第10話 オースタンダンジョン

 見事Cランク冒険者になったライオットは、ダンジョンに挑むにあたってソロかパーティーに入るかで悩んでいた。

 宿屋のベッドに腰掛けてあーでもないこーでもないと、独り言をブツブツ言ってるライオットの姿に呆れて、

「昇格試験の時に、自分の課題わかったでしょ?ライオットは数多くのスキルを扱える適性を持ってるけど、熟練度が圧倒的に足りてないの。このままだと器用貧乏で終わっちゃうよ」

 周りをポワポワと浮かびながら、本を読んでいたミューオンが助け船を出した。

「そっか~そうだよね、やっぱりソロで自分を鍛えないとダメだね。勇者の時に仲間を置いてっちゃったから、パーティーでの活動に憧れもあったんだけど、今の僕じゃ足手まといにしかならないよね」

「熟練度が上がったら、もう一度考えればいいんじゃない」

「よし、わかった。明日からソロでダンジョンに潜ってみるよ」

 そう言うとベッドに潜り込み、ライオットはスヤスヤと寝息をたて始めた。

「神経が繊細なんだか図太いんだかわからないね」

 そう言うと、ミューオンも読んでいた本を置いてライオットの毛布の上で目を閉じる。


 朝、目を覚ますとライオットは水魔法スキルで水球を作り出し、顔を洗うとたらいに落とす。

 さすがに聖水を使うのは躊躇ためらわれたし、水魔法スキルの熟練度を上げるためにも頻繁に使うように心掛ける事にしていた。

 朝の弱い妖精のミューオンを起こすと、宿屋の朝食を取り身支度を整えてダンジョンに向かう。

 オースタンのダンジョンへの行き方としては、街の東門を出て少し歩くと二股に道が分かれる。

 右の街道を行くと先日のインス村の方向で、左の脇道がダンジョンの入り口へと続いている。

 細く踏み固められた獣道を歩いて行くと、小高い丘が現れふもとに洞窟への入り口が顔を出した。

 その入り口の横には簡易な木組みの小屋が建ててあり、ギルドの依頼を受けた老齢の冒険者が門番として常駐している。

「こんにちは、Cランク冒険者のライオットです」

 ギルドカードを門番の冒険者に提示しながら言うと、

「ソロで潜るのかい?危険だと思ったらすぐに引き返しな。必要に応じて、退くことが出来るのも立派な冒険者の資質だよ」

 シンプルながら重要なアドバイスをくれた。

「ありがとうございます。ご忠告しかと胸に刻みます」

「ほう、今時珍しい素直な冒険者だな…大抵は稼ぎに目が眩んだ、強さ自慢ばかりの者なんだが」

「僕はまだまだですから…じゃあ行ってきます」

 ライオットが、ダンジョンの入り口へと吸い込まれるのを見て、

「まだまだか…伸び代しか感じられん期待の冒険者だな」

 門番の冒険者は、そう呟いてデッキチェアに腰掛ける。

 懐からパイプを取り出して、刻み煙草を詰めると火を着けて白い煙を吐き出した。

 

 オースタンのダンジョンは、洞窟型で10階層までの深さがある。

 難易度はそう高くなく、出て来る魔物もゴブリン・オーク・オーガとその上位種だけであり、5階層毎にボスが現れるとの事だった。

 ダンジョンに出現する魔物は、倒されると霧となって消滅し魔石とアイテムがドロップされる。

 階層ボスを倒すと、レベルの高い魔石や宝箱が出ることもあるらしい。

 冒険者ギルドや酒場で、ダンジョンに関する情報を集めまくった成果である。

 ライオットは、岩壁だらけのダンジョンを慎重に進む。

 探索スキルと罠スキルを連動させているので、ダンジョンの構造と罠の場所、魔物の居所が様々な色の光点でしるされている。

 隠密スキルも使えば、魔物に気付かれずにサクサク攻略出来るのだろうが、熟練度上げが重要な課題である今、手抜きは許されない。

 ひたすら地道にコツコツと積み重ねる必要がある。

 ライオットはそう考えると、

「なんだかワクワクして来るね」

 顔をにやけさせながら話し掛ける。

「普通、面倒くさがりそうな地味な作業を喜ぶあたり、愚者ジョブにしっかり順応しているみたいだね」

 ミューオンが暗闇の中で、ポアッと光りながら呆れた様に言う。

「まずは、この先の角で待ち構えているゴブリン2匹から行こうかな」

 ライオットが確認する様に言って、岩壁の角から姿を出すと耳の尖った緑色のゴブリン2匹がライオットに気付き、刃がボロボロのなたを振りかざして襲って来た。

 ライオットは水魔法スキルで水の矢を作り出すと、2匹に向けて放つ。

 水の勢いでゴブリン達は吹っ飛んだが、致命傷には程遠いみたいだ。

 やはり使ってみないと解らないことがあるようで、矢としての鋭さがない水鉄砲になってしまったらしい。

 ずぶ濡れにされたゴブリンは、濁った赤い目を怒りで吊り上げると再度、鉈を構えて襲い掛かって来る。

 今度は落ち着いて、矢の鋭さをイメージして水魔法を放つ。

 2発とも狙ったゴブリンの眉間に突き刺さるとゴブリン達は霧となって消滅し、その後には小さな魔石がコロンと転がった。

 魔石を回収すると、

「よし、地道にサクサク行こう」

 ライオットは自分に言い聞かせると、ダンジョンの1階層の奥へと進んで行く。


 次々とゴブリンを水魔法スキルで倒して行くと、罠以外の光点が表示されなくなった。

 ダンジョンの魔物は、倒されても一定時間経つと自然に涌き出て来るので、すべて討ち取ってしまっても問題はない。

 だが、復活するのを待っている時間ももったいないのでライオットは2階層に降りる事にした。

 1階層で倒したゴブリンが、魔石しかドロップしなかったので効率を上げる必要もある。

 岩で出来た階段を降りると動いているゴブリンの数が増え、奥には一回り大きな光点がありオークの表示が出ている。

 この階層では、氷魔法スキルにして氷の矢をゴブリンに対し放ってみる。

 狭い岩壁の通路を塞ぐ様に、3匹のグループで現れることも増えてきたので、氷の矢も複数矢にして攻撃範囲を広めてみた。

 数が多い時には有効かと考えていたが、奥にいたオークの分厚い脂肪の壁には突き刺さらなかった。

 黄土色の肌に多少の傷はついたが、ダメージには程遠いようで、オークは斧を振り回しながら興奮している。

 「ブオーブオー」上を向いた牙のある口と、平べったい鼻から勢いよく白い吐息が漏れている。

 複数矢を止め1本の氷の矢を放つが、斧で弾かれてしまう。

 ゴブリンの3倍程の大きさだが、動きも鈍くなく動体視力も高いようだ。

 攻撃方法を火魔法スキルに切り替え、火の矢を放つ。

 氷の矢と同じく戦斧で弾こうとしたオークだが、火の矢は勢いのままオークの腕に纏わりつくと、肉の焦げる臭いがして来た。

 立て続けに火の矢を放つと、オークは全身を炎に焼かれて消滅し、その場所にゴブリンよりも大きな魔石と肉の塊がドロップする。

 回収して今日の熟練度上げは終了とし、ダンジョン入り口に戻ることにした。

「なあミュー、僕の戦い方どうだった?まあまあの熟練度だったかな」

「うん、ある意味ビックリだったかな」

 ダンジョン内ではしょっぱな以外、無言だったミューオンが応える。

「予想以上だった?」

「まともな装備もろくに持たずに、熟練度の低い魔法スキルのみで戦うとは予想外だったわ!」

「え?装備は、勇者ジョブから解放された時に一式もらってたよね」

「剣よ、剣。あんた、腰にある短剣しか武器持ってないでしょ」

「うん、これだけだけど…」

「それはあくまで護身用兼解体用よ。そんな短剣じゃ超接近戦しか出来ないじゃない」

「確かにそうかも」

「それと熟練度上げも大事だけど、魔力は無限じゃないんだからね。魔力ポーションくらいは準備しときなさいよ」

「はい…」

「まあ、2階層で引き返したのはいい判断よ。あのまま調子こいて進もうとしてたら、ひっぱたくとこだったわ」

「じゃあ戻ったら、剣を買いに行かないとだね。どんな剣にしようかな」

「話聞いてる?ダンジョンでの剣は、重すぎず長すぎずの片手剣にしときなさい。盾は両手が塞がるからライオットには必要なし、障壁スキルで対応出来るしね。それと外套は必需品よ」

「なるほどなるほど、ミューは妖精なのに冒険者について詳しいんだね」

「何言ってんの!別にあんたを心配して、冒険者の心得(妖精版)を寝る前に読んでたんじゃないんだからね」

 ツンデレ妖精のミューオンは顔を真っ赤にすると、ぷんすか怒ってあちこち飛び回った。



 



 

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