生活に必要なものはお・か・ね
1.脳筋メイドと脳筋幼女
森を駆ける熊型の魔物は血塗られた熊なんて大層な異名を持ち、ブラッディベアーと呼ばれている。
太い腕の先にある鋭い爪で獲物を一撃で仕留めるブラッディベアーは、突如現れた凸凹な二人組に両手を上げて威嚇する。そのとき、胸元の月の形の生えた赤毛が露わになる。
「おおお、ほ、本当に大丈夫かえ?」
「問題ありません」
凹なオレガノが震える声で尋ねると、凸の方であるクミンが自信有りげに応え、手に握った短剣を投げブラッディベアーの胸元に突き立てると、繋がっている糸をピンと弾く。
「爆ぜろ」
派手な爆発が起き、ブラッディベアーは力なくその場に倒れる。
「おおおっ!? 凄いのじゃクミン! これでコヤツの素材を剥ぎ取って売れば、お金が手に入るわけじゃな!」
興奮してブラッディベアーの周りをぴょんぴょんと跳ねながら走るオレガノに対し、クミンの表情はどこか暗い。
しばらく観察したあと、ブラッディベアーの側でしゃがむと短剣の先端を近づける。
そのまま先端をチクリと刺して首を傾げる。短剣の向きを変えたり、立ち位置を変えて観察したりするクミンを見て、オレガノが口を開く。
「のうクミンよ。まさかとは思うのじゃが、剥ぎ取り方が分からないとかじゃないじゃろうな」
背後で腕を組み圧をかけるオレガノに、クミンが冷や汗をタラタラ流したあとガックリと項垂れる。
「わ、分かりません……」
「先に言えなのじゃ! 狩ってからできませんて、なんなのじゃあ!!」
「やればできるって思ったんですー。裁縫得意なんで、できるって考えたんですー! 大体うちの本業は暗殺業なんです。狩ったあとの始末とか知りませんよーだ」
「なんじゃ開き直りおって! じゃあこの獲物はどうするつもりじゃ」
お互い言い合ったあと、クミンに燃やされプスプスと黒い煙を上げるブラッディベアーを二人は見つめる。
「そうです! 人間の職業に解体屋というものがあります。自分で加工できないものを素材に加工してもらい、他の道具に使ったり、売ったりできるんです!」
「なんと! そのようなものがあるとは人間もやりおるのじゃ! 早速持ち込むのじゃ!」
その場でぴょんぴょん跳ねながら、再び喜ぶオレガノに対して、クミンの顔に影がさす。
「そ、それが……大きくて運べないんですよね……これが」
「な、なんじゃと! なんでこんな大きな獲物を狙ったのじゃ! 小さいのにすればよかったのじゃ」
「小さかったら解体失敗できないじゃないですか! 大きければこう、ばぁーって大雑把に切っても売れるかなーって思ったんですー」
「クミンはいい加減なのじゃ! もっと計画的にやれなのじゃ!」
「ボッチのモモちゃんに言われたくありませんよーだ!」
お互い両手で組合いながら罵り合う。
「ぐぬぬぬぅ」
「うぬぅー」
もはや言葉ではなく唸り合う二人の近くにあった藪が揺れる。
慌てて身構えるクミンと、急に手を離されバランスを崩したオレガノはその場に転がってしまう。
「なんだあんたたちは?」
出てきたのは、軽装な鎧を着て武器を持って武装をした男たち、つまりは人間の冒険者。そのうちのリーダーと思わしき男が、倒れているブラッディベアーとクミンたちを交互に見る。
「これはあんたらがやったのか?」
「え、ええまあ」
警戒を解かないままクミンがリーダーの問いに答えると、ムクリと起き上がったオレガノが口を挟む。
「余たちはこのブラッディベアーを解体して売ろうと思ったのじゃ。でも、解体の仕方も分からんし、重くて運べなくて困っておるのじゃ」
オレガノの言葉を聞いたリーダーが腕を組んで考えたあと、仲間の一人に手招きをする。
「今いくらある?」
「えっ、えーと15,000エンだけど」
「そうか、分かった。なあお嬢さん方、提案なんだが、そのブラッディベアーを、この場で15,000エンで買い取らせてくれないか?」
リーダーの提案に警戒したまま考えるクミンの前にオレガノが躍り出てくる。
「売る! 売るのじゃ!」
「い、いえ……相場も分かりませんし」
「でも運べないなら、ゼロなのじゃ。だったらここでお金にする方がお得なのじゃ!」
オレガノの提案にクミンは言い返せずに黙ってしまう。
「あんたのお子さんもこう言ってるけどどうする? 無理にとは言わないが、この大きさのものを運ぶだけでも金がかかる。悪い提案じゃないと思うがね」
「一つ訂正させてください。この子はうちの子供ではありません」
「わりぃーって。謝るからそんな怖い顔しないでもらえないか」
殺気立ちながら全否定するクミンに睨まれ、リーダーは頭を掻きながら笑って謝る。
「分かりました。15,000エンで、このブラッディベアーをお譲りします」
「商談成立だ。こっちが報酬だ」
リーダーが差し出したお金をクミンが受け取って確認する。
「確かに、ではこちらのブラッディベアーはお譲りいたします」
「そのお金で旨いものものでも食べてくれ」
いい笑顔を見せるリーダーと冒険者たちと別れ、クミンとオレガノは村へと戻る。屋台で食べ物を調達すると、村にある宿に宿泊する。
「ふむ、食べ物は祭りのおかげでただじゃし、宿代だけで済むから良かったのじゃ。祭りの名前は気に食わんのじゃが……」
「ええ、ひとまず寝る場所が確保できましたし、明日からどうするかを考えないといけませんね」
宿屋のベッドに腰をかけ大きく伸びをした二人は、疲れていたのか横になるとすぐに眠ってしまう。
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