実験と王女来訪と
「それじゃ、まずは普通に動かしてみる」
「はい! お願いします!」
翌日の朝……。
俺はエルメリア軍の魔術師に囲まれながら、エルメリア軍主力巨兵――ラーバへと搭乗していた。
「うん……なるほど。
アルタイルと同じ感覚で動かせるな」
視界というには、あまりに心許ない兜の覗き穴から周囲の様子を確認し、つぶやく。
魔水晶に念じれば、ラーバの首は、俺が見たいと思った方向に曲がり……。
試しにやってみると、人間が柔軟体操をするよな動きも取ることができた。
ただ、やはりというか、関節域はやや狭いな。
例えば、肘関節などは90度くらいまでしか曲がらない。
内部フレームを持つアルタイルが、極めて柔軟かつ自然な動きを取れるのに比べると、雲泥の差であるといえるだろう。
ひとしきり、機体の動きを確認し……。
俺は、覗き穴から外に向かって叫ぶ。
「本体に問題はない!
それじゃ、実験を開始する!」
「はい!」
下の方から返ってくるのは、クリエルの返事だ。
視界が狭くて見えないが、その隣ではバルターさんもこちらを見守っていることだろう。
彼女ら親子だけではなく、大勢の魔術師が見ているのを装甲越しに感じながら、魔水晶へと念じる。
――変われ。
脳裏に思い描くのは、アルタイルの詳細なイメージ……。
インナーフレームから、各部の装甲……。
各所に配置されたアポジモーターから、武装に至るまで……。
全てが、アニメ内での活躍と共に思い起こされた。
一つ異なるのは、昨日とは違い、俺の専用機というイメージが入っていないことだ。
クリエルとも話したが、どうもアルタイルが他者の操縦を受け付けないのは、生成時に俺だけのワンオフ機に乗せてくれと願ったのが影響しているっぽいからな。
――さて。
――どうなる!?
俺は、魔水晶から放たれる光に身構えていたが……。
「何も、起きないな……」
機体の制御を司る水晶玉は、沈黙を保ったままだ。
――変われ。
――変われ。
その後も何度か試してみたが、やはり、あの時のような現象は起きない。
仕方がないので、機体を膝立ちにし、頭部の兜を開かせた。
「……駄目だな。
あの時みたいには、いかなかった」
中世の鎧じみた形状をしているラーバの装甲は、湾曲していて少しばかり滑りやすい。
落っこちないように注意しながら降りて、皆にそう告げる。
「同じようにいくかと思ったんですが……」
がっかりしているクリエルをよそに、バルターさんは思案げに顎へ手をやっていた。
「ふうむ……。
これは、状況が関係しているのかもしれませんな」
「状況ですか?」
問いかけると、彼がうなずく。
「はい。
そもそも、すでに生成されている巨兵が、再度の生成を受け付けたこと自体、前例がないことですから。
話を聞いたところ、その時タチバナ殿は、まさしく絶体絶命の状況であった。
死にたくないという強い思いが、限界を超えた想像力となり、魔水晶に作用したのではないでしょうか?」
「死に物狂いだったのが、功を奏したってわけか……」
言われてみれば……。
あの時は、走馬灯じみた感覚で、アルタイルのことが浮かんでいたように思う。
イメージに強度があるとすれば、今の落ち着いた状況で浮かべたそれより、遥かに頑強なものであったろう。
「王都の工廠って所なら分からないけど……。
とりあえず、この場所で同じことをやるのは無理ってわけか……」
「本体が駄目ならば……」
バルターさんが、挙手しながら口を開く。
「あの光を放つ筒……。
あれを、あの盾と同じように生成できませぬか?
仮に、同じものを五つ用意できたとしたならば……。
こちらから攻め込み、帝国軍を殲滅することも夢物語ではありませぬ」
そう言いながら、彼が視線を向けたもの……。
それは、俺が昨日生成したシールドであった。
ただし、手にしているのは、アルタイルではない。
名も知らぬ重騎士――ここではパイロットをそう呼ぶ――が操縦するラーバによって、板を持つように保持されていた。
――上半分まで、巨兵用の剣がめり込んだ状態で。
あれもまた、検証の産物である。
果たして、新しく生成されたシールドは、どの程度の強度があるのか……。
それを、確かめてもらったのだ。
結果は、ご覧の有様。
巨兵の剣戟には耐え切れず、潰れてしまったのであった。
これもまた、ここにいる全員で検証した結果だが……。
どうも、俺のイメージにシールドは破損するものという認識があったのが、原因のようである。
また、そもそもの問題として、絶対に壊れない品というのは、人間に想像できる限界を超えているため、生成された例はないそうだ。
イメージの限界ってことだな。何かの漫画でも見たような話だ。
と、なると、である。
「作れたところで、ラーバではおそらく撃てませんね。
あれは、引き金だけで撃つのではなく、グリップに存在するコネクタと、本体手のひらに存在するコネクタを接続することで動作させていますから。
それに、エネルギー供給の問題もあります。
基本的にはライフルのEパックを使って発射しますが、機体側からの供給も必要ですので」
期待するバルターさんに向け、すらすらと語った。
これらは、作品世界内の設定であり……。
すなわち、俺のアルタイルに対する認識であり、イメージでもある。
魔水晶はそれを、忠実に反映しているはずだ。
ならば、試すまでもなく、ラーバがアルタイルのライフルを使用することは出来まい。
「ふうむ……。
タチバナ殿のお話は半分も理解できていませんが、ともかくアルタイルにしか使えないわけですか……」
「残念ですね。
こう、ラーバでも使えるような形で創造し直すことは出来ないでしょうか?」
「ならば、新たに魔法陣を用意しましょう」
「そうですな。
タチバナ殿の創造を補佐するのです」
バルターさんやクリエルの言葉に、実験へ立ち会った魔術師たちも意見を出していく。
鎧を着た兵隊さんが駆けてきたのは、そんな時のことだ。
「王都より、二輪による伝令が届きました!
レメーラ殿下自らが、こちらに向かっているとのこと!」
「何!?
レメーラ殿下が!?」
レメーラという俺の知らない名を聞いたバルターさんが、顔色を変えた。
「はっ……!
殿下ご自身は、二輪ではなく王族用の四輪で来られるため、遅れてのご到着となられるそうです」
「なるほど……。
よし、自分の任に戻れ」
「はっ!」
バルターさんの命令で、兵隊さんがきびきびと立ち去る。
どういう理屈で、この世界の言葉が理解できているのかは分からない。
ともかく、殿下と呼んでいるってことはだ……。
「王族の人が来るってことか?」
「はい。
レメーラ様は、我が国の王女であり、唯一の王位継承者です」
小声で聞いた俺に、同じく小声でクリエルが返す。
そして、さらに小さな声でこう付け加えたのだ。
「父から聞いた話では、勇者召喚の儀式を執り行ったのが、レメーラ殿下であると……」
「ほう……」
そいつは、ありがたい話だ。
事によっては、地球へ帰れるかもしれない。
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