第13話 課金勢ならガチャを躊躇うワケないっしょ!(なおガチャ爆死は今まで体験してきたけどさ、これはちょっとヒドくない?)


「サリア、似合っているわ」

「この日を待ちわびていたぞー!」

「サリア、流石は私の可愛い妹! もう可愛いしかないし、私のめかけにしたいよ!」


 成人の儀を前に、用意された正装に着替えた私をまっとうに褒めてくれるお母さん。


 暑苦しいお父さん。でも、前世ではココまで見てもらえなかったから、嬉しい。でも、暑苦しい。

 そして、お姉ちゃんの愛がさり気なくおも――。


「……って、妾ってどういうコト?!」


 聞き捨てならない台詞に、思わず目を剥く。時々、お姉ちゃんはドコまで本気なのか、本当によく分からない。


「にゃははははは! そんじょソコらの男にサリアはあげないってことだよ☆」


 ニパッと笑う。いや、その前にお姉ちゃんの嫁入れが先だって思うし。そもそも、今は他の男性ヒトなんて、とても考えられない。


(望みが高いよね、はたから見れば)


 今でも、私の瞼の裏に焼きついているのは、あの三人で。冷静に考えてみれば、このゲームの設定ってすごいよね。田舎娘――平民と、王族や貴族との恋物語。これはまさにシンデレラ・ストーリーだ。


 村娘視点で分かったことは、旅はそんなに容易くない。圧倒的な戦力を抱える貴族。もしくは、財力のある商業組合キャラバン、一念発起した冒険者か。


 そう考えると【天球儀の契りガチャ】でAランク冒険者。彼らはスゴいと思ってしまう。危険を顧みず、街から街へ、国から国へと移動するんだもん。


 当時の私は、彼らを素材要因としか思っていなかった。

 どうか許してほしい、って思う。未だこの村で足踏みをしている私は、本当に申し訳ないって、気持ちでいっぱいだ。冒険者、舐めていた。反省しきりである。


 ちなみに【天球儀の契りガチャ】で巡り合うのは、崇高な彼らの意志。タマシイだった。もしくは、英傑ユニットのための神装コス。三傑推しの私にとっては、こっちの方が嬉しかった。今でもアイテムボックスには、そんなユニットやコスが多数収納されている。


(……ま、チュートリアルが始まってなかったから、神具デバイスも起動できなかったんだけどね)


 未だに執事コンシェルジュを起動させていない。リプレイでもあの長い、説明を聞かないといけないのは、このゲーム最大の欠点だと思う。


 村の広場に、成人の儀を控えた同年代が、集まってきた。

 男子は深緑の狩人装束。


 女子は、白の僧衣。つまり聖女の出で立ちだった。

 私は、萌黄色の狩人装束。明らかに、異彩だった。


「可愛いじゃん、サリア」

「お前、本当に狩人やるつもりかよ?」


「バカ、狩人じゃなくて。姫巫女だろう」

「サリアが巫女ってガラかよ?」

「あら? 見る目ないわね。サリア、本当に可愛いー。私のお嫁さんになってよ~」


 それぞれ、勝手なことを言う。うん、君はうちの姉に毒され過ぎだからね。


(それにしても……)

 どうしても、三傑を見た後だと、村の男子が子どもに見えてしまう。


 子どもじみた言動キャラといえばジェイスだが、そんな彼も魔術師――貴族としての責をすでに背負っている。その覚悟は、彼らとは比べようが――いや、比べることは彼らにも失礼だ。村娘の私だって、感覚的には何ら変わりはしないのだから。


「それでは、これより成人の儀を開催するっ!」


 村長の声がとともに、開かずの教会――その尖塔から、鐘がなり響いて。

 この時のみ入ることが許される教会へ。

 私達は、足を踏み入れるのだった。





■■■






 ごくり。

 唾を飲み込んだだけで、その音が礼拝堂内に反響しそうだった。


 外から見たひなびた教会とは対照的に、礼拝堂に足を踏み込めば塵一つない。静謐な空間――と一言で表現するには、あまりに異質だと思ってしまう。


 確かに、床石を踏んでいる感覚はあるのだ。

 だけれども。


 一面に広がる星空、星雲、銀河。

 前世の知識で表現するとしたら、プラネタリウムか。きっと誰も分からないと思うけれど。


 私は、惑星を模した天球儀の存在から目を反らせない。あんなに巨大で、時にあんなに遠くて。あれは、神が棲まうと言われる天球アーク。実際には、神なんかいない。天球儀の民が打ち上げた、超巨大衛星。それが天球アークの正体だった。


 天球儀の民、その隠れ遺跡。


 その一つ、始まりの村は、序章で魔女ウィズベルに滅ぼされる。実際のゲームでガチャは、第1章までお預けになるのだが――。


 村は無事だ。

 三傑は無事だ。

 聖地も無事。


 天球儀は此処にある。なんだか、不思議……思わず、そう呟いて――声の反響具合に、慌てて口をおさえる。


「それでは、名前を呼ばれたものは前に出よ。アスラン」

「はいっ」


 私に憎まれ口を叩いたアスランが前に出た。

 促されるように、天球儀がアスランの前に接近する。


 彼が、巨大な天球儀に触れた。

 深緑の――狩人装束と同じ色彩の光が波打つ。


「アスランは、悪魔狩りとして天球儀と契りを得た。以降、励め」

「応っ」


 向上は事前に練習をしていた通り。どうやら、この儀式をもってスキルが解放されるらしい。


「次、ジェミニ」

「はい」


 私の狩人装束を褒めてくれた子だった。同様に、天球儀へ手を触れる。今度は、閃光といっても良い、白い光が波打つ。


「ジェミニは、聖女として天球儀と契りを得た。以降、励め」

「はいっ」


 後は、その繰り返しである。

 本来、天球儀は課金ガチャシステムだ。


 英雄ユニット神装コス魔術マジック、魔石――。

 もちろん素材系ダンジョンで手に入るモノも多いが、やはりこのゲームは、他のスマホゲーム同様に、課金ガチャの恩恵が大きい。


(それは良いとして……)


 考えろ。ちゃんと、考えるんだ。私は思考を巡らす。

 ココは天球儀の間だ。


 それは、ガチャができる、ということで――。


 神具スマートフォンを起動する。

 本来、起動してすぐチュートリアルが開始されるが、今はイベント中。チュートリアルはキャンセルされた。


 レベル、


(あれ? レベル、上がってない?)


 ま、その検証は後で。肝心なのは、ガチャを回すための魔晶石の数である。神具スマートフォンの画面をフリックする。


 魔晶石、32,487個。ガチャを回すのに100個。10連続ガチャで、当選確率がアップ。さらに10連ガチャをさらに10連続回すことで、当選確率をブースト。でも、今は儀式の最中。そんなこと、許される気がしない。


(天球儀の契り、か……)


 念じる。

 祈る。


 そう、英傑や英雄と結びつけるための、天球儀。時に、時代や場所をねじ曲げる。それなら――。


「サリア!」


 名前を呼ばれた。

 魔晶石を、掌の中に隠す。知らない人は、石粒にしか見えないと思う。この一粒に魔石よりも高純度の魔力が眠っているのだ。


 なお、魔結晶による魔術の行使は、推奨されていない。システム上も不可能だ。唯一、ジェイスが魔術学院の練習棟を全壊させたイベントがあったが、それも今となっては懐かしい。貴族様がもたらした損壊を主人公ヒロインが賠償したのは、未だ解せないけれど。


 魔結晶が重なって、一粒の結晶になった。これで10連続ガチャ分、1000結晶を纏めたことになる。ゲームでは、単純に魔結晶を消費するだけなので、リアルでどうなるのだろうと思案したこともあったけれど。


(こうやって錬成していたんだね)


 納得だった。長老が私に視線を向け、訝しむ。お構いなしに、私は天球儀に触れた。


 すっ、と。

 天球儀に魔晶石が吸い込まれる感覚がする。

 私は念じる。


 ゲームなら、ここでダイアログが出るはずだが。これはゲームではなく、現実だから。私が祈るしかない。



 ――天球儀の加護よ、我にえにしを導け。


 祈る。

 念じる。

 願わくば、三傑との物語を――。




「な、何が?」

「え、成人の儀でこんなことが?」

「みんな、離れて!」


 慌てふためく声を遠くに聞きながら。

 天球儀と、私の魔力が同調する。


 瞬きすら困難なくらいに、光がうねる。

 正直、召喚の動画モーションは常にスキップしていたが、これは――。


(……無理よね?)


 光が波打って。

 津波のように押し寄せる。

 目を閉じても痛いくらいに、光が灼きつく。とても、正視できない。


(誰……誰が……召喚されたの?)


 ゆっくり、私は目を開けて――。







■■■






「陛下?! 宰相閣下?!」


 まさかの長の声に、私は硬直してしまった。


「……え?」


 私、ガチャでを引いたの?

 え――?




「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ?!」」」」」」」」



 そんな戸惑いの声が、礼拝堂に響いたのだった。

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