第10話 迫り来る驚異の足音
あっしらがダンジョンマスターのもとへ呼ばれた日から三日がたった。
あの時のあっしは、愚かにもマスターに敵意を、嫉妬を向けちまってた。
本当に、恥ずかしい話でさぁ。
それくらい、ファラにぞっこんだって話でもあるんですがねぇ……。
いま、あっしは部下たち。そして、ハンスとともに夜闇の森を駆け抜けてる。ハンスたちの家、開拓村を目指してね。
「おらっ、行くぞ野郎共! 遅れるんじゃねぇぜ!」
「「おうっ!」」
こいつらもあっしが人語を使うようになってから、少しづつ覚え始め、今では簡単なやり取り程度なら出来るようになった。まさしく、あっしの自慢の部下たちでさぁ。
ダンジョンマスターにその事を報告したら嬉しそうに何度も頷きながら、いずれ、そいつらにも顔を会わせたいものだ。と、声を弾ませていらっしゃった。
ゆくゆくはあっしの部下から独立し、こいつらも部下を持つのかも知れねえ。ちょっともったいない気もするが、あっしも鼻が高いってもんよ。
そうしたらあっしと同じく、こいつらも人間の女を娶るのかも知れねえ。
まぁ、ファラより器量が良い女なんて、早々いないでしょうがねぇ?
そりゃあ、最初はあっしに対しても心を開いてなかったが、それはファラの境遇を考えれば仕方ねぇ。
だが、心を開いた今のファラは、昼間はあっしのサポートを甲斐甲斐しくこなし、寝床でも可愛いんだ。しかも、早く貴方の仔を産みたい。いっぱい家族がほしい。なんて、言ってくるから、ホント男冥利に尽きる、ってもんさ。
だからこそ、今回のお仕事を完璧に終わらせて、さっさと帰らねぇとなぁ。
それに、あと十日もすればガキどもが産まれるんだ。さくっ、とこんな仕事終わらせねぇと――。
「……おっ、どうやら見えてきたな?」
夜闇に紛れた木々の先、そこに木造の建物が見えてきた。あれが、ファラたちの村か。
さて、お仕事を始めますか――!
「それで、ナオ? 結果の方は――」
「問題なく。いま、ルードたちはこちらに帰還途中です」
「そうか……」
いくらルードたちが優秀だとはいえ、やはり多少の不安はあったが問題なくこなしてくれたようだ。
最悪の場合、後詰めを送ることも検討していたが、文字通り検討だけで終わって万々歳といったところ、か。
「それで、戦利品については?」
「はい、最重要として指名していた周辺国家が書き込まれていた地図の確保は完了。また、家に放置されていたハンスの予備用弓矢も確保した、とのことです」
「ふむ、そうか……」
「また、村の防備ですが。夜間ということもあってか歩哨はいたものの、その数は少数。警備もザルだったとのこと。やろうと思えば、今の自分たちだけでも制圧可能。と報告を上げてきています」
「そうか、そうか――!」
ふっ、ふふ――!
それは良い情報だ。なんなら、もう少し戦力を整えて一気に攻め滅ぼすのも悪くないなぁ。
「ただ、同時に気になる報告も上げてきています」
「ん? なんだ?」
気になる報告? ルードが、か?
ナオに続きを促すと、確かにそれは憂慮すべき報告だった。
「どうやらその日に偶然。村長宅にて会合が開かれていたようで、断片的に聞こえた内容によるとハンスとファラが消えた件についてだったようです」
「なるほど、それで?」
「……近々、開拓村の統治を任されている貴族の兵が調査に訪れる、とのこと。どうにも、我らのダンジョンが疑われているようです」
「ふむ、確かにそれは憂慮すべきかもなぁ」
ナオ越しにもたらされたルードの報告。確かに、それが真実なら問題となりかねん。
特に、今回は素人ではなく正規兵の可能性が高い。
だが、これは同時にチャンスでもある。
その正規兵どもをうまく撃退。殺害できればダンジョンは、大量のDPを確保できてさらなる飛躍を遂げることとなる。
面白いじゃないか。今あるDPの使い時かもしれないし、これに勝てれば一気に村も制圧できる。
まさに伸るか反るかの大博打、といったところか。
残念なことがあるとすれば、ルードの子供たちが今回は間に合わないことだが、それでも前回出番がなかったコボルトや、スケルトンアーチャーであるハンス。そして、即席ゴブリンライダー隊のルードたちの戦力評価も出来る、ということ。
まぁ、ルードたちに関しては無理をさせず遊撃に徹させるつもりだが。
それよりも今は迫り来る驚異。恐らく貴族の正規兵についてと、ダンジョンの強化案について考えないとなぁ。
「くくっ、これは楽しみになってきたぞ」
ダンジョンマスターとして、不躾な客どもを盛大におもてなししないといけないからな。
まさに腕の見せ所、といったところだ。
今あるDP、1700ちょっとをどう有効的に使うか。
ちょいと楽しみになってきたぞ。
取り敢えずある程度腹案を考えて、残りはルードが帰還したあとに情報の擦り合わせもしないとな。
さてさて、どこまで楽しめるか……。
俺は今後のことを考えながら、口角がつり上がるのを感じる。
チュートリアルがようやく終わり、ここからが本番なのだから、な。
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