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瓦礫と化したディザスター魔王城を裸足でペタペタと歩くオレガノは、口を半開きにしたままキョロキョロと辺りを見回す。
「酷いものじゃ。過去にも勇者が攻めて来たことはあったが、城ごと壊すなんてなかったのじゃ。そうじゃ! クミン以外に生き残りはおらんかの?」
酷い有り様に今にも泣きそうな表情になるオレガノの前を歩くクミンは、前を向いたまま首を振る。
「うちは四天王のレイブン様に逃されて、運良く生き残っただけです。一緒に逃げた仲間も勇者一行の魔法使いの使った隕石落としで、おそらく生きてないかと……」
「隕石落としじゃと!? あの魔法使いは天変地異系の禁断魔法であるメテオの魔法を使用するのか!」
目をまん丸にして驚くオレガノは、頭を抱えてしまう。
「うちだってメテオなんて学校の授業で、こんな魔法もありますよーって習ったくらいの知識しかありませんし、目の前で魔法使いがメテオの言葉を発したとき耳を疑いましたもの」
周囲を警戒しながら歩くクミンが、話す内容にオレガノは頭を抱えクラクラ振りながら、目をぐるぐるさせる。
「つまりあの勇者パーティは全員がただ強いだけでなく、伝説級の魔法を使える、つまりはチート級のスキルを持っている可能性があるってことじゃな。とんでもない人間が集まったものじゃ……ふぎゃ!?」
下を向いてトボトボ歩くオレガノが、突然足を止めたクミンにぶつかり叫ぶと、少し赤くなった鼻を擦りながら文句を言おうと口を開けるが、それはクミンが口を塞ぎ阻止されてしまう。
「しっ! 静かにしてください。誰かこちらに向かってきます」
真剣な表情のクミンの言葉に、ただ事ではないと察したオレガノは無言で何度も頷く。
そのまま瓦礫の影に身を隠した二人の近くに人の気配が近づいてくる。
「なかなか派手にやったな」
「ああ、さすが人類最強勇者パーティだぜ」
どうやら男二人組のようで、オレガノとクミンの隠れる瓦礫の前で立ち止まって話し始める。
「こんだけ派手に暴れておいてまだ暴れ足りねえって、今度は西の魔王を討伐するって旅立って行ったぜ」
「とんでもねえやつらだ。どっちが魔王だか分かんねえな」
「ちげえねえ。だがあいつらのおかげでこうして金目の物を探せるってわけだ」
「ここの魔王オレガノだったっけ? アイツ何百年も生きてたはずだからタンマリ溜め込んでるに違いないぜ」
そう言って男たちが下品な笑い方をして去っていく。
瓦礫の影に隠れていたオレガノが膝を抱えて座り込む。
「余の城に火事場泥棒が入るとは、いよいよ終わりじゃの」
涙をポロリとこぼすオレガノを黙って見ていたクミンが、無言で手を差し出す。
「とっとと行きますから、立ってください。ここにいたら他の火事場泥棒と出くわしかねないですから」
涙を拭った腕でクミンの手を掴んだオレガノは、引っ張られて立ち上がる。
そして歩きだしてすぐに、クミンが周囲を警戒しながらポツリと呟く。
「名前……変えたほうがいいですよ。生きていくつもりなら、魔王オレガノの名は目立ち過ぎます」
クミンの呟きに、オレガノは目を丸くして驚きの表情を見せ、口をモゴモゴさせ何かを言おうとするがすぐに肩を落とし無言で頷く。
二人は無言のままで瓦礫の山となった、かつての魔王の城、ディザスター城を歩く。
途中、二、三組の火事場泥棒と出会うがいずれも隠れてやり過ごす。
やがて城を出た二人はうっそうと茂る森の前に立つ。
「余の城にくる侵入者を迷わせ、ときには死に至らしめる呪縛の森もこんなに立派な道が出来ては、誰でも魔王城に来れるわけじゃな」
森の丁度真ん中辺りに真っ直ぐに走る大きな一本道は、元からあったものではないのは道の左右の木々が押し倒され、折れていることからもうかがい知ることができる。
「警備兵の話しだと、森の向こうから衝撃波が木々をなぎ倒しながら走ってきて気づいたときにはこの道ができていたらしいですよ。
その道を勇者一行が悠々と歩いて向かって来るのを見たと、城内で騒ぎになってました」
「なにからなにまで規格外のヤツラじゃの……」
誰も迷わせることができなくなった森を見て、オレガノは呆れたように深いため息をつく。
「さてクミンよ、余はここまででよいのじゃ。付き合わせてすまなかったのじゃ」
寂しさの混ざった微笑みを向けられクミンは戸惑った表情を見せるが、声を出す前にオレガノが首を横に振る。
「余は敗北した魔王なのじゃ。地位も名声も力すらない余と一緒にいても未来などないのじゃ。クミンの実力ならば新しい就職先もすぐに見つかるはずじゃ」
そう言ったオレガノはマントを摘んでクミンにアピールする。
「このマントも嬉しかったのじゃ。ワガママを言ってすまんかったのじゃ」
「で、でも行く宛はあるのですか?」
「小さくなっても元魔王じゃ。伊達に長年生きておらん、頼れる知り合いくらいごまんとおるのじゃ!」
胸を張るオレガノに何か言いたげなクミンだが、オレガノは口を挟ませないよう言葉を続ける。
「クミン、先ほどのガーゴイルとの一戦、見事であったのじゃ。その実力を持ってすればすぐに新しい就職先でも活躍間違いなしじゃ」
歯を見せニヒヒと笑って見せたオレガノはマントをひるがえし、クミンに背を向ける。
「それじゃあ体に気をつけてやるんじゃぞ」
マントを引きずって足早に森の中へと去っていくオレガノを、黙って見送ったクミンは拳を握り下を向くが自分を納得させるように頷き、オレガノが向かった森とは反対の方を向いて歩き始める。
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