5

 朝日が降り注ぐ森の中でクミンとオレガノは、腕を組んで難しい顔をして考える。


 地面には木の棒で書いた『魔物討伐依頼○』『狩猟◯』『クエスト✕』などの文字が並ぶ。


「一応討伐として考えた場合は可能ですから○にしましたけど、うちたちには換金する術がないので実際は✕に近いと考えた方がいいです」


「この間みたいにクエストが出ている魔物を先に討伐して、それをその場で売るってのはどうなのじゃ?」


「足下を見られる可能性が高いですが、換金方法がないうちたちには唯一できる手段かもしれません。ただ、そもそもギルドに入れないうちたちでは、討伐依頼の内容把握が難しいですし、討伐にくる冒険者を待つ、というのも現実的ではありません」


 クミンの説明を聞いたオレガノは悔しそうに唸る。


「となると、狩りをして解体屋に持ち込んでお金に変えるのが一番効率がよくなります」


「でも、解体屋はお金がかかるのじゃ。クミンが解体技術を覚えたが方がよくないかえ?」


「色々調べてみましたが、解体するのに森のどこでやってもいいわけではないようです。森の中に部位や血を残すと、他の魔物を呼ぶ可能性が高いので禁止されているみたいです。指定の解体場を借りる必要があるのですが、もちろん借りるにはお金がかかります。そこまでするメリットがあまりないと思うのですけど」


 クミンの説明を聞いて、腕を組んで唸り始めるオレガノに続いてクミンも腕を組んで唸る。


「オレガノ様、人の気配が近づいて来ます」


「なぬ? 余は全然分らんのじゃ」


 唸っていたクミンが突然オレガノを掴んで、木の陰に引き寄せる。木に隠れ覗き込む二人の前を数人の男たちが歩いてやって来る。


「この先にいい採掘場があるんだろ?」


「ああ、規模は小さいが良質な鉱石が手に入る穴場だぜ。とくに奥に行けばサファイアが多く採掘できるって噂だ」


「まじか⁉ そいつは楽しみだ」


「軽く掘って金稼げるんだから、魔物討伐なんてやってられないよな」


「ちげねえ」


 道具の入った荷車を引いた男と、肩にピッケルを担いだ男などが、機嫌よく話しながらクミンたちの目の前を通り過ぎていく。


 男たちが過ぎ去ったあと、クミンとオレガノは目を合わせると、同時に大きく頷く。


 数時間後━━


 町でピッケルと、ランタン、麻の袋を買って手に持ったクミンとオレガノの姿があった。


「先ほどの者たちが向かった場所は把握しています」


「余はサファイアなど宝石類は沢山所持しておったからな、宝石には詳しいのじゃぞ! ちとうるさいくらいなのじゃ」


「うちもメイドと潜入するにあたって、宝石の種類は覚えましたから大丈夫です」


 二人して胸をドンと叩いて、タッチする。


「いざ、サファイアを掘ってこの野宿生活ともおさらばです」


「うむ、今日はなにを食べようか、迷うのじゃ」


「気が早いですよ。オレガノ様!」


 テンション高く洞窟へ向かう二人。


 ***


「……」


「……」


 洞窟に入ってしばらくはピッケルを元気よく振り回していたクミンであったが、今は死んだ目で黙ってピッケルを振るう。


「のう、どこにもサファイアなど見当たらんのじゃが」


「ええ……一応確認するんですけど、サファイアって青く澄んだ宝石ですよね?」


「そうなのじゃ。透明感のある綺麗な青い宝石なのじゃ」


「ですよね」


 クミンとオレガノは足もとに転がる石ころを見て首を傾げる。


「もっと奥にあるかもしれないのじゃ」


「そうですね。もう少し奥へ行ってみましょう」


 ピッケルを肩に担いだクミンはオレガノと一緒に洞窟の奥へと進む。メイドの格好をしたクミンだけでも目立つが、さらに洞窟に小さな女の子を引き連れているせいで余計に目立つ二人。


 彼女たちが去ったあと、地面に落ちている石を拾う影が複数あった。


 ***


「ふんっ‼」


 クミンの渾身の一撃は洞窟の壁から飛び出ていた、一際大きな塊を砕き地面に落とす。


 額の汗を拭うクミンの足もとで、しゃがみ込んだオレガノが、ランタンの明かりを頼りに砕けた石を掴んで睨む。


 続いてクミンもしゃがんで石を拾うが、眉間にしわを寄せ渋い表情をする。


「ありませんね」


「サファイア以外でも、ルビーとかダイヤとかでてくるかと思ったが、一つも出てこんのじゃ」


 石ころを摘まんで同時に投げた二人は、同時にため息をつく。


「鉱石を掘るってのはいいアイデアだと思ったんですけど」


「うむぅ、ピッケルと麻の袋、ランタン代がかかっただけじゃったな」


「うぐっ! ま、まあ今後も使えますし無駄ではないはずです」


 オレガノに痛いところをつかれ、胸を押さえるクミンがヨロヨロと立ち上がる。


「お腹も空きましたし、今日は帰りましょう」


「余もお腹空いたのじゃ!」


 勢いつけぴょんと立ち上がったオレガノが満面の笑みを見せると、クミンも疲れた顔に笑顔を浮かべる。


「今日はなにを食べましょうか」


「余は魚がマイブームなのじゃ。あれはうまいのじゃ」


「では魚を買って帰りましょう」


 二人は言葉を交わしながら洞窟をあとにする。


 そして━━


 二人がいなくなった洞窟を複数の光がゆらゆらと動き、集まってくる。

 それらの光に照らされた、ランタンを持った男たちは、クミンが砕いた岩の周辺を探る。


「おい、これはサファイアだ」


「こっちもあったぞ。しかも結構デカい」


 急いで石を袋に詰めていく男たちは、クミンが砕いた壁を見る。


「あの女、この壁を一人で砕くとかどんだけ馬鹿力なんだ」


「だが、鉱石の知識はなさそうだな。大方サファイアがそのまま埋まってると思ってた口だろうが、周辺を砕くだけ砕いて帰ってくれるんだから、俺らからしたらラッキーだよな」


 クミンが砕いたサファイアの原石を袋に詰めながら男たちは、うんうんと頷きクミンに感謝するのだった。

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