさまでした。もう少し先に階層ボスのいる建物があるハズですよ」
投げられた魔石を受け取りながら、砂漠エリアの最奥部に近付いた事をライオットが伝える。
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