第67話 ダンペディア
一応危惧があるにせよ、今のところセラヘ外交の使者を頼むのは決定事項。先ほど通信越しに伝えたわけだが、まさか食い気味に了承するのは予想外だった。もしかして、リーゼロッテと面識があったりするのだろうか?
まぁ各地を放浪していたわけだし、どこかで知己を得ていても不思議じゃないか。
それより、次の布石は打てたわけだし、今のうちモンスターのリストが更新されていないか確認する。
「しかし、こちらを開くのも久しぶりだ」
この1ヶ月、なにかと忙しくて確認する暇を捻出できなかった。なので、今から確認しようというわけだ。
「うん、やはり。項目にNEWの文字が…………うん?」
カタログの項目が増えている。なんだ、これ?
「ナオ、ちょっと良いか?」
「はい、マスター。なんでしょうか?」
近くで待機していたナオへ声をかける。
彼女はどうやら新しく得た肉体の感触を確かめるため、軽く動作の確認を行っていたようだが、ととと、と早足で駆け寄ってくる。
「項目が増えているようだが……」
「あぁ、これですか」
カタログを覗き込むと、なんだ。といわんばかりの反応。どうやらいつぞやのチュートリアルと同じように元々用意されていた項目のようだ。
それは、まぁ、良いんだが……。
カタログと俺の位置。その関係でどうしても距離が近くなってしまう。
つまり、どう言うことかというと――。
――ふよん、と柔らかいものが当たる。それがなにか、というのは分かりきっていて。
「な、なぁ、ナオ。……流石に近すぎない、か?」
「そうでしょうか?」
だめだ、こいつ。まったく気にしていない。
相手が意識していないのに、こちらが気にするのはバカみたいな話だし役得、とでも思っておこう。
「……確かに、この表記では分かりにくいかもしれませんね」
資料、と銘打たれた項目を見て呟くナオ。
「少々お待ちください」
その言葉とともにカタログを操作する。するとすぐに変化が起きた。
「ダンペディア……?」
なんだ、そのウィキ◯ディアのパチモノみたいな名前は。
「こちらの項目はダンジョンに関連する情報を検索できるものです。使いこなせば有用な情報源になるかと」
「ほぉう……」
使い方も同じようなものか。なら、試しに調べてみよう。
俺はすぅ、と息を吸って覚悟を決めるとダンペディアの文字をぽちり、と押す。すると、次の瞬間には色々な項目が画面に現れて――。
「いや、多い多い」
いくらなんでも多すぎるわ。検索画面は、ここか。
ちょうど、画面の右斜め上に文字を打つスペースがあった。そこへ文字を打ち込んでいく。打ち込んだ文字は――。
「アルデン公国、と」
このダンジョンがある土地。そこを支配している国家名。ある意味、ダンジョンと関係あるが、はたして表示されるのか。
だが、どうやら俺の心配は杞憂だったようで、アルデン公国の情報が記載されていく。
「ふむふむ、建国されたのは約500年前。……やはり公王や、リーゼロッテ以外の公族は死亡済み。……いや、待て」
公王の継承権、そこに想像もしていなかった名前が記載されていた。
「エルザ・クラン女男爵? ……それに、レクス・ランドティア? 聞き覚えが……、いや。備考、ランドティア王国王太子?! ……どう言うことだよ、おい」
もちろん、継承権で一番高いのはリーゼロッテだ。
それは間違いないのだが、想定外のことに動揺してしまった。
しかし、それも調べていくうちに納得へ変わった。変わったのだが……。
「史実の欧州かよ……」
調べていくうちにアルデン公国の開祖と、当時の王国王妃が異母姉妹であること。さらにクラン伯爵家が王家の血筋を引いているのは分かった。だが、まさか公王の次代が不義の子。王国国王の胤、だというのは予想外にもほどがある。
史実でも自らの子を養子として送りつけて御家乗っ取り、なんてこと、なくはないのだが……。それよりもひどいわ。しかも関係性は元婚約者。自ら解消しておいて手篭めにするとか、なんの冗談だ。
……ところで史実の欧州に同君連合、というものがあった。有名どころではオーストリア=ハンガリー帝国だろう。
それを王国は狙うことが出来る、ということだ。これは急がなければいけないかもしれない。血統的には問題ないのだから、もし王国が公国貴族を実効支配してしまえばそこでアウトだ。
その時点で王国は同君連合。今回の場合、ランドティア=アルデン連合王国となるか?
ともかく、それを大々的に発表されてしまえば打つ手が極端に限られてしまう。なんとかしなければ……。
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