第2話 初めてのダンジョン作成

 ――ダンジョンマスター、それはダンジョンの支配者にして管理者。同時に彼の者が命を失えばダンジョンも崩壊する。いわば、ダンジョンの命そのもの。

 そんなダンジョンマスターになった俺は――。




「……ダンジョン、マスター」


 その名前――役職とでもいうべきだろうか――は、俺も知っている。と、いっても俺の記憶の片隅にあるサブカルチャー。創作物として、であるが。

 一般的にモンスターを生み出したり、罠を設置することで冒険者などのダンジョンを訪れたものを撃退し、撃退の報酬でダンジョンをさらに強化して――。というのが流れだったと思う。

 しかし、そんなダンジョンマスターに俺が……?


 でも、確かに納得できる部分もある。

 さっきまで道ですれ違っていたゴブリンが、俺に危害を加えなかった理由。それが判明したからだ。

 ある意味当然だ。いくら一般的にゴブリンは知能が足りないモンスターだといわれても、さすがに自身が住んでいる場所の家主を傷つけようとするほど馬鹿じゃない。

 つまり、俺のことをダンジョンマスターとして、あるいは候補として認識していた。ということになる。


 また、冒険者などを撃退した際に手に入る報酬。それも俺の記憶と、先ほど詰め込まれた知識。両方から得ていた。


 ――DP【ダンジョンポイント】


 俺もまた創作物のダンジョンマスターたちと同じように、このポイントを通貨のように使いモンスターを生み出し、罠を設置することが出来る。ということらしい。だが……。


「ダンジョンコア、ポイントと使用方法について確認したい」

「了解しました」


 俺の要望にダンジョンコアは無機質な声で応えると、目の前にホログラムのようなものが表示された。

 その中には、おそらくいまの俺が保有するDPである【1000DP】の表記と、カタログのようなもの。

 簡素にモンスター、トラップ。と表示された二つのものがあった。


「実際に項目を参照したい場合、画面をタッチしてください」


 ダンジョンコアから説明を受けた俺は、とりあえずモンスターの項目をタップしてみる。すると、モンスターの名前が列挙された画面に移行するが……。


「これは……」


 その殆どが【???】という表示とともに画像も隠されていて、実際に参照できるのは先ほど出会ったスライムとゴブリン。そして、二足歩行している犬らしきモンスター、コボルトだけだった。


「あまりに少なくないか?」

「現在、マスターの権限は大部分がロックされています。解除するためには、まず実績を上げてください」

「実績……」


 ダンジョンコアが言わんとすることは分かる。

 つまり、初心者の俺には、まずダンジョンマスターとして最低限職務をこなせる、ということを示せ。そういうことなのだろう。

 ……と、なると罠の方もにたような感じなのかもしれない。

 俺は一応、罠の方を確認するためそちらもタップしてみる。


「こっちは落とし穴(オプションなし)と、沼(オプションなし)だけか……」


 オプションなし、という表記が気になるが。

 単純に考えるなら、落とし穴の方は穴底に槍衾を仕掛けたデストラップ。沼に関しては毒沼や、底無し沼、といった感じだろうか。

 もしかしたら、他に思い付かなかったトラップや、別種。それこそ転移系のトラップなどもあるのかもしれない。

 ……まぁ、どちらにせよ、いまは使えないのだから考えても仕方ない。

 かといってこのまま侵入者を待つのも悪手。いま使える手札だけでどうにかする必要があるだろう。


「そういえば……」


 俺は、ふと気になることがあって、ふたたびモンスターの概要を確認する。


「ゴブリンは特殊能力なし。……いや、繁殖力が高い? それに、スライムは物理に耐性、か」


 スライムの方は分かりやすい。簡単に考えればゴブリンの盾役として使える、ということか。それに、考えようによっては侵入者にまとわりつかせることで拘束、場合によっては窒息させることも可能。なにせ、物理耐性だ。もがいたところでそうそう外せまい。

 それにゴブリンだ。こちらは他種族の女性であっても、そういうことが可能。ということか。

 ならば、侵入者をうまく使え、ということになるな……。


「特に、俺が正式にダンジョンマスターとなる前から、ゴブリンたちはこちらに危害を加えようとしなかった。それはつまり――」


 ダンジョン内であれば俺が召喚した、していないに関わらずある程度の命令権はある。て考えるのが妥当。

 なら、ゴブリンが初期からいるのはある意味救済措置か。

 もし、DPが尽きたとしてもゴブリンを繁殖させることで雑兵は確保できる、という意味で。


「まぁ、だからといってそれに胡座をかく訳にもな……」


 まぁ、良い。それよりも最後の確認をするべきか。俺はそう思うと、最後の、コボルトの欄を確認する。

 さて、こちらは……。


「うぅむ、これは……」


 なんというか、本当にコメントに困る。

 確かに、ゴブリンやスライムよりは強い。しかし、それだけだ。


「スライムやゴブリンのように目立った能力はなし。強いて挙げるなら、犬と同じように嗅覚が良い程度か」


 現状のメンバーで考えるなら、斥候役+アタッカーとなる、か……?

 火力に関しても、ゴブリンよりはまし。程度でドングリの背比べ感はぬぐえないが……。


「まぁ、なんにせよ。いまは試してみるが肝要か」


 そう気持ちを切り替えると、俺はコボルトを二匹。一匹75DP、計150DPで召喚し、罠として落とし穴を設置しつつ、侵入者を待つのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る