第20話 5勇者

 ライオット達が出立した後のストラ王都の王宮において、正装したパニエルテ王の前に召集された5勇者がひざまづく。

おもてを上げよ」

 軍務卿からの指示により5勇者が顔を上げた。

「召集に応じてくれたこと、嬉しく思うぞ勇者殿」

 玉座から威厳を持って、パニエルテ王が勇者達を労うと、

「ストラ王国に仕える身であれば、王の召集に応じるは当然の事でございます」

 5勇者のリーダーであり、赤の勇者と呼ばれるグレンが応える。

「うむ…今回の召集はすでに通知してあった通り、魔王国前線基地である城塞都市への出立を命ずるものである」

「ハッ!すでに準備は整っております。これより王都正門から出立し、城塞都市へと向かいます」

「ヨロシク頼む、城塞都市では辺境伯の指示に従ってくれ」

「かしこまりました」

 それだけ伝えると、パニエルテ王は豪奢なマントを翻して玉座の間を後にした。


 執務室に戻ったパニエルテ王は、しばらく誰も通すなと従者に伝えて趣のある革張りの椅子に座る。

「望み通り5勇者達を城塞都市へと向かわせたぞ」

 誰もいないはずの部屋でパニエルテ王が声を発すると、本棚の前の空間が歪み三白眼で頬のこけた如何にも神経質そうな男が姿を現した。

「相変わらず見事な迷彩スキルだな…ベルゲン」

「いえいえ、我輩の迷彩スキルなぞ陛下の従属スキルに比べたら児戯じぎに等しいですよ」

「勇者達への従属だが、死後も有効になるように重ね掛けをしておいたぞ」

「ありがとうございます。今回の魔封隊での人体実験からアンデッドは濃い魔素により更に強化されることがわかりましたので、中途半端だった勇者達でも魔族に優るようになるでしょう」

「従属させている勇者のアンデッド達を魔王城へと進攻させ、地下に封印されているという大地竜を従属させれば、大陸の覇権は余の思うがままだな」

「陛下の仰せの通りでございます」

「大地竜の従属をより確かなものとするために、余も時間をおいてかの地へ向かう。それまでに準備万端整えておくように」

「御意」

「そうだ、魔封隊と言えば村人に捕らえられた者達が王都に連行されて来たらしいな…どう致す?」

「実験の経過報告のために辺境の村々に残しておいた雑魚部隊でしたが、何の能力もない村人ごときに捕縛されるとは呆れ果てますな」

「一応、指名手配も掛けていたから死罪にしとくか?」

「陛下のお手を煩わせる程の価値もない奴等ですが…そうだ、勇者達の強化材料にしてしまいましょうか、牢屋に繋いでおくより少しは役に立つでしょう」

「脱走か…貴族の子弟である近衛兵には被害を出すなよ、色々面倒になるからな。警備兵や門番などの平民の被害は多少は構わん」

「どうせ、アンデッドの糧になる運命の奴等の脱走を防ごうとして死ぬとは…それこそ無駄死にですな」

「ホッホッホ、ベルゲン…おぬしのアンデッドジョークは、いつ聞いても冴えておるな」

「お褒めいただき光栄の至りでございます」

「よし、牢屋の魔封隊の処置はおぬしに任せよう」

「ハッ、雑魚とて死体の隅々まで有効活用させて見せましょう」

「バカは死ななきゃ直らんと言うからな。アンデッドになれば少しは賢くなるだろう」

「これは…陛下に一本取られましたな」

「ホッホッホッホ~、余のアンデッドジョークもなかなかであろう?」

 執務室でパニエルテ王のご機嫌な笑い声が響き渡ったその夜に、王都の牢屋に囚われていた魔封隊10名の姿がかき消えた。


「あ~、やっと堅苦しい王宮から出られるな」

 玉座の間で城塞都市への出立を命じられた勇者グループが、騎士団の訓練場にて騎乗して整列しているなか、リーダーでもある赤の勇者グレンが言う。

「グレンは礼儀作法が苦手ですからね」

 長身で、スラッとした細身に似つかわしくない大振りの槍を片手に持った青の勇者セルリアンが冷静に言い放つ。

「ミーはまだまだ王族気分を味わっていたかった」

 エメラルドグリーンの長髪と瞳を持つ、まだうら若い少女である緑の勇者モスが呟く。

「確かにグレンが、慣れぬ敬語で四苦八苦する様は玉座の間であろうと笑いをこらえるのに苦労したな」

 そう言い放ったのは、一際大きな騎馬に乗る筋骨隆々なおとこであり、バカでかい盾を背中に背負った黄の勇者オウドである。

「そんなのどうでもいいわよ。第1王子との恋仲を邪魔するなんてパニエルテ王も不粋だわ。玉の輿が遠のくじゃない」

 白い聖衣に身を包んではいるが、本来身体のラインを隠すはずのものがあちこちピッタリと張り付き過ぎて、性なるオーラを醸しまくりな白の勇者ソープがプンプンと頬を膨らませている。

「ソープはあざと過ぎる。玉の輿ならぬ、玉に腰使い過ぎじゃないの」

と返したのは、同じ女性同士でありながら色気ムンムンのお姉さん聖女に対して、情け容赦のない少女モスである。

「あ…あんたねぇ~、意味わかって言ってんの?色気も何もない鶏ガラのくせして、男の経験なんてないんでしょ」

「鶏ガラではない。スレンダーなお嬢さんと言え」

「ホントに生意気なガキだわね」


「ガキと言えば、先行して出て行った勇者はどうしたのであろうな?何の音沙汰もないらしいが…」

 どんな時も、慎重に事を進める性格の青の勇者セルリアンが呟くと、

「どっかで野垂れ死んでんだろ。随行部隊とはぐれれば食糧も水もないんだからよ。大体、おかしいだろ?勇者として長年鍛練して来た俺らを差し置いて、ぽっと出のガキが魔王討伐に先に出立するなんてよ」

「だが、あのオーラは本物だった。本当の勇者となれば、あのようなオーラを人間族でも纏えるのかと畏怖したぞ」

「ミーも激しく同意する。アレは人の皮を被った化け物」

「確かにな、普通に立っているだけなのにその佇まいだけで圧倒されてしまったわ。勝てる気がせんどころか、前に立つ度胸すら出んかった」

「あたしの好みじゃなかったわね。そもそも年下は論外だし、勇者同士の恋愛なんて意味ないっしょ」

「ぶれね~な女狐めぎつね!あんたは皮の被った包茎者の相手をしてればいいんだよ」

「バカ言ってんじゃないわよモス!第1王子は包茎者じゃなくって、仮性なんだからね」

「いらね~わ、そんな王族の下半身情報」

 緑の勇者モスと白の勇者ソープの女同士の露骨な下ネタ喧嘩に、青の勇者セルリアンと黄の勇者オウドが眉を潜める中、なぜか赤の勇者のグレンだけは赤いフルアーマーの上から真剣に股間を見つめていた。


「勇者様方、随行部隊及び輜重しちょう部隊合計100名の準備が整いました」

 王都騎士団の騎士がグレンに報告する。

「よし、それでは王都中央通りを抜けて城塞都市への旅程を開始する」

 リーダースキルを持つグレンの声はとても良く通り、兵を鼓舞する声質と声量を兼ね備えている。

 5勇者部隊が、王都民の熱烈な歓声を受けて出発して行った。



 



 

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