第12話 三国の謀略と、開拓村の真実

 ルードたちを交えた話し合いのあと、俺は早速ボスモンスターとしてストーンゴーレムを呼び出したのだが……。


「うん、なんというか……。威圧感がすごいな」


 出現したストーンゴーレムは、まぁ、ある意味予想通り大きかった。ダンジョンの通路を完全に塞ぐことが出来る程度には。つまり、ほぼ文字通りの壁になっていたのだ。

 それでも最低限、移動や攻撃を行うことは出来そうなのが救いか。


「ま、実際に役立つかどうかは実戦次第だが――」


 俺がそんな軽口を叩いた瞬間、ゴーレムは心外だ。と、言わんばかりに瞳――というよりもレンズだろうか――を輝かせている。

 それを見て俺は口元が緩むのを感じる。少なくとも、このストーンゴーレムはただの木偶の坊ではない、ということを示して見せたのだから。


「ははは――。こいつは失礼。そうだな、今から自身の実力を示して見せるのに、役に立つかどうか分からないなどと、あり得ない言葉だったな」


 俺の声が聞こえたのかストーンゴーレムは満足そうな雰囲気を出している。

 ま、後は罠でも仕掛けて侵入者を待つとしますか。

 さてさて、この程度。軽く突破しなければな。

 そうしなければ、今後の戦いも厳しいことになるだろう。

 今回の戦い、ただ迎撃するだけではなく、今後のことをうらなう一戦でもあるのだから。どうなることやら……。






「ここが噂のダンジョンか?」

「はっ!」


 比較的軽装な鎧をまとった一団がダンジョン前で話していた。

 彼らが開拓村の要請でこのダンジョンに派遣された兵士たち。

 しかし、ダンジョンマスターの予想はある意味裏切られていた。それは――。


「しっかし、本当、ここに行方不明者なんているんですかねぇ?」

「さてな。ともかく、こちとらさっさと探索を終えて帰らにゃならん。とっとと行くぞ」

「へいへい……」


 それは兵士たちの士気が明らかに低かったこと。少なくとも、この地を治めている貴族らしからぬ士気の低さだった。

 なぜ、そんなことになっていたか。それには複数の要因があった。


 まずはじめに、ダンジョンマスターたちの前提が間違っていた。

 彼らは、村の会合を盗み聞きしたことで、ここら一帯が貴族の支配地域だと思っていたが、実際には公王の直轄地で、代官がもろもろの指示を差配していたこと。

 そして、その代官。ここが僻地であることを良いことに、あまり真面目な職務態度ではなかった。

 ルシオン帝国との国境、戦いの最前線になりかねない場所に、なぜそんな代官が派遣されたのか。そう思われるかもしれない。

 しかし、逆なのだ。そんな場所だからこそ獅子身中の虫になりそうな柔軟な思考を持つ者が派遣されたのだ。

 そもそも、アルデン公国としてもルシオン帝国との国境に今さら新たに集落を築いたところで旨味もなく、逆に警戒心を抱かせてしまう。

 そんなところに真面目な頭が固い代官を派遣して、軍備など整えられた日には、国境摩擦からの開戦となりかねない。

 そんなことはアルデン公国とルシオン帝国。双方ともに望んでいなかった。


 それならなぜ、アルデン公国はこんな場所に開拓村を出したのか。それは、ランドティア王国からの要請、という名の圧力に屈したからだ。

 いまでこそ、ランドティアとアルデンは連合を組んでいるが、もともとランドティア自身もアルデン公国の領土に関心を持っていた。

 そもそも、アルデン公国は大陸の中央に位置し周辺は山岳や森林に囲まれているが、王都周辺は平原という防衛に向いた、そして交通の要衝として栄えてきた、という歴史を持つ。

 即ち、アルデンの領土は攻めにくく、守りやすい領土だったのだ。

 そんな土地、自国に編入したいと思うのが自然だろう。なにせ、やろうと思えばアルデンの兵力だけでルシオン帝国をある程度抑え込むことが可能、だという試算が王国でも出されている。

 もっとも、当のアルデン公国は無理だ。と、いうだろうが。

 だが、そんなことはランドティアには関係ない。むしろ、さっさと武力衝突が起きてほしい、とまで思っていた。

 そうすれば友好国の救援の名のもとにアルデン公国に進駐。そのまま、実効支配に乗り出すつもりなのだから。

 そんなことをすれば非難を浴びるだろうが、どうせあげるのはルシオンや小国家群。

 ルシオンはもともと敵対国であるのだから関係ないし、小国家群は国力差から黙殺できる。それどころか、こちらに敵対的だ。という大義名分をかざし、攻めることだって可能になる。

 それに、国内では今回の進駐はあくまで救援のため、というプロパガンダを打つつもりであった。


 あくまで自国内では王国が正義、帝国が悪であるというを、印象を植え付ける必要があった。

 国家を運営する以上、きれいである必要はないが、きれいに見せる必要はあるのだから。


 むろん、そんなことは公国も帝国も分かっていた。だからこそ、今回の代官が派遣されたのだ。両国ともに敵対するつもりはありません、という宣言のために。

 そのために、代官は帝国にも賄賂――という名の外交親善費――を贈っていた。そうすることが望まれていたから。

 仮にこの事が王国にバレたとしても、公国は今回の一件、あくまで代官の一存である。という宣言とともに代官を更迭中央に戻す。そして新たな代官を派遣して、再発防止に勤める今後も関係を継続。という声明を出すつもりだった。


 そして、それは開拓村の住民たちもそうだ。彼ら、彼女らは家族の中にすねに傷を持つ者や、食い扶持が足りなくて捨てられた者など、公国に不必要と判断されたものが集められていた。

 もっとも、さっき言ったように国家がきれいである必要はないが、きれいに見せる必要があるため、それらしい理由――新たなるフロンティアを目指して、家族の罪状を軽減など――をでっち上げて集め、彼らの陳情。今回の調査なども受け入れている。

 ただし、実態はなのだから、人員の士気が保つ訳がない。

 それが、この士気の低さの原因であった。


「やれやれ、とんだ貧乏くじだぜ。早く終わらせて帰りてぇなぁ」

「まったくだ」


 そうして兵士たちは、まるで散歩にでも来たかのような気軽さでダンジョン内へ侵入する。それが自身の首を絞める行為だとも気付かずに……。

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