第101話 ダンジョン、という常識

 とりあえず、伝えることは伝えたとして、ルードには他のゴブリンや直属の部下。マクスとベルクにも情報共有するように命じた後、退室させた。

 ……正味、真っ白になっているルードを外へ叩き出すのは気が引けたが、ここにいても邪魔になるだけなのでしょうがない。最悪、ファラやセラがフォローしてくれることを期待しよう。


 …………いま、すごく嫌な想像が頭をよぎった。

 ファラたちが慰めるのは良いのだが、それで良い雰囲気になった結果――なんて、ことにならないだろうか?

 いや、流石にならない、よな? 既にそれでファラが、嫁が死にかけてるんだから、流石に自重するよな?

 考えれば考えるほど不安になってきた。が、それで呼び戻す、というのも信頼していない、と宣言するようなもの。ここはルードを信じるとしよう。


 しかし、どうしたものか。ファラがそんな状況ではセラを外へ、外交要員として出すのは厳しいだろうか?

 いや、ファラのことはアランに任せるか。確か、ベルクへ嫁入りの件で顔合わせは済ませていた筈。今後のことも考えると、ファラに話を聞く良いチャンスにもなる。問題ない。改めて、セラに連絡を入れておくとしよう。


 それはそれとして。とりあえず、諸部族連合に対する外交は良いとして、今後のことを考えなくては。

 確か、リーゼロッテたちは撤退した後、進軍中に確保した各都市へ入ったのだったか。正確に言うならリーゼロッテとアレク皇女が現在臨時首都となっているエィル、アリアが鉱山都市のマージュ、クラン女男爵が交易都市イングにだった筈。

 マージュ、イングを防衛ラインとして都度エィルから援軍を出す、と言うつもりらしいが……。


「まぁ、そこら辺りは仕方あるまい。流石に解放した都市からも撤退したら、リーゼロッテの復権は不可能になる」


 ただでさえ首都奪還に失敗しているんだ。ここでさらに退いてしまえば公国の民たちからの信頼を失う。そうなってしまったら、もはや公国の解放など不可能。それこそ、民たちが率先して王国へ帰順するだろう。

 なにせ、支配者たる公族が見捨てたのだ。誰がそんな輩を信用する。


「まぁ、そうなったらそうなったで、手がない訳じゃない」


 それこそ、表向き諸部族連合と友誼を結ぶ、という体裁で実質ダンジョンへ取り込んでしまえば良い。もっとも、これは最後の手段に取っておきたい。

 なにしろ、それはジャネットがかつてダンジョンマスターであった、ということが露見する可能性が高い。そして、その領地が諸部族連合。すなわち、一国をダンジョンとして統治していた凄腕のダンジョンマスターの帰還だ。どう考えても、帝国と王国。二大国との敵対ルート。いくらなんでも全面戦争を起こされると勝てない。……いまは、だが。


「そのために必要なのは、戦力の増強。つまり、さらにDPを確保する必要がある、か……」


 結局のところ、最後にはダンジョンを強化、拡張する必要がある、という結論になる。しかし、リーゼロッテとの約定でダンジョンとして取り込めるのはあくまで開拓村だったルディアのみ。それ以上拡張しようものならリーゼロッテたちを敵に回すことになる。流石にそれは危険すぎる。

 だが、他に方法がない訳でもない。


「こういう時は、逆に考えるんだ、だったか?」


 いままではダンジョン、迷宮とは名ばかりに外へ、人の生活圏へ拡張していた。しかし、今後は逆。内へ、原初に立ち返りダンジョン本来の迷宮として拡張すれば良い。無論、それで終わりじゃない。そこで終わったら意味がない。

 そもそも、ダンジョンに侵入者が現れること自体に益がある。もちろん、殺した方が利益率は高い。が、それに固執する理由はない。

 それに、いままでダンジョンを攻略されないように立ち回っていた。が、こちらも逆に考える。つまり、攻略されちゃっても良いさ、と。

 そう考えて、思わず苦笑いがこぼれる。


「ジャネット辺りに聞かれたら、気でも狂ったかと思われそうだ」


 だが、別に気が狂ったわけでも、自暴自棄になったわけでもない。ただ単に効率を重視しているだけだ。


 まず、ダンジョンの特性を思い出そう。

 侵入者が現れた時点で、ダンジョンマスターは少量のDPを得る。殺害した場合は、さらに大量のDPを得られる。

 ダンジョンマスターはDPを使用することで、モンスターを召喚、ダンジョンを拡張など、様々なことを行うことが出来る。

 ダンジョンマスターは、ダンジョン内のモンスターを支配下に置ける。ただし、召喚したモンスターの方が能力が高いことが多い。


「まぁ、これはジャネット辺りが顕著だな。……そもそも、ゴブリンと吸血姫を比べるな、という話だが」


 この事でも彼女は憤慨しそうだ。ここに本人がいなくて本当に良かった。……って、いかんいかん。話が脱線している。

 ここで重要なのは、侵入者からもDPを確保できることと、DPを使えば色々なことが出来る、ということ。

 つまり、極端な言い方をすれば、ダンジョンが千客万来になれば理論上、DPを半永久的に確保でき、それとともにダンジョンも好きに拡張出来る、ということ。そして、ダンジョンはコアが破壊されなければ問題ないのだから、その安全性さえ担保されるのなら、問題はすべて解決する。

 それは言い換えれば、ダンジョンが侵入者にとって有益であれば問題ない。なにせ、侵入者側も有益なダンジョンをわざわざ崩壊させよう、なんて考える筈もない。


 ならば、有益なダンジョンとは?


 単純に考えれば、命の危険がない。なおかつ、戦闘経験やアイテムを確保できればなお良し、と言うところか。それを目指す。


 取り急ぎの目標としては――。


「兵士たちの訓練場、と言うところか。初期はゴブリンやスライム、コボルトのみになるが……」


 うまく行けば、初期を初心者。後々拡張してより強いモンスターを配置した中級、上級などを整備。また、同時にルディアをダンジョン侵入用の拠点として整備、宿屋やダンジョン攻略用のアイテム販売店を出店すれば、さらに利益を確保できるだろう。

 ……ダンジョンマスターである筈の俺が、ダンジョン攻略用の整備をする。というのはあまりにも無法な気もするが、そんなことを気にしても仕方ない。


 ともかく、そう考えると色々なアイディアが浮かんでくる。色々と楽しくなってくるな?

 くく、と笑いがこみ上げてくる。さてさて、どうしたものかな?

 どの道、しばらくこちらも王国も動けない筈だ。しっかりと計画を練って整備させてもらうとしよう。

 最後に笑うのは誰でもない、俺なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る