第4話 新たなモンスター、新たな戦術

 結局のところ、今回あの侵入者を殺害した俺が手に入れた報酬。DPは2000DPとなった。

 今回、結果的に使用しなかった落とし穴設置に100DP、コボルト二体に150DP使ったことで最終的に俺が持つDPは2750となった。


「ふぅむ、あの男が強かったから2000の稼ぎになったのか。それとも、弱くともそれなりの稼ぎになる、ということなのか……?」


 俺は増えたDPを見ながら、そんなことを考えていた。まぁ、実際ダンジョン運営を始めて何もかもが手探りの状態。

 今後も引き続き侵入者を撃退、殺害して情報を得るしかないだろう。それよりも……。


「なんというか、こうもあからさまだと、逆に気になる、か……?」


 先ほど確認したホログラムのモンスター欄。そこにでかでかとNEWという文字が輝いていた。

 何らかのモンスターがアンロックされたということなのだろう。


「とりあえず、見てみるか……」


 俺は逸る気持ちを抑えて、新たに解放されたモンスターを確認してみる。

 確かにいくつか、以前は【???】と表記されていたところに、名前が追加されている。


「どれどれ……。コマンドウルフに、スケルトン。それにスケルトンアーチャーか」


 今回解放された三体。まず、全体的に青い体毛と、腹側が白い体毛で覆われた大型の、ゴブリンならそのまま騎乗できそうなほどの大きさを持った狼、コマンドウルフ。

 それと俗に言うアンデッド。人骨だけの姿で動き回るモンスターであるスケルトン、ならびにスケルトンアーチャー。


「今まで、と言っても二体しかいなかった訳だが、それでも唐突にアンデッドが生えるのは不自然だな。人間を殺して人骨を手に入れたから、か? それに、あれが弓を持っていたからスケルトンアーチャーも出てきた、と考えるとある程度納得できるか?」


 ……まぁ、本当にそうだという確証はないし、これも検証出来れば、という話であるが……。


「なんにせよ、選択肢が増えるのは良いことだ。手札が増えれば増えるだけ、取れる対策が多くなる。ということだからな。それに……」


 ダンジョンの肥やしになった男の姿を思い出す。あの男は旅人という風貌ではなかった。ならば……。


「近くに集落がある、ということ。ダンジョンコア――」

「なんでしょうか?」

「ダンジョン付近の地図を表示することは可能か?」

「不可能です」


 即座に否定されてしまう。

 まぁ、なんとなくそんな気はしていた。


「なら、モンスターをダンジョンの外へ探索に出してマッピングすることは?」

「それならば可能です」


 なんというか、痒いところに手が届かない。そんな微妙な使いづらさがあるが……。


「それでも、マッピング可能なだけまだマシ、なんだろうな。そうなると、コマンドウルフを呼び出したいが……」


 一体呼び出すのに250DP必要だから、結構重いんだよなぁ。

 それでも今後のことを考えると呼び出しておくべき、だな。


「必要な時に経費をけちって、後で慌てるのはバカのすることだからな」


 取り敢えず、コマンドウルフを三体召喚。これで750DP、初期の1000DPが無くなった形か。後は……。


「そう言えばダンジョンコア――。ううむ、毎回、毎回、ダンジョンコアというのも面倒くさいな」

「そうですか?」


 ダンジョンコア自体はそう感じていない様子だ。だが、俺としては呼びづらい。ふむ……。


「確か、ダンジョンコアNo.70だったな」

「はい、それで間違いありません」

「なら今度からナオ、No.70だからナオと呼ぶ」

「了解しました、ダンジョンコアNo.70【ナオ】。名称登録しました」


 うむ、これで良い。それじゃあ、改めて本題に入るか。


「それでナオ、改めて質問だが」

「なんでしょうか?」

「違うモンスター同士で共同作戦をさせることは可能か?」


 正確に言えば今回のスライムとゴブリンもそうなのだろうが、あれは極論で言えば、ただ単にスライムをくっつけていただけだ。

 それでは、共同とは言いづらい。

 それで、俺が考えているのはゴブリンの騎兵化。ゴブリンをコマンドウルフへ騎乗させてゴブリンライダー、といったところか。

 洞窟内部では使い道はないだろうが、近い出番で言えばダンジョン外部の斥候。マッピング要員に。

 そして、ゆくゆくはダンジョン拡張後に遊撃隊として運用したい。

 そのためのテスト、という意味合いもあるが……。

 その俺の意図を汲み取ったのだろう。ナオは俺の疑問に肯定の返事をする。


「それならば可能です。しかし、ある程度の訓練。もしくはDPを追加使用する必要があります」

「訓練は分かるが、DPの追加使用?」


 どういう……。あぁ、もしかして――。


「それは、DPを使ってゴブリンに何らかのスキルを習得させる、ということか?」

「その通りです。ゴブリンに騎乗スキル、もしくはゴブリン自体の知能を向上させることである程度、期間の短縮が見込めます」

「……少し待て。知能を向上? それは、つまりDPを消費させることでモンスターを強化可能、ということか?」

「はい、その通りです」


 ナオの返事を聞いた俺は、知らず興奮から拳を握りしめていた。

 今回の侵入者討伐では、俺が各ゴブリン、スライムへ指示を飛ばしていたが、モンスターを強化可能ということは、簡単に考えれば前線指揮官を任せるモンスターを生み出せる、ということだ。

 今の規模が小さいダンジョンであれば、俺が直接指揮してもなんとかなるだろう。しかし、今後規模が拡大すれば、どう考えても手が足りなくなるのは明白だ。

 それをどうにか出来る可能性が提示されただけでもかなりの朗報。

 あの死んだ男、やつの服装から考えても文明レベルはそこまで高くないように見えた。

 少なくとも、大量生産の技術があった近世ではなく、中世。それぐらいのレベルだと予測できる。

 その時代にある程度の軍事的行動。指揮系統があるのと、ないのとでは雲泥の違いだ。

 それこそ、こちらの主戦力がゴブリンであっても、それなりに善戦できる可能性は高い。


「ふふっ、あっははははっ――!」


 俺は奥から込み上げる笑いを抑えることが出来なかった。

 これなら、上手くいけばかなりの楽が出来そうだ。早速、その事を考えなければいけないのだが――。


「はははははははは――――!!」


 今は、この清々しい気持ちを満喫するとしよう。考えるのは、それからでも遅くない。

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