第88話 ギフテッド
豪華絢爛、とでも言うのかな。お城の一番偉い人の部屋でわたしはレクスさん。レクス・ランドティア王子と話してる。
あ、えっと。わたしはマスミ、荒木万純。生まれは日本、その地方都市の立塔市で暮らしてた女子高生だよ。
……それが何の因果か、勇者召喚なんていうゲームみたいな事態に遭遇して、いまは剣、というか無銘の刀片手に切った張ったな生活をしてる。本当になんでだろうね……?
まぁ、わたしだって立塔市に住んでるだけに、ヒロインへの憧れってのはあったよ。なにせ、あそこはヒロインたちの活動拠点がある、いわゆるお膝元ってやつだったからね。
日本でもっとも有名なヒロイン、超がつくほど強大だった秘密結社をほぼ単独で壊滅させた超能力使い。それに、彼女の親友。超科学の申し子と呼ばれた二人が活動してる場所だから。
もっとも、それだけじゃなくてここだけの話。あのお二人。わたしの高校、立塔学院高校の先輩、なんだよね。公然の秘密、というやつだけど。
……ちょっと、話が脱線しちゃったかな?
そうそう、わたしがなんでこんなことをしてるのか。それには色々と事情があるんだけど――。
「――聞いてますか、マスミ?」
「聞いてる、聞いてるってばレクスさん」
目の前にはどこか呆れ顔のレクスさん。参ったなぁ、別にレクスさんたちを裏切るつもりなんてないんだけど……。
そりゃあ、内緒で外出した挙げ句、姫騎士さんたちと剣を交えたのはまずかった、とは思うよ。でもねぇ……。
わたしだって、別に考え無しにそんな行動した訳じゃないんだけどね? ……やっぱ、レクスさんからするとそう見えちゃうのかなぁ……。
こっちの、剣と魔法の世界でなら魔法なんてよくあるものだろうけど、向こうの科学全盛の世界で超能力や魔法なんて完全にファンタジーだよ。
ま、そこら当たりをこちらの世界の人。レクスさんに言ってもしょうがないんだけど。でも、これでも大丈夫だって考えてたのにもちゃんと、理由があるんだよ?
なんと言っても、わたしは勇者召喚の義でここへ呼び出された女の子。そして召喚された子には儀式によって不思議なパゥアーがぁ……、あっはははぁ――。
……なぁんて、調子に乗ってるわけじゃないよ? 実際にパワーは宿るらしいし、それもちゃんと理由の一つだけど。
……これは、もとの世界で後輩。ご近所さんで魔法少女、というかたちでヒロインになった女の子。秋葉ちゃんから聞いた話だけど、あちらの世界、地球の住人は一定確率で特異な才能。ギフテッドを発現することがあるんだって。しかも、それはほとんどの場合、女性。女の子が発現させるの。そして、そのギフテッドを発現させた女の子、女性たちこそがヒロイン、と呼ばれる存在になる、らしいよ。
まぁ、これらの情報も秋葉ちゃんのパートナー。魔法少女の力を覚醒させてくれたぬいぐるみみたいな子からの受け売りらしいけど。
そんなヒロインの中でも一際異彩を放っている人がいた。特定の組織に所属することなく、金銭による依頼というかたちで活躍することから人々から賞金稼ぎ、口さがない人からは守銭奴なんて呼ばれてた人。バウンティハンターと呼ばれる、かつて最強という称号をほしいままにした人。その人のギフテッドは身体能力の向上。早い話が人よりも力強く、人よりも素早く動けて、人よりも耐久力がある。……なんて言えば凄そうだけど、結局のところ人よりも身体が強いだけで、特殊な力があるわけじゃない。でも、それでその人はヒロインという超人集団の頂点に立った。
そしてわたしにもギフテッドというものは備わっていた。その人と同じ、身体強化というギフテッドが。それこそ、わたしが問題ないと判断した真の理由。最強と謡われたヒロインと同じギフテッドを持ち、それを勇者召喚の義でさらに強化されている。
事実、わたしはこの世界。この大陸で名を轟かせている姫騎士さん相手に互角の戦いをすることができた。それがたとえ、刹那の邂逅だったとしても、ね。
……まぁ、それでも油断できる訳じゃないけどね。あの時、姫騎士さんと切り結んだ時、ぞくり、と嫌な気配を感じた。
なんて言えばいいかな、このままここで戦っちゃいけない。そんな直感が働いたの。最初、なんでか分からなかった。でも、辺りを見渡して気付いた。
緑色の髪をポニーテールにして、馬に股がって槍を持った女騎士。あの人を見て、あぁ、この人だ。いま、この人と戦ったら間違いなく死ぬ。本能で、そう確信したんだ。
……と、いうか聞いてないよ。姫騎士さん以上の化け物がいるだなんて。
だからわたしはあの場から一目散に逃げ出した。まだ死ぬわけにはいかないから。わたしにはまだやるべき事があるから。
わたしはいずれ、この力を持ったままもとの世界へ、日本へ帰る。そして、
まぁ、その前に既にヒロインたち、あの人たちに倒されてるかもしれないけど。
なんにせよ、わたしは日本に帰らなきゃいけないんだ。その前に殺されてなんていられない。
そのためにも、姫騎士さん。あなたには踏み台になってもらう。わたしが生き残るため、そして、さらに成長するために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます