第14話 メインシナリオに進めるのなら、選択するしかないっしょ!

「……陛下、でございますか?」

「……久しいな、天球儀の」


 一瞬の戸惑い。困惑。それもすぐに切り替えて、長は伏礼。私たちもすぐに倣った。

 一方の国王からは、威圧感をビリビリと感じる。


(これ、王威おういじゃない?)


 第3王子、ウィリアムがシナリオの進行とともに覚醒させる固有スキルた。言うなれば、王者の威厳。意志薄弱な者なら一瞬で、鎮圧してしまう気迫。まさに王者の名にふさわしい。


 悪辣ザコな貴族庶子に囲まれた際『頭が高い』と一喝して王威を発動。そこからの「王子の名を騙る偽物じゃ――ぶべらっ」までが、最高に美味しい展開だった。まぁ、そんなシナリオは、メインシナリオから外れた私には、、もう縁はないんだんだけれど。


(それにしても国王って、こんなキャラデザだったんだねぇ)


 ゲーム本編のメイン舞台は王立魔術学院だ。そしてご対面する前に、クーデターにより、崩御。隣に立つ宰相、アイゼンバーグ・テットリアが悪魔デーモンに魅せられたのだ。この二人が、ともに立つ姿は、元プライヤーの私には元プライヤーの私には違和感しかなかった。


「彼女が、天球儀の姫巫女か」

「左様でございます。サリア、ご挨拶を」


 長が促し、陛下が鷹揚に頷いた。


「……恐れいります。王国の尊き太陽、国王陛下にご挨拶申し上げます。天球儀の民、サリアでございまちゅっ」


 噛んだ。恥ずかしすぎる――。

 終わり良ければ全て良しの対義語は、どんなによくても最後が台無し、バッドエンド。うん……私は身をもって学んだよ……。考え事をしながら、言うもんじゃない。


(でも、さ?!)


 誰に向かって言ってるんだって話だけれど、さ。プレイヤーとしては、由々しき事態なワケよ。だって、魔結晶を注ぎ込んで、10連ガチャを引いたのに。実際は、国王と宰相の2ユニットだけ。これは運営に苦情レベル――そう鼻息を荒くした瞬間だった。


 神具スマートフォンが震える。


 ▶英傑ユニット、現国王 アルフレッド・アスレイ・ローデンブルクと天球儀の契りを結びました。

 ▶英傑、宰相 アイゼンバーグ・テットリア天球儀の契りを結びました。


 やっぱりガチャを引いたんだ。宰相とか、どうしろって……


 ▶中級魔石セットを獲得しました。


 お? 序盤にコレは良い。魔石は素材用ダンジョンで獲得できるけれど、序盤は矯正イベントが多い。効率的に戦闘を切り抜けられる。でも、できれば英傑がもっと欲しい。


 ▶男性用競泳水着×3 獲得しました。


 ふぁさっと、私の手に水着が落ちてくる。

 これ? 季節イベントのレアもんじゃん! と興奮している場合じゃない。今この厳粛な場で、男性用水着を持っている私、変態でしかなくない?


 でも、10連ガチャは、まだ終わっていない。次に何が出るか――。


 ▶聖女の勝負下着を獲得しました。


 真っ白い上下の下着が――宰相の頭に降った。


(まってぇ?!)

 厳つい表情で、ブラジャーをウサミミのように乗せないで! 私の腹筋が崩壊す――。





「「「待ってぇぇっ?!」」」


 聞き馴染んだ、声が谺する。

 天球儀が動く。


 無数に流れる文字の羅列。あまりの情報量の多さに、私の思考は追いつかない。

 ぐるんぐるんと、球体が動いて。


 空間を歪めるかのように、視角がブレた。悪酔いしそうで。

 これって、レア以上確定のエフェクトだった。




▶SSR 三傑 ウィリアム・アスレイ・ローデンブルクと天球儀の契りを結びました。

▶SSR 三傑 レン・ラースロットをと天球儀の契りを結びました。

▶SSR 三傑 ジェイス・ボルノモードと天球儀の契りを結びました。


 私は唖然とする。


 三傑は、イベントユニットだ。イベント素材で進化させるしかないし、絶対にガチャでは引けない。実際のゲームでは、王立魔術学校の図書室奥――禁書庫で、英傑の一人が、成人の儀をなす為に。


 そこで、ようやく主人公ヒロインは三傑以外の従者を得る。そして天球儀の託宣を聞くのだ。貴方に、未来を託しましたよ、と。そう、こんな風に……。




 ――転生したんだから、ハーレムを目指すしかないっしょ!


(……はい?)


 これは託宣なんだろうか。

 私は目をパチクリさせる。


 どういうこと?

 意味が分からない。


 混乱した思考のまま、三人の視線を受け止める。

 不安、恐れ。それ以上に、期待に満ちた視線を受け止める。


「ウィリアム、レン、ジェイス? これは、どういうことだ……?」


 陛下の狼狽した声で、私はようやく我に返った。

 どうやら、私のゲームはまだ終わっていないらしい。






■■■






「えーっとですね」


 ジェイスが困ったように、頬を掻いた。宰相が、不快そうに目を細める。王の御前だ。無礼講を許されたとはいえ、ジェイスはいつも態度が軽いから、貴族連中とトラブルになることが多い。


「よい」


 陛下はふんわりと笑んで、紅茶に口をつけた。それから、お姉ちゃんに向けて満足そうに笑む。姉の淹れた紅茶は、一級品だと常々思っていたが、王族にも通じる――って、ピースサインは止めて?! 不敬って断罪されたらどうするの?


 場所を、長の屋敷に変え、この会談は始まった。


 この村に不釣り合いなお屋敷は、王族を迎えるためだと知る。陛下、アイゼンバーグ宰相、長、ウィリアム、レン、ジェイス、お姉ちゃん、そして私という面子で――私が一番、この場所に不相応な気がした。


「ジェイス、俺がご説明するよ」


 そう言ったのはウィリアムだった。ジェイス、露骨に胸を撫で下ろさないの。


「陛下、天球儀の姫巫女が覚醒したことは、ご報告した通りです」

「……うむ」


「陛下は状況を見て、視察団を送るとおっしゃいました」

「そうだな」


「……しかし、私はそれでは遅いと判断し、彼らに意見を募った次第です」

「ほぅ?」


悪魔デーモンは王国に巣喰っている。その証左でありましょう。ならば、一刻も早く、天球儀の姫巫女を保護すべき。しかしながら、派遣される騎士では天球儀のことは理解できない。魔術師は、現体制では派遣できない。そもそも、天球儀を知る者は王族以外にいない。となれば、彼女を魔術学院に招聘し、保護すべきと考え、ジェイスに頼み時空魔術を試みました」

「殿下の全属性のお力を借りてね」


 ニパッと空気を読まずに、ジェイスが言う。宰相が睨むが、それを意に介すジェイスじゃない。


「座標軸とやらがズレたらしいが、な」

「レン、それは言わないで!」


 時空魔術はシナリオが進むと、各地域を移動できる便利な魔術だ。私は神具に目を落とす。



 ▶時空魔術は失敗すると、肉体が欠損して転移する可能性があります。習熟度に留意しご使用ください。


(こわっ?! そんな危険魔術だなんて、知らなかったよ!)


 そんな私の心の声など知るよしも無く、会談は続く。



「恐れながら、殿下。その判断のための視察団を――」

「アイゼンバーグ、それじゃ遅いんだよ」


 ウィリアムが打ち消す。


「これまで成人の儀のみで、天球儀の民と接触してきた。要は儀礼的な要素でしかない。俺自身、お伽噺だと思っていたからね。それがどうだ、王立魔術学校の禁書区域で調べれば――王家の歴史、根幹を揺るがことばかり。ようは、魔術を行使すればするほど、悪魔に餌をばら撒くワケだ」


「……殿下、それは――」


「その悪魔を封じ込めていたのが、天球儀の民だ。それがどうだ、今回の悪魔の出現。天球儀の里の危難。これは宰相として、軽視すべき案件なのか?」

「言うな」


 止めたのは、王だった。私は、無言で、このいきさつを見守るしかない。


「王家の裏歴史は、あくまで王族のみの口伝。宰相はあずかり知らぬことよ。ここ数年の魔術の進化がもたらした弊害とも言えるが、人の探求を止められるものでもない。全ては私の愚策故だ」


 王は思案しながら顎髭を撫でる。


「三傑よ、この件は第一王子、第二王子もまだ知らぬこと。お主らの胸のうちに収めておけ。宰相、箝口令を敷くように」


 三人と宰相は深々と頷く。


「さて、天球儀の姫巫女や」


 陛下が、柔和な微笑を浮かべ、私に視線を向けた。


「突然のことで戸惑ったとは思うが、貴女の考えを教えてもらえぬか?」










 私は、唖然としながら彼らを見やる。


 主人公ヒロインが本当は誰なのか分からない。でもメインシナリオに続く道を垣間見ることができた。これはいってみたら、三傑みんなのおかげだと思う。

 だったら、私が踏み込まないって手はない。


(でも今は、それよりも――)






 宰相の頭の上に乗る下着を何とかして欲しい!

 全然、天球儀の思し召しとかじゃないから!

 本当に止めて!

 神妙な眼差しを私に送らないで!

 私の腹筋が崩壊しかけて――。





 序章 チュートリアル閉幕。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る