第22話
カウンターの向こうには若いの女性が二人いた。見た目は高校、大学生くらい。大人びているだけで、本当はもっと若いのかもしれない。私服を着ているのでオジさんの目からはなんとも言えない。
いつの間に入ってきたのだろうか。入口から入ってきたならばエリが何らかアクションを起こしたはず。彼女が声をかけないって事は認知していないのだろう。
レジヘ目を向けるとエリの姿があった。お客さんの相手をしている。きっと、会計が立て込んで入店を見落としたのだろう。
「ここ、良いでしょうか?」
黒髪の女の子が問う。拒否する理由も無いので、肯定の意を短い言葉で伝えた。
声をかけた黒髪の女の子は、落ち着いた物腰と容姿から清楚なお嬢様に見える。だが、カラーコンタクトを入れているらしい目は左右で色が違っている。いわゆるオッドアイ。アニメのキャラクター以外でそんな人を見たことも無い。ヤンチャしたいお年頃なんだろう。エリにもそんな時期があったに違いない。
黒髪のお嬢様の隣に座る女の娘。彼女はなんと言うか・・・ギャルだな。髪が明るいオレンジだ。それだけでもヤンチャな印象を受ける。それに加えて布面積が少ない服装。オジさんとしては目の保養と言うか、目のやり場に困ると言うか。オレとは無縁な人種である。
最近の若い子達の好みを理解するのは難しい。だからと言って、個人の好みを否定したい訳ではないぞ。
黒髪清楚なオッドアイ、それだけでも情報量過多だ。黒髪とオレンジ髪、二人をそう呼称する。こんな呼び名にして申し訳ないが、お嬢とギャルよりは分かりやすいと思う。
店内状況を見ると、テーブル席が二つほど空席となっている。椅子に座ろうとしている二人に声をかけた。その二人とはもちろん黒髪とオレンジ髪だ。
「今帰られたお客様がおりますので、後数分お待ちいただければテーブル席へ案内が可能ですよ。」
オレは料理人と言えどサービスマンの端くれ、当然のアナウンスと言えるだろう。少し変わってそうな二人だけれど、他のお客様同様のサービスをしなくてはならない。
二人に聞こえる声で言ったつもりだ。オレンジ髪へ目を向けた。
「どうします?」
「いいよ、ここで。それよりも、お腹減ったから早く食べようよ。」
オレンジ髪がカウンターの椅子の背もたれに手をかける。とりあえず座りたい、そう言っているようにも見える。
「あらそう、
黒髪がこちらに目を向けた。彼女が何を言いたいのか察する。
「どうぞ。」
カウンター席に座るように促した。それから、メニューを二冊取り出して二人に渡した。
お嬢様と一見ヤンキーにも見える二人の女の子。時刻は九時を回っている。車を所持している年齢には見えない。家が近所なのか。それとも、たまたまこの店の近くで用事があったのか。変質者が現れたって話は聞かないけれど、若い娘が遅くに出歩くのは関心しないな。こんな事を考えるのはオレがオジさんになった証拠なんだろうか?
何にせよ気になるのは確かだ。
オレンジ髪・・・梨夏と呼ばれていたか。その梨夏と黒髪の注文が決まるまで手持ち無沙汰である。若い二人だ、きっと注文するのだってパスタが二皿程度だろう。
「少し飲もうかな。」
オレンジ髪の梨夏の声だ。まさかお酒か?それならそれで確認が必要な案件が一つある。
チラッと二人へ目を向けた。すると、黒髪がオレンジ髪の梨夏ヘ一言。
「何を馬鹿な事を!アナタ、この国ではまだアルコールが禁止されている年齢じゃないの。お酒はダメよ。」
やはり未成年だったようだ。この国では、この言葉が妙に引っかかる。帰国子女なんだろうか。それならば、顔立ちが日本人っぽいから日系人だろう。
「えー、そんなお硬い事を言わないでよ。いつも飲んでるんだから大丈夫だよ。」
年齢はわからないけれど、お酒を常飲しているらしい。見た目の年齢通りならば、オレンジ髪の梨夏は純粋に不良だと断言できる。
「アナタが酔っ払って補導されでもしたら店主さんが困っちゃうじゃない。この国のルールは守らないといけないわ。」
まったくの正論だ。その場合、提供した店に責任が生じる。この国のルールをよくご存知だ。
二人の目がオレに向けられる。方や意見の正当性を主張し、もう片方は懇願する目をしている。若い女の子にこんな目で見られると、オジさんとしてはそのお願いを聞いてあげたくなってしまう。
「ダメですか?」
オレンジ髪の梨夏が上目遣いで言った。よほどお酒が飲みたいのだろう。
「そうですね・・・お連れ様が言っている通りです。私としてはこの店でお酒を提供して補導されるのは非常に困るんですよ。最悪、営業ができなくなる可能性がありますので。なので、お酒は身分証を提示していただいて年齢の確認がとれてからでお願いします。」
今の御時世は厳しいからな。オレは警察に目を付けられたくはない。面倒な案件は先手を取って回避してしまうに限る。
「ほら、店主さんもダメって言っているじゃない。今日は食事だけにしておきましょうね。」
黒髪の言葉に対し渋々返事をするオレンジ髪の梨夏。二人で同時にメニューを開いた。日本語で書いてあるメニューだけれど、メニュー名を読むのに苦労している様子だった。語学に精通している訳でもなさそうだ。話せはしても読むことはできないのか。まるで、教育が義務化する以前の子供みたいだな。
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