今日も俺は凪いでいる〜【予言】によって集められた王国選抜PTに選出されたスキル【凪】のめんどくさがり屋な俺、やっと追放されたが雑用係のボクっ子がついて来た〜

第1話 “静寂の申し子”


☆新連載☆



  ◇◇◇◇◇



 ――世界樹ダンジョン-123階層「泡立洞窟」



「テメェはクビだ、ルーカス」



 “オークウェル”のリーダー……えっと、名前はなんだったかな? 一年弱一緒にいるが、いまだにコイツの名前はあやふやだ。


 まあ、弱者をいじめるとかそんな無駄な事に労力を使って自分の優位を主張するタイプのバカだが、このパーティーのリーダー……うん。“リーダー”はニヤニヤと笑いながら俺の追放を宣言した。



「そうだ! そもそもなぜ貴様が選ばれた?」

「マジで何もしてないよねぇ?」

「確かにオヌシがいても居なくても一緒じゃなぁ」



 えーっと……。“その他”!! 

 ……うん。デカブツ、ビッチ、ジジイがリーダーを肯定するように沸き始める。


 思ったより時間はかかったが悪くない。

 口を開けば、クズだ、無能だとやかましくて敵わなかったし、そろそろ限界も近かったしな。

 

 俺は「ふっ」と小さく笑い、「わかった」と声をあげようとしたが、いつも美味しい飯を作ってくれる……“ボクっ娘”がズイッと前に出る。



「ちょ、ちょっと待って下さい! ボクたちは予言の巫女様により集められた王国選抜パーティーです! 勝手にメンバーを追放するなんて、」


「お前はボクボクうるせぇーんだよ! 《回復(ヒール)》しかできねぇ雑用は黙ってろ!」


「で、でも! ルーカス君は王国が認めた支援術師、」


「本当にしてんのかどうかも怪しいだろうが! この世界樹(ユグドラシル)ダンジョンは未知の魔物しかいない!! 階層ごとに強くなってるし、コイツの意味わからねぇスキルの効果を実感したことなんて一度もねぇ!!」



 リーダーの言葉にボクっ娘以外が「そうだ、そうだ」と同調する。実際のところ、死なない程度には協力してやっているが、まあそう思ってるなら仕方ない。


 というより……、


(ウダウダ、長々と……めんどくせぇヤツら)


 俺としてはこれくらいの心持ちだ。


 つい先程、討伐した階層主っぽい「化け蟹」がドロップした爪や足、甲羅……。(今日の飯は蟹三昧の豪華パーティかぁ!)なんて思っていたのに、コイツらは本当に空気が読めない。

 

「おい、ルーカス! 聞いてんのか? クビだって言ってんだよ!! だいたい、テメェは、」


 また矛先を俺に向けてツラツラと話し始めるリーダーだが、もうコイツらの無駄話に付き合ってられるか。


 正直、蟹は食いたかったが、クビだと言うのだから仕方ない。



「あっ、そう? んじゃ、頑張ってな?」



 俺はプラプラと手を振り、そそくさとその場を離れた。トコトコと俺の足音だけがしばらく響いてから、


「……はっ? おい! テメェ、死んだぞ!!」

「ふんっ、必死に謝れば許してやったものを」

「なにあの態度? マジあり得ないしぃ」

「自分で決めたんじゃ。ワシらにはもう関係ない」


 慌てて声をかけられる。


「えっ、ちょっ……ルーカス君!!」


 ボクっ娘の呼び止めにも足を止めない。


 その他の4人はゲラゲラと笑いながら、


「荷物持ちもできない無能が強がってるぞ!」

「身の程を知る時は死ぬ時だな」

「マジ清々する! いつも死んだ魚みたいな目してマジ気持ち悪かったんだよねぇ!」

「フォッフォッ、お荷物が消えて、少しは楽になるわい!」


 などと、俺の追放?離脱?を喜んでいる声をあげ続けるが、俺はトコトコとダンジョンを“逆走”する。


 喜んでくれてけっこうだ。

 俺も、とぉーーっても喜んでいる。


 俺たちは『オークウェル王国』の選抜パーティー。


 パーティー名はそのまま王国の名を冠する「オークウェル」。他所のパーティーも大概がそうらしい。


 ……俺たちは代理戦争の駒だ。


 この未知なる巨大迷宮(ダンジョン)『世界樹(ユグドラシル)』の攻略を各国が競い、奪い合い、殺し合う。


 この膨大な資源を生み出し続ける天然迷宮の利権を世界中の国が狙う。莫大な富を持つ帝国も、一発逆転を狙う小国も、“なんたら教”の法国も、肩身の狭い獣国も……。


 大々的に争ってもコスパが悪いから優秀なヤツらを選んで、攻略を競わせようとかなんとか……。まあ、ぶっちゃけ小難しい話は知らない。


 俺としては、こんなめんどくさいことはさっさとトンズラしたいと思っていたし、愛国精神なんてものは微塵もない。

 

 “楽して稼ぎたい”。


 たったそれだけの理由でギャンブルの泥沼にハマった。気がつけば、金貨1億枚の借金。


 冒険者カードも装備も何もかも手元から消え失せた頃、俺は「予言の巫女」により選抜パーティーに選出された。


 もう犯罪者になるしかないというギリギリのところだったので返済免除となるのは助かったが、蓋を開ければ代理戦争などという、バカみたいにめんどくさい事の幕開け。


 確かに優秀ではあるが、性格クソ野郎共との生活に順応できるはずも、かと言って関係を築くように努力するはずもなく、適当にダラダラこなして、俺は『この時』を待っていた。



 しばらく歩き進めて、やっと1人を実感する。



「はぁ〜……やっと自由だ!」



 もう顔がニヤけて仕方がない。


 まあ、目だけじゃなくて表情筋すらも死んでる俺のことだ……。周りから見ればわずかに口角が上がってるくらいだろうが、俺の心の内はもうニヤニヤが止まらない。



「ふっ。“俺は悪くないの図”の完成だ」


 借金の手前、俺から離脱することは無理だった。“死んだ”と報告されるだろうが、万が一生きているとバレてもアイツらが追放したのだから、俺に非はない。


(よし。地上に帰る!! あの娯楽にまみれた生活に俺は帰るぞ!!)


 ちゃんと最低限の仕事をしていたのは、これからアイツらにもわかるだろう。まぁ、あの生真面目なボクっ娘がいればちゃんと証言してくれるだろうし、全滅するような事もない。


 他のバカ共は《浄化(パージ)》と《回復(ヒール)》しかできない雑用係だと思ってるんだろうが、あのボクっ娘の聖属性魔法は常軌を逸しているしな。



「ふわぁ〜……ちょっと寝てから帰るか? いや、一つ上の階層が森や丘だったな……。どうせなら洞窟の薄暗さより、擬似的でもポカポカの空の下で……」



 グゥ〜……


 大きく伸びをした俺の腹が鳴る。



「これはなかなか、どうしたものか……」



 これは非常に悩ましいところだ。


 寝ることが大好き人間の俺だが、すでに歩くのが面倒になってきたし、腹が減ってちゃ安眠は期待できない。


「カニ……もらって来とけばよかったな」


 ポツリと呟くが、中身がどれだけ美味しかろうと、剥くのが死ぬほどめんどくさいから結局、1人では食べないか……と苦笑する。



 ……そもそも、飯とかどうする?

 火は? 水は?

 俺、魔法なんて使えないしな……。


 うぅ〜ん……。

 あっ、めんどくせ。

 まあ、なるようになるだろ。



 俺は自分がめんどくさがり屋だと自負している。俺の生涯で1番口にする言葉は「めんどくさい」で多分間違いない。


 うぅーん。次点で言えば「なるようになる」か? どっちにしろ、「めんどくさい」からの諦めの言葉でしかない……ような。



「めんどくせっ。まあ、なるようになるだろ……」



 ポツリと呟き、「ふっ」と笑う。

 元からそんなにお喋りな方でもないし、この二言ありゃ、たいがい生きていけるんだ。



  〜〜〜〜〜



「…………けっこう歩いたが?」



 しばらく歩き進めて気がつく事が1つ、2つ……。

 

 1つ。多分、俺は道に迷っている。

 俺の勘ではこっちで間違いないはずなんだが、なんか見た事ないところに出てきている。


 来たばかりの時は、色とりどりの泡が充満していた洞窟だったが、泡をぶくぶくと出してた階層主である化け蟹を屠ったことで、泡が消えているのも理由の一つだろう。



 2つ目はただ単純に、



『『『グゥルルルルルル……』』』



 炎を纏っている3匹の狼に囲まれている。



「……火はコイツらに貰えばいいかぁ」



 ふわぁあっとあくびの一つでもして、火の問題解決。




 “なぜ1人なのに、こんなに落ち着き払ってるか?”



 そりゃ、俺が強いからだろう。

 最強とは言わないが、人類の中ではかなり上位の実力者なのは間違いない。


 育ての親とやらはクソジジイだった。

 おまけに人間じゃないというキテレツぶり。


 泣き寝入りを絶対に許さないイカれやろう。

 “強くなれ”が口癖の鬼畜やろうだった。


 7歳で【凪(カーム)】というスキルを授かってからと言うもの、使えるのか使えないのかよくわからないスキル。


 俺が“それ”の使い方を覚えるまで、幾度となく殺されかけた。


 おかげで「死んだ魚みたいな目だね」って笑われるわ、二言目には「正気がないね」と言われるわ、「笑顔キモいんだけど?」と言われ続けて無表情になるわ、もちろん女にはモテないわで悲惨な毎日を送って今日この頃……。


 思い返すだけで、吐き気がするような地獄を経て、俺の取り柄は強さだけになってしまった。


 とどのつまり、あの大悪魔(クソジジイ)より強いヤツに会ったことはない。それが、俺が落ち着いていられる最大の理由だ……。



 さて、そんな話はほどほどにして、まずは目の前の敵をどうにかするか……。



「《身体凪(ボディ・カーム)》……」



 スゥウウッ……



 俺はスキルを発動させ、【凪】を身体に纏う。


 俺のスキル【凪(カーム)】は“静寂の申し子”。どれだけ荒ぶろうが、《凪》の前では波紋ひとつ許さない。俺は女神に静寂と無効化を約束されている。



『ガウッ!!』



 炎を纏う狼が襲いかかってこようが……、



 ガシッ!!



 《凪》を纏っていれば平気で頭を掴むことが許される。熱さなんて感じない。状態異常や環境異常とは無縁……。



『ガウッガッ!!』



 ブワァアッ!!



 超至近距離で口元に炎を溜めようが、



「《意識凪(コンシアス・カーム)》……」



 俺の手から30cm以内の距離に脳があれば、1.5秒間の無意識状態……、つまりは脳死状態にすることも可能なのだ。



 ユラッ……


 バランスを崩して倒れていく炎狼はまだ死んだわけじゃない。俺は0コンマ数秒で王宮の宝物庫から拝借した腰元のダガーを抜き、背に回り込むと同時に……、


 グザッ!!


 勢いよく喉元を掻っ切る。


 やり方は色々とあるが、これが1番早いし手軽なのだ。返り血の心配もないから、無駄な洗濯もしなくて済むし……。


 なんというか、随分と良心的だろ? 無駄に苦しませず、期待もさせず、抵抗もさせない。死んだことを自覚できないのだから恐怖も感じさせない。



「さて……。めんどくさいからまとめて来い」



 とは言ったものの言葉が通じるはずもなく、本能的に舐められている事に激昂した1匹がボォーッと炎を撒き散らしながら俺の周りをグルグルと駆け始める。



 ゴォオオオオッ!!



 あっという間に俺を中心に炎の渦が巻き上がるが……、



「《範囲凪(エリア・カーム)》」



 パッ……



 最大9m範囲を凪状態にするスキルを使えば問題ない。


 焼き殺す事はもちろん、視界を塞ぐ事も許さない。


 全ての魔法は俺には無意味だ。

 俺を殺すには物理でゴリ押しするしかない。



『ガウッガウッ!!』



 まぁ……、あのクソイカれジジイに数億回は殺されかけた俺の体術にそれが通用すれば、だが……。



 ガシッ!!


「《意識凪(コンシアス・カーム)》……」


 グザンッ、プシュッウ!!



 残りは1匹。



『グゥルルルルルルルルゥッ……』



 警戒しているのか、一切襲いかかってこないな。


 とりあえずコイツから火を確保しようと、俺はキョロキョロと木切れを探すが、周囲には石や岩ばかり。まあ洞窟なのだから仕方がないんだろうが……。



「探すのめんどくせ……」



 もう後でどうにでもなるだろうと討伐を決意し、トコトコと歩み寄る。


 炎狼は明らかに腰が引けたかと思えば、


『キャンキャンッ!!』


 逃げていってしまった。


 知性があった事には少し驚きだが、まあザッとこんなものだろう。



 シィーン……



 ほら。俺は“静寂の申し子”。


 どっちから来たかは忘れたが、まあこっちで間違いないはずだとまた歩き始める。


(待ってろよ……)


 さっさと帰って、あのイカサマしているとしか考えられないカジノで、溶けた金貨1億枚を絶対に回収してやるんだ。


 俺の目的はただ一つ……。


 娯楽にまみれた愛すべき地上に帰り、好き勝手に遊んで暮らすって、ただそれだけのことだ。













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