第62話 私兵という名の諜報部隊
ボクの名前はアレク。アレクサンドラ・ルシオン。公的な場ではルシオン帝国第四皇子にして、皇位継承者第四位。もっとも、本当は皇女で継承権も持ってないんだけどね。
だって、帝国は男子継承制で女子には継承権が発生しないから。
そんなボクは今、公的にアルデン公国の婚約者であり、おそらく現状唯一公王家の生き残りである第一公女。姫騎士の異名を持つリーゼロッテ・アルデンとともに軍勢を率いてアルデン大森林西部、いまだ人の手が入っていない森の中を進軍していた。
その原因はアルデン公国の東に位置する王国。ランドティア王国の電撃的な奇襲戦が原因。それによりアルデン公国首都、アルデンが陥落し、占領されたがリズ姉。リーゼロッテ・アルデンと彼女の副官、氷塵の異名で知られた元傭兵、アリアとともに帝国へ落ち延びてきたという経緯がある。
彼女らがこちらへ落ち延びた理由にはもちろん、ボクが対外的に婚約者となっている、というものがあるんだけど……。
「正直、頼られる。とは思ってなかったなぁ……」
「どうしたの、アレク?」
「ううん、なんでもないよリズ姉さま」
横で同じようにパカラ、パカラ、と馬に揺られていたリズ姉さまが話しかけてきた。そんな彼女を誤魔化しながら思考は続けていく。それがボクの強みだから。
それはともかく本当に、正直頼られるなんて思ってなかった。
その理由はいくつかある。そのうちの1つがボク自身、軍事的な才覚が欠けているということ。……いや、頭脳。策謀という意味では劣っているとは思わないけどね。
でも、ボクの体型。小柄で女としては慎ましい胸――もっとも、このお陰で男として偽りやすくなってるんだけど――、公国風に言えばショタって言うんだっけ?
そんな体型なもんで剣を持つのも一苦労。剣を振ろうとしたら、身体のほうが振り回されますが、なにか?
……なんて、冗談を言ってる場合じゃないんだろうけどね。ともかく、そんな感じで実技、とでも言えば良いかな。そちらの方はからっきし。
そんなボクとは逆でリズ姉さまは姫騎士、なんて異名が付くほどの武威を誇っている。ボクとリズ姉さま、そういう意味では正反対だよね。
それでもボクは一応対面的にショートソードを腰に佩いてるけど。こうでもしないと格好がつかない、ということもあるし、ね。
ともかく、そんなこんなで帝国と公国の国境を黙々と進軍してるわけだけど。
――アレクさま。
「……ん?」
「アレク?」
「なんでもない、気にしないで」
ボクの頭の中へ直接響く声。久々の感覚に少し声をあげちゃったことで、リズ姉さまを心配させちゃったみたい。ボクは大丈夫だと誤魔化すと、内から響く声に問いかける。
――ごくろうさま、なにか情報手に入れられた?
今ボクたちが行っている交信。これは伝承にあるダンジョンマスター。彼らとモンスターの意志疎通のため、使用されていたものの応用だ。
と、言うのも我らがルシオン帝国。かつては内部にいくつかのダンジョンを抱え、その中でも友好的だったダンジョンマスターと交流をしていた、という記録がある。
その中で得た技術がいくつかあって、この交信もその一つ、という訳。
……まぁ、
ま、実際のところモンスターと人間なんて不倶戴天の敵なんだから、交流してたってこと自体おかしい、とも言えるけど。
――この先、公国の集落を確認。かつて開拓村、と呼ばれた地点だと思われますが……。
ボクのなかで響く声。そこに困惑の音色があった。
そもそも、この声の正体は?
それはボク直属の部下。その中でも諜報などを専属にする部下のものだ。一応、ボクだって皇族の端くれ。それなりの私兵を組織している。
とはいえ、兄さまたちは騎士という形で私兵という軍事力を率いている。だけどボクは違う。軍事力という武力よりも、諜報という情報網を重視している。
ボクにとってそれは必然。いくら私兵という暴力装置を整備したところで、それを奮う場所が分からなければ意味がない。
それに、ボクたちは皇族なのだから国軍を率いることもあり得る。そこへさらに私兵まで組み込むと二つの組織の間に変な軋轢が生まれかねない。それで全体の士気が下がってしまっては本末転倒。
そういった意味でも私兵と国軍の仕事を分けるのは有用だと判断した。実際、こうやって斥候役で役に立ってるわけだしね。
でも、いったい何を困惑してるんだろう? この近辺に開拓村があること、なんてボクは既に知ってたし、それは彼らだって把握してる筈。それなのに、なぜ?
まぁ、でも。それも報告を聞けば分かるかも。そう思ってボクは――。
――それで? 開拓村がどうしたの? 壊滅してた?
――いえ、壊滅……ではなく、発展しているのです。それも、ものすごく。
「……はい?」
きっと、今。ボクはすごく間抜けな顔をしてるんだろうなぁ。そんな他人事のような考えをしながら思考が止まるのだった。
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