第13話 週末はミチコと
11月を過ぎると、年末までなんでこんなに早く過ぎ去るのだろう。先日まで紅葉だと思っていたら、あっという間に街はクリスマス一色になっていた。
クリスマスケーキ、クリスマスプレゼント。街はいつになく華やいでいる。
そんな街並みを眺めながら、ここ1か月間のことを思い出す。
医者にがん宣告をされたにも関わらず、それを他人事のように放置する夫。そして、そんな夫と子供が欲しいと言って付き合い続けているミチコ。この私はと言えば、大人になってからこれだけダメだしをされたことはないのではないかと思うくらいの言葉を医者から浴びせられたまま、立ち直れずにいた。
何がいけなかったのだろうか。
10年間、ある程度、普通に夫と暮らしてきたつもりだったのに、ここ1か月の間に、それはただの妄想だったということがわかった。どこでどう間違っちゃったのかな。どうしてもわからない。私が悪かったのか、冷たすぎたのか。
医者に宣告をされて以来、夫は堂々とミチコの家に泊まるようになっていた。私が許すか、許さないか、という問題ではなく、もうバレたのだからむしろはっきり言ったほうがいいだろう、と言わんばかりの態度だ。
今週末さ、ミチコの家に泊まるから心配しないでね。
はぁ。そうですか。子供、できるといいですね。と、心の中で嫌味を言いつつも、夫には、うん、わかった、と返すことにしていた。
そうだ、もしこのタイミングで子供ができて、夫が亡くなったら、遺産とか認知とか、そういうの、どうするんだろう。
私はお金に執着ないし、自分で働いているし、自分一人なら困ったことにはならないはずだけど、これがもう1人養わなければならない子供がいるとなったら話は別だ。ミチコは見るからにお金なさそうだし。それに、私には夫とミチコの間に生まれた子供を養い続ける義務はないはずだ。
ない、はずだよね。
そして、この状況でこんなことを考え始めている自分が嫌になる。これが冷たいと言われるゆえんなのか。少しは夫の病状を心配したらどうだ、と言われそうなものだが、ここにきて開き直っている夫を見ると、心配すべきなのか、彼が残りが少なくなっているだろう人生を謳歌しているのを応援すべきなのか、わからなくなる。
週末はミチコと。
これは、ここのところ定番になっている。今までも、週末はいつも夫と過ごしていたわけではなかったけれど、時にはバイクで海に連れて行ってもらったり、一緒にショッピングしたりしたものだった。
私は街のイルミネーションを眺めながら、夫は来年、この世にいるのだろうか、とぼんやりと考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます