第53話 花実兼備

 俺はホログラム越しにリーゼロッテの仲間の騎士。エルザという女騎士とエルフ姉妹の妹、ルゥの大立ち回りを見ていた訳だが……。


「……なんだ、あの化け者ども」


 今、俺の口元は間違いなく引きつっていることだろう。そうなってしまうほどに2人の女戦士は王国兵相手に無双していた。

 正直、ルゥの方はまだ良い。彼女へ貸し与えたトロイホース。あれはそれなりに強いモンスターであり、暴れさせるだけで多少の戦果は得られるものだ。それでもルゥとの息の合った行動や、彼女自身の鋭い剣捌きなど、目を見張るものがある。が、それもエルザという騎士の活躍に比べれば霞んでしまう。

 なぜなら、ルゥの剣技が素晴らしい。と感嘆するものならば、彼女の槍捌きはその上。あり得ない、と驚嘆に値するものだからだ。

 長槍を片手で振り回す膂力もさることながら、それ以上に。……なぜ、森の中。木々が密集している場所の筈なのに、そこで振り回して木に当たる、なんてことが起きず敵兵のみを吹き飛ばしてるんだ?

 目算であるが、あの槍の長さ。最低でも2メートルはある筈だ。それなのに的確に、しかも閉所で扱える絶技。いったい何がどうなってるんだ……。


 ……一般的に槍は刺突武器、刺すことに特化している。と、勘違いされることもあるがとんでもない。

 確かに刺す方が殺傷力が高いが、それ以上に長い棒の部分。柄を使って叩き付けたり、薙ぎ払ったりできる、いわゆる棒術を併用できる武器だ。

 むしろ、突くことしかできない武器なら、かなり取り扱いが難しく使い手を選ぶ武器になってしまう。

 事実、刀や剣では槍などの長物武器に対抗するためには、最低でも三倍の実力が必要。ということでも他の武器よりも扱いやすい、というのが分かる。

 だがもちろん欠点もある。1つは懐に入られると弱いという点。もう1つは先ほど俺が驚嘆した通り、その長さゆえ閉所などの障害物がある場所では使いづらい、という点だ。


 しかるに現在、彼女が置かれている状況を考えてみよう。今、彼女がいるのは木々が生い茂る森の中。閉所、とまではいかないが障害物が多くあり、槍が振るいにくい環境だ。

 次に戦況だが、敵が恐慌状態だとはいえ数自体はまだまだ多い。それに比べ、こちらの戦力は囮に使ったリィナ、ルゥのエルフ姉妹にルードたちゴブリンライダー隊。それにエィルから来たあの女騎士が率いる30人程度。単純な人数比で言えば敵方の5分の1程度。もし恐慌状態が治まったら危険と言える戦力比だ。……通常ならば。

 だが、実際のところ。ルゥとエルザ、2人の女戦士の縦横無尽の活躍で次々と敵を討ち果たすものだから、どんどん数が減っていってる。

 今もトロイホースが蹴飛ばした敵兵がまるでボーリングのように別の敵兵を纏めてなぎ倒し、同じようにエルザも鎧ごと……?!


「うっそだろ、お前……」


 敵兵を鎧ごと貫いてやがる。いったい、どんな素材で……。というよりも前に技術もそうだが、どんだけ力があるんだ。

 ……と、ともかく。貫いた敵ごと槍を振り回し、適当なところで生き残っている敵兵へ死体を投げつけている。嫌、えぐいて。死体に押し潰された敵兵は、苦悶の表情で絶命した同僚を見て、ひぃ、と悲鳴を上げている。

 今回ばかりは、王国兵に同情したくなってくるわ。勝ち戦に出てきた筈なのにチート、というよりバグみたいな騎士に出会うなんて、不幸どころの話じゃないわ。

 もしかして、なんだが。リーゼロッテたち騎士団がもしも王国奇襲時、全員首都にいたら逆に撃退できてたのではないか。そう思ってしまうほどの大暴れぶりだ。


 いや、こうやって見ると王国が首都を奇襲したのも、帝国がリーゼロッテと婚姻という形で障害を取り除こうとしたのも理解できるわ。むしろ、なにがなんでも手を結ぶか、もしくは討ち取らないと枕を高くして寝られないって。

 ……そういえば、よくよく考えれば。開拓村の戦闘の時もリーゼロッテとアリア。2人とも消耗している状態であそこまでの大立ち回りをしてたんだよな。別に回復アイテム的なものを融通したわけでもないし……。そう改めて考えると化け物だな3人とも。


 これは……。出来ればルードたちを撤退させたいが――。


「それやるの、悪手だよなぁ……」


 ここで撤退させようものなら、下手すると見捨てたと取られかねない。ただでさえ、本来関係ないエルフ姉妹を巻き込んでしまってるんだ。というよりも、あの女騎士の強さが想定外すぎるわ!


「あの騎士がいるんなら、そりゃあ保有戦力も絞るわ。数がいても邪魔になるだけだ。まるで本多平八郎だな、おい」

「……ホンダ、ヘイハチロウ、ですか?」


 俺以外の声が聞こえて一瞬驚くが、そういえばアランを呼び寄せて話を聞いたあと退室させてなかった。しまったなぁ……。

 いや、これはあくまで独り言だし。問題はない、か?


「あ、あぁ。俺の故郷にいた武将、騎士でな。生涯57の合戦で掠り傷1つ負わず、主君に近しい……えぇと、こちらで言えば王が近いか? そんな偉人たちに花も実も兼ね備えた武将。あぁ、騎士だな。それに天下無双の大将。こちらで言えば将軍か? そう称えられた人物だ」


 一々例えるのが面倒だな。それはともかくとして。セラのやつ、ダンジョン関係のことを伝えているのだろうか。もし、伝えてなくてルードたちに襲いかかられても困るんだが……。

 いや、少なくともルゥと共闘してるわけだし、最悪止めてくれるだろう、と思いたい。本当、切実に。

 ……一応、最悪の可能性を考えて盾、というより時間稼ぎ要員としてサンドゴーレムを転送して忍ばせるか。


 そう考えながら、俺はルードたちゴブリンライダー隊へ敵兵殲滅へ参加するよう指示を出すのだった。

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