第102話 コア、という常識

 さて、今後のダンジョンについての大まかな方針は決まった訳だが……。


「ならば、今後取るべき行動はなにか、だな」


 いくら、王国がすぐに動けないだろう、と判断できてもそれがずっと続く訳じゃない。時間は有限だ。まさしく時は金なり、だな。

 そのためにも、効率的かつ即応的な行動を取るべきなのは間違いない。ならばどうするか。

 ……ふぅむ。いまのDPならば、もしかして……。

 俺は通信を使い、現在別の場所で作業しているナオを呼び出す。……しかし、本来ダンジョンコアであるナオが外に出て、マスターの俺がコアの間にいる、というのもおかしな話だ。

 思わず苦笑いが浮かぶ。


『マスター、どうし――……どうされました?』


 俺の苦笑いを見たナオが困惑した表情を浮かべている。さもありなん、通信が来たと思ったら相手が苦々しくしているのだ。何かあった、と思うのが普通だろう。

 勘違いさせたことに、申し訳ない気持ちになりながら話しかける。


「ちょっと相談したいことがあってね。いま、大丈夫か?」

『ええ、それは。こちらも一区切り付きましたので……。では、そちらに向かいますね』

「あぁ、頼む」


 これでしばらくしたら、ナオがこちらへ来るだろう。それまでに考えを纏めなければ。

 まず考えているのはダンジョンに複数の入り口を設置するのは可能なのか、ということ。これは単純に、いまある洞窟より、もっと利便性の良い入り口を設置できないか、という考えからだ。

 まぁ、こちらはあまり緊急性の高いものではない。なにしろ、考え方を変えれば洞窟の方へそれとなく町を拡張すれば良い程度のことでもある。それに、場合によっては洞窟を中心にダンジョン挑戦用の町を新たに拓く、という考えも出来る。

 これはダンジョン町はダンジョン町、ルディアはルディア、と別個として考えるというものであり、それと同時にふたつの町で物流網を形成。小さい経済圏を作ってしまう、ということも出来る。


 むろん、最初からすべて上手くいくとは思わない。なにせ、結局のところはあくまでDPによるダンジョン産アイテムの流通になるため、数を用意できないだろう。

 だが、あくまでそれは初期投資の話。ダンジョンの町やルディアが発展すれば独自の特産品やサービスなどを提供できる確率は高い。

 それだけではなく、ダンジョンに潜った者たちを雇って独自の軍組織。傭兵団として組織し、国外に派遣することで外貨を稼ぐ、という方法もある。

 なにしろこのご時世。食い詰めた傭兵が野党、山賊になるなどありふれた話。そんな者たちをこちらで囲うことが出来れば、元手がタダで稼ぐのだって不可能じゃない。


 そして傭兵団が有名になれば、国軍から雇われる。なんてこともあるかもしれない。……かつてルディア、開拓村で戦ったグレッグ傭兵団のように。

 それを埋伏に使うか、それとも外貨獲得のため、あえて普通に行動させるか。それはその時考えるべきことではあるが、単純に選択肢が増えるということだけでもこちらにとってプラスだろう。


「……ふむ」


 少し、考え事に耽りすぎたようだ。俺は頭を休めるように目頭を揉む。気のせいかもしれないが、少し疲れが取れたように感じた。

 しかし、ずっと休憩しているわけにもいかない。他にも考えなければならないことはたくさんある。


 先ほどダンジョンの入り口について考えたわけだが、それは余録。本命は別にある。

 それは、一言で簡単に言うと、コアの間の隔離が出来ないか、ということ。

 まぁ、実際に隔離というと語弊がある。実際のところは別の入り口からダンジョンを拡張し続けて、なおかつそのダンジョンをコアの間に繋がなくとも運用できないか、という考えだ。

 これがもしも可能であれば、ダンジョンを安全に拡張しつつ、こちらの安全も担保出来ることになる。それだけでも十分実利がある。


 もっとも、こちらも多分大丈夫だと判断している。

 その理由は単純、そもそも我がダンジョンは、ダンジョンと銘打ちつつ、実際のところは地上で領土を伸ばしルディアやその近辺。始まりのダンジョンである洞窟と開拓村ルディアにいたる地域を領有している。

 すなわち、その領有している地域に新たな入り口を建設すれば名目上はダンジョンとコアの間は地続きとなる。

 ……実際のところは袋小路であったとしても、だ。


 そして、それ以上に知りたいことがある。それこそが真の本命。それのため、わざわざナオを呼び出した。

 ……ちょうどタイミングも良かったようだ。コアの間の扉を開け、ナオが中へ入ってくるのが見えた。


「マスター、ただいま参りました。それでご相談とは?」

「あぁ、わざわざすまないな。色々、ダンジョンのことについて相談したいことがあるんだが、その前に……。ひとつ、ナオ。お前に尋ねておきたいことがあってね」

「……はぁ」


 俺の要領を得ない言葉に気のない返事を返す。だが、次の質問を受けてどうなるのかねぇ……?


「ナオ、お前?」

「…………は? 意味がよく――」


 本当に意味が分かっていないのか。それとも惚けているだけか。ナオが困惑した表情をみせる。


「……そもそも不思議だった。コアに思考能力を持たせるのは良い。それはダンジョンマスターを補助するのに必要だろう。しかし、。それは下手すれば補助の邪魔になりかねない。補助の道具に好悪こうおの判断をさせることになる」


 そう、ナオは。ダンジョンコアNo.70は、あきらかにジャネットへ悪感情を抱いていた。なぜかは分からない。が、彼女は元ダンジョンマスター。しかも、現在も成れる資格がある。そんな相手へする態度ではない。少なくとも、補助する立場としては。

 それだけじゃない、コアにそれだけの機能を持たせるというのは、下手しなくともダンジョンにふたつの指揮系統が出来かねないことを意味する。下手にそう言う状況になれば、最悪ダンジョンが崩壊するのは必然。

 そうまでして付与する意味はなんだ?


 そう考えた時に、一つの、荒唐無稽な答えが浮かんだ。すなわち、前提が違うのではないか、と。

 俺はコア、つまり核という名前から無機物だと無意識に判断していた。しかし、実態は生物だとしたら?

 そうすれば前提がすべて覆る。ナオが感情を持つ意味も、思考能力を持つ意味も、だ。

 ……故に、今一度問おう。


「……お前は、何者だ?」


 その問いかけに、ナオはにやり、と口角をつり上げ不適に笑うのだった。

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