第3話 ビッグボア
これからの行動指針は決まったが、それ以上の問題がライオットには発生していた。
「お腹空いた…」
勇者であった期間、1回も食事をしなかった反動が来たようだ。
「それじゃあ、まず獲物を探そうか。探索スキルを発動させてみて」
言われた通りにスキルを発動すると、ライオットを中心とした半径1キロ程の円を感じることが出来た。
「いくつかの光点があるな…移動している光点もある」
「それが今近くにいる生物達だね。大きめの光点に焦点を合わせて、それから鑑定スキルを発動してみよう」
「オッケー、焦点を合わせて鑑定っと…ビッグボアの表示が出たね」
「いいね、ビッグボアのお肉は美味しいらしいよ」
ライオットは、隠密スキルを発動させると素早くビッグボアの光点に向けて移動を開始する。
かなり大きめな豚の魔物であるビッグボアが、鼻で地面を掘り起こして地中にある芋を食べているところだ。
鼻の下に位置する口には立派な牙が生えていて、あれで突き上げられたら只では済まない事は明白である。
ライオットは腰に差してある2本の短剣を両手に持つと剣術スキルを発動、瞬発スキルにより一瞬でビッグボアの近くに移動する。
ビッグボアがその気配を感じるよりも速く、首筋の頸動脈を切断した。
「やるね~、スキルの使い方に無駄がないよ。このまま木に吊るせば血抜きも出来るし、素材の状態も最高なんじゃない」
ミューオンは妖精らしからぬ、肉食系の眼で獲物の状態を観察している。
「久し振りの食事だから美味しく調理したいな、鑑定で調味料になる素材とかわかる?」
「もちのろんさ!鑑定と錬金スキルを組み合わせれば、調味料や入れ物も作れちゃうよ」
「いいね、スキルって便利だね」
ライオットは素早く、ビッグボアを木に吊るすと素材となる木の実や葉っぱ、鉱石を片っ端から集め始めた。
「スキルの有用性に気付くとは見込みがあるなライオットちゃん。それに比べてジョブの種類ばかりにこだわる奴のなんと多いことか!」
ミューオンが何やら
石を組んだかまどに薪を入れ、火魔法スキルで火を起こすとブレンドした調味料を肉にもみ込んで、じっくりと焼き上げて行く。
肉汁が焚き火に落ちる音と匂いが、空腹感をさらに刺激する。
焼けたビッグボアの肉を短剣で切り分けると、木皿に載せてミューオンの方へ差し出す。
ライオットとミューオンは、ヨダレが垂れるのを我慢出来ずに肉を頬張ると、
「う…うめぇ~」
あまりの美味しさに同時に叫ぶ。
「ところで妖精って魔物の肉、食べれるんだね?」
「ふがっ?」
自分の身体と同じ大きさの肉に食らい付きながら、ミューオンがどういう意味だという表情をする。
「だって妖精のイメージとかけ離れてない?」
「自分で狩りをして料理はしないわよ流石に…そんな力もないしね。か弱いから妖精って…でも美味いものを食べるためなら何だってやっちゃうわよ!」
ミューオンは、くわえていた肉を引きちぎりながら、右手を上に掲げて宣言する。
「もしかして、僕へのスキル最適化ってそれも目的なのかな?」
「もちのろんよ!」
「そうなんだ…責任を感じてるだけじゃなかったんだね」
「人生はギブアンドテイク、ウィンウィンで成り立っているんだよライオット。これも経験なのさ!」
久し振りの食事だったので少し食べ過ぎてしまったが、ビッグボアの肉はまだまだたくさん残っている。
「どうしようか?捨てるのはもったいないし、食べ切るまでこの森に滞在するメリットもないんだよね」
「あん?そんなの収納スキルで放り込んどけばいいじゃん。容れてる間は品質も保持されるから腐ることもないよ」
『そんな便利なスキルがあるならさっさと教えてよ』と思いながら、ライオットはビッグボアの素材と肉をせっせと収納空間に放り込んで行った。
収納容量に限りがないとミューオンから聞くと、薪にもなると森の木々を魔法スキルの風刃を駆使して切り倒すと、丸太状態にして収納して行く。
「ずいぶん働き者なんだね…ところで人助けをしたいって言ってたけど、具体的にはどうするの?」
肉でパンパンになった腹を上にしてフワフワしながら、ミューオンが聞いて来る。
「そうだなぁ、ただ歩き回っても効率悪いだけだから…近くの街に行って冒険者登録をするよ。稼ぎにもなるし、スキルの熟練度を上げる事も出来るよね」
「夢見がちかと思ったら、割りと現実的なんだね。地図スキルを使えば、冒険者ギルドがある最寄りの街へのルートが出せるよ」
「お、ありがとう…随分親切だね」
「人間の街での食事も興味があるからね」
「そこはブレないんだね」
「あたりのまえよ!」
空腹が満たされると、今度は耐えきれない眠気がライオットを襲ってきた。ずっと眠らずに行動していた反動なのだろうか、周りを警戒する余裕なんて全くなさそうだ。
ミューオンにその旨聞いてみると、結界スキルを使えば襲われる心配はないと教えられた。
自分に対しては使わせる気ありありだったらしく…「ぐっすり眠れないでしょうが!」との言い草だった。
『妖精なんだから、姿消しとけばいいんじゃないの』とライオットは言いたかったが、あまりに心地よい久し振りの眠気には逆らえず、自分達の周りに結界を張るとすぐに夢の中へと落ちて行く。
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