第11話 ボスモンスター(LV1)

 さてさて、とはいえどうしたものか。

 一応、1000DP使うことでダンジョンをある程度拡張することも可能だが……。

 まぁ、現実的ではないな。ダンジョンを拡張したところで700DPでは防衛戦力の増強は難しい。

 しかし、かといってなぁ……。


「このダンジョン、今一本道なんだよなぁ……」


 そう、このダンジョン。道が曲がりくねってはいるものの、その実、直通でこちらの生命線であるダンジョンコアがある部屋までたどり着けてしまうのだ。

 それに、モンスターの数もそこまでいる訳じゃない。


「えっと、たしか今いるモンスターは――」

「ゴブリンが25体、スライムが10体、コボルトが2体。それに帰還途中のルードたち3組とハンス、スケルトンアーチャーが1体となっています」

「そうだったな、ありがとうナオ」


 今、ナオが告げたように、それが現在ダンジョンにいるモンスターの全勢力だった。しかも、ゴブリン25体のうち5体は、この間ファラが産んだゴブリンで戦力化するには、あと最低でも十日はかかるおまけ付き。

 だが、こちらの戦力が少ないことは開拓村の連中も知るところだ。だからこそ、ハンスやファラはあそこまで平和ボケした行動をしていた訳だし……。


「なら、それを逆手にとるか?」


 ファラをこちらで捕まえてから、またモンスターが追加されていた。

 その中にはボスモンスターになれそうなやつも追加されていたのだ。


 そのモンスターはストーンゴーレム。


 他のモンスターが召喚に使用するDP。これが100だの200だのという世界の中、ストーンゴーレムは破格の1000DP。

 明らかに桁が違っていた。

 それと多少格落ち感が否めないが500DPでサンドゴーレム、という選択肢もある。


「……いや、そっちは流石にないか」


 いくら他のモンスターより強そうだと言っても、サンドゴーレムがストーンゴーレムよりも防御力に難がありそうなのは分かる。

 強いのを1体用意するよりも、廉価版を3体用意する、という考え方もあるにはあるが……。


「いくらなんでも博打にすぎるか……?」


 そも、貴族の正規兵がどれ程の規模で来るのか。まず、それが分からないと適切な手を打つのは難しい。ううむ、どうしたものか……。

 考え込んでいた俺に、ナオが話しかけてきた。


「マスター、ルードたちが帰還しました」

「……! そうか、すぐにこちらへ来るように伝えろ!」

「了解しました」


 ルードのやつ、帰ってきたか!

 なら、あとはやつがどれ程情報を手に入れたか、だな。正規兵について、少しでも情報が集まると良いのだが……。






「それでルード、戦利品と報告について頼む」

「へい、マスター」


 ルードは俺の言葉に答えると、近くに用意されていた机に地図を広げる。その地図には一つの大きな大陸が――?

 というよりも、その大陸しか、ない?

 もしかして、この世界はパンゲア大陸。1つの超巨大大陸しかないのか?

 いや、ただ単にこの大陸に存在する国家の航海技術が未熟で外洋探索が出来ていない、という可能性もあるか。


 ともかく、いま地図に示されている大陸は極端なことを言えば、オーストラリア大陸を彷彿とさせる形をしており、その中心から西よりにアルデン公国。公国の領土を含まない西側全域がルシオン帝国。南方から北東にかけてランドティア王国。そして、残りの北方に小国が乱立している、という状況のようだ。

 それは、まぁ良い。いまはそれよりも貴族の正規兵についてだ。


「地図の方は取り敢えず分かった。それで、お前が聞いた貴族の調査隊。その戦力についてなにか言っていたか?」

「へぇ、それなんですが――」


 ルードから報告を受けた俺は、思わず頭を抱える。

 しかし、それは戦力差が絶望的、という訳ではなく、むしろ逆――。


「いや、来る人数が多くて10人程度って……。いくらなんでも平和ボケしすぎだろうに」

「それはあっしもそう思うんですがねぇ……」

「それが偽報、という可能性はないよな。流石に……」


 そもそも、村の警備自体がザルだったのだ。しかもルードの話では村人がハンスたちの家に入った痕跡すらなかったことから、もしかしたら家に侵入したことにすら気付いていない可能性すらある。

 仮に気付いたとしても、正規兵たちは既に出発しているということから、今回の敵戦力については心配する必要はない。

 まぁ、今回の敵戦力を撃滅した場合、今度はそれなりの戦力を送られる可能性は高いが、その頃にはある程度こちらの準備も完了しているだろうし、問題はない。となると……。


「今回もある意味テストするにはうってつけ、か?」

「マスター、どうなさるおつもりで……?」

「いや、なに――」


 敵が少数戦力なら、圧倒的な個の力で蹂躙するのも一興。

 特に、ゴブリンやスライムしかいなかったダンジョンにいきなりストーンゴーレムが現れるのは、敵方からすれば詐欺に等しいだろう。

 ならば、その詐欺をせいぜい楽しんでもらうとしよう。


「よし、取り敢えずの方針は決まった。あとは、そうさなぁ……」


 ストーンゴーレムをボスモンスターと定義するなら、お供もほしくなるのが人情よな。ならば。


「ふむ、これで行くか」


 一通り頭の中で考えをまとめた俺はルードに話しかける。


「ルード、貴様にも一つ働いてもらうことになるが……」

「へへっ、腕がなりますなぁ!」


 俺とルード、二人して笑みを浮かべる。その笑みは端から見ると、きっと悪どい笑みだったんだろうなぁ、とルードの凶悪な笑みを見て、俺はそう思うのだった。

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