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「ま、まあいいのじゃ。ところでクミンよ。これからどうするのじゃ?」


「いや、どうするもなにもうちは、はじめに言った通り実家へ帰って……って連れて行きませんよ」


「ひゃん!」


 期待に満ちた目で見ていたオレガノをクミンが鋭い視線で一蹴すると、変な声を出しながら目をバッテンにして、倒れそうになる。


「でもでも、だってぇ」


「でもも、だってもありません! 無職になったうちですら実家がすんなり受け入れてくれるか分からないのに、素性のよく分からない幼女を連れて帰れますか! 近所に変な噂をされるに決まってます」


「じゃあ余はどうすればいいのじゃ?」


 怒るクミンに、頬を膨らませご立腹なオレガノが文句を言う。


「ど、どうすればいいって……それはお金を稼いで、生活すればいいんじゃないですかね」


「お金の稼ぎ方が分からんのじゃ」


「そんなに、自慢気に言うことじゃないでしょう。今までどうしてたんですか?」


「今までは、余が提案したことを部下たちが実行してくれておったのじゃ」


 胸を張って言うオレガノに、クミンが額を押さえ神妙な面持ちで見つめる。


「って言っても、魔王になる前はなにかしていたでしょう?」


「魔王になる前は、ずーと戦争じゃったからの、暴れまわっておったのじゃ」


「脳筋幼女とか救いようがなさすぎる……」


 クミンは頭を抱える。


「お、そうじゃ!」


 手を、ポンっと叩き声を上げるオレガノをクミンが見ると、満面の笑顔で見返される。


「人間どもがクエストを受けて報酬もらうやつ、あったじゃろ? あれじゃ、あれで稼げばいいんじゃ」


「はぁ〜、あれ、じゃ分かりません。ギルドですよね。おっしゃりたいのは?」


「それじゃ! それじゃ! 大昔人間の世界に潜伏したとき人間どもが「ギルドで一稼ぎしようぜ!」的な話をしていたのを聞いたことがあるのじゃ」


「どうじゃ」と言わんばかりのオーラをまとったオレガノが、クミンを見てくる。


「あのですね。ギルドの主な依頼は『採取』『討伐』になります。そして討伐には、うちら魔族も含まれるわけですよ。どこの世界に、討伐対象の魔族をギルドに登録させてくれる場所がありますか」


「うぬぬぬ、じゃがクミンならいけそうじゃないかえ? 見た目もほぼ人間と変わらんし」


「そもそも、なんでうちが働くことになってるんですかね。それにギルドに登録するには、出生届と身分証がいるんです。うちの偽造証明証では、屋敷にメイドとして潜入くらいはできても、ギルドでは通用しません。それにもっと厳しい審査があるので魔族だと100パーセントバレます。なので無理です」


 完全否定され、しょんぼりするオレガノを見て、クミンがポツリと呟く。


「個人的に魔物を狩って、その皮や肉を店に持ち込んで売る……とかならできなくもないかなと」


 顔を上げ目をキラキラ輝かせるオレガノの視線を受けて、クミンは発言したことをちょっぴり後悔してしまう。

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