第66話 派閥
さて、それでは今後すべきことを考えよう。……と、言うより確認しよう、が正確か。
まず、何より大事なのがリーゼロッテが引き連れてきた帝国軍。公国解放軍、とでも言えば良いか。彼らといかに接触するか。
一応、使者の候補は決めている。出来ればクラン女男爵がリーゼロッテと面識があるので最適なのだろうが実際にするとなると彼女はなにかと忙しいので無理。
なので、こちらから使者を出すべきなのだが、ルードは不適格。そこまで考えていたわけだが、もう1人。最適な人物がいたことを思い出した。
ルードの第2夫人、セラだ。そもそも、彼女は外交官として迎え入れたのだから、当たり前の話だった。
それに、時期も都合が良かった。少し前まで彼女もルードの仔を孕んでいたのだが、無事出産を終えていた。そして、ちょうどある程度身体も成長していることからファラに子育てを担ってもらえば問題ない。
まぁ、その分ファラに負担がかかるのは申し訳なく思うが、その分別方面で報えば良いだろう。
例えばルードにその分の功績を付けるか、アランや他の女房衆を派遣するとか。特にアランからすれば今後の予行練習にもなるだろう。
……しかし、あいつも女、というより乙女が板についてきたな。自身がもと男だということを覚えているのだろうか?
流石に覚えている、とは思うが……。
それはともかくとして、使者はそれで問題ない、筈だ。一応、敢えて問題だとするならリーゼロッテたちとセラの面識がない、というところだが。そこも、ゴブリンライダー隊の相棒だったコマンドウルフたち。彼らを同時に派遣すれば身元の証明になるだろう。
実際開拓村、ルディア解放戦で共闘しているのだし、あちらも分かる筈だ。
本当はこんな希望的観測、やめた方がいいんだがなぁ。そうも言ってられないのが現状。やはり、根本的に人が足りないということだ。
かといって、流石に二人へ夫婦の営みをするな。なんてことは言えないし。そんなことになったらセラが流石に可哀想だ。
そうなると、今後考えることは召喚するモンスター。その中である程度、人間に近しい容姿をしてなおかつ知能があるものを選ぶべきかもしれない。彼、ないし彼女へそういった仕事を割り振ることも考えるべきだ。
……ただ、そういったことを考えたのは単に人手不足、という理由だけじゃない。ある意味それ以上に深刻になりかねない理由からだ。
というのも、現在。軍部、とでもいうべき戦闘部隊の長がルード。外交官、と言えばそこまで位が高いようには思えないが、実質セラしかいないことから外向きの政務の長が彼女になり、そしてルード。軍部の長の第2夫人。
ここまで言えば分かるだろうが、下手をするとルード派閥。というものが形成されかねない。
むろん、ダンジョンの最高権力者は俺であるが、未来永劫そうである。とは言えない可能性だってある。何らかの理由でのクーデターや、単純にルードが力を持ちすぎて俺が失脚する可能性。それを否定することはできない。
もちろん、ルードがそんなことはしない。と思ってるが、別の者に担がれる。御輿にされる、という可能性はある。何せあいつは言葉使いこそ汚いが、ゴブリンの癖に、いや、今はホブゴブリンか。ともかく紳士的で女性人気が高い。
惜しむらくはルード本人が妻一筋――妻二人いて一筋、とはこれいかに――で満足している、ということ。
今の、ホブゴブリンとなったあいつなら、性欲。というよりハーレムを作っても精力が枯れる、なんてことはないと思うが……。
それはともかくとして、それこそリーゼロッテや帝国など国外の人間から、これ幸いとばかりに旗頭にされようものなら目もあてられない。実際、それが出来そうな点も含めて、だ。
それほどまでにルード、という男は皆に慕われ、頼られている。一部ではルードがダンジョンマスターなのでは、などという声が上がる始末。まぁそれは比較的最近ルディアに来た避難民たちからだが。
……実は、そのこと自体はあまり問題視していない。そもそも、ルードを前面に出すことで俺という本当のダンジョンマスターの隠れ蓑にすることが出来る。それを利用しない手はない。だから、これは想定通り。想定外だったのは、あまりにも人望を集めすぎたこと。
ただのモンスターでありながら人たらしで、なおかつ立身出世するとは、ルードは太閤豊臣秀吉だろうか?
自身の名前のもとになった偉人を彷彿とさせるルードに正直驚きを禁じえない。それに、もしルードが豊臣秀吉なら、俺は織田信長となる。だとすると第六天魔王とでも名乗れば良いだろうか?
最後は配下に裏切られてデッドエンドっぽそうで嫌なんだか……。
それを防ぐためにも新たなモンスターを召喚する、という選択肢はなくはないのだ。……それはそれで、今度は自身の配下である筈の大名家が大きくなる度に肘鉄していた室町幕府、足利将軍家のようで悩ましい。
あちらの方が最後はほぼ――最後の将軍、足利義昭以外は――凄惨だったからなぁ……。
まぁ、愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶとも言うしそうすれば問題ない。
問題があるとすれば、自身が賢者ではない、という前提条件が違えてしまっていることだが……。
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