知りたく無かった事実
「ちゃんと本当のこと言って。そうしないと痛い目に合うわよ?」
そう彼女は言うと、どこからかナイフを手に持った。
今日で2回目のナイフだ。
しかもそれが同じ幹部から。
僕はこの瞬間思った。
この組織を辞めたいと―――――
僕は絶体絶命に陥っている。
僕の目の先には、美少女――否、騙されてはいけない。
僕の目の先には、セカンド。
組織の中でトップに並ぶ実力者がいる。
そんな彼女は得物を持ち、ものすごい殺気を僕に放っている。
暗殺者同士の喧嘩のようなものは度々起こる。
その喧嘩のようなものには必ずと言っていいほどの理由がある。
だが今、この現状は理由など存在しない。
もとより僕にさえ何故彼女が怒っているかわからない。
ただ一つだけわかるのは、彼女は僕を殺す気だということ。
「いや…あの…セカンドさん?い、一旦お、落ち着きません?」
取り敢えず僕は、彼女を落ち着かせようとした。
そうすると、彼女は一層得物を持つ力を強めた。
「落ち着いて? 私はいつだって落ち着いているわ。だから答えて。なんでこの部屋はこんなに片付いて、しかも夜逃げするように荷物をまとめているのかしら」
「そ、それは……」
僕が言葉を濁すと、彼女は鋭い眼で僕を見ながら、
「もしかして――この組織を辞めるつもりだったのかしら」
「っっ!」
よくある漫画で【ギクッ】となるのはこのことか。
今の彼女の問で焦りを出せばそれが答えだとバレる。
彼女は暗殺者だ、表情を見分けることだって容易だ。
しかし、腐っても僕も暗殺のプロ。
表情をバレないよう作ることだってできる。
「今の反応――――――」
「いえ、セカンドさんからそのような言葉が出るとは思ってなくて、びっくりしただけですよ」
彼女は眼を細め僕の目をジッと見た。
そして彼女は得物をおろしながら、
「ふ〜ん。確かにその目には嘘はないようね。…じゃあどうして部屋を片付けて荷物をまとめているのかしら」
ここが難問だ。
彼女が僕がここの組織を辞める事については知らないらしい。
さて、なんと言えばいいだろうか。
この一瞬脳を巡らせ考えた。
そうすると、一つの考えが浮かんだ。
「実はですね…この部屋から引っ越そうと思いまして。理由は色々あるんですけど、とにかく辞めるとかそういうのじゃないですよ」
これでどうだ?
かなりの演技が決まったはずだ。
彼女の返答を待つと、口を開いた。
「残念だけど、引っ越す部屋なんてもう無いわよ」
「え?」
「そもそもこんなに広い組織とはいえど、部屋は限られているわ。今じゃ組織の人間が多すぎて、空いている部屋が無い状態よ。それなのに引っ越す? どこにかしら?」
「え、あ……」
そうだった。
焦り過ぎて忘れていたが僕が前に引っ越そうと思ったら、ボスがもう空き部屋はないと言っていた。
「というか、それだけじゃないけどね。
さて、あんたの演技は凄かったわよ? 私でも見抜けなかったんだから。でもそれって私に―――嘘、ついたってことよね?」
彼女は再び得物を僕に向けた。
ここまでか。
僕も得物を手に持った。
覚悟を決め手に持っていた得物に力を込めようとしたとき、突然耳元で声がした。
「声がすると思たら、何してん? テンスくん」
「う、うわぁぁ!?!?」
びっくりして咄嗟に壁際へと下がった。
「あ、堪忍なぁ。驚かせてもた?」
急に現れた少女―否、美少女はサードと言う。
金髪の短めで丸みのあるボブで、目元は細く、おっとりとした雰囲気と悪戯好きの雰囲気の二つを持っている。
そんな彼女はサード、つまり、組織の中でトップだ。
なぜそんな彼女がここに?
僕が驚愕の表情を浮かべているなか、セカンドは眉一つも動かしていなかった。
その表情はまるで来るのがわかっていたような。
「何をしに来たのかしら? サード」
セカンドは僕に向けていた殺気よりも、比べ物にならない圧をサードに放っていた。
「たまたま通りかかったら声がしてな? ウチは様子を見に来たんや」
そうかたまたま………僕の部屋に?
僕の部屋は組織の中で端っこにある。
僕の部屋を通りかかることなんてほぼ無いはず。
しかも用事があっても僕の部屋の横を通るはずがない。
それなのに何故―――
「嘘つかないでくれるかしら」
そうセカンドが言うと、サードの閉じていた目がうっすらと開き、碧色の瞳が覗いた。
「嘘ってどないな意味や?」
「惚けないでくれる? あんたが盗聴器やカメラをテンスの部屋に仕込んでいたの知ってるんだから」
ん? え? 盗聴器、カメラ? 何を言ってるんだ?
「へぇ~。なんでわかったん?」
盗聴器やカメラなんて無いはず。
僕は盗聴器などを見つけることぐらい容易い。
なのにある?この部屋に?
僕が見つけられなかったってこと?
「ふん、あんたの手口なんて知り尽くしているほどよ」
「せやけど、あんただって盗聴器とか仕掛けとるやろ」
え?
セカンドは髪を払うようにして、
「当たり前じゃない。いつでもテンスの様子を見るためよ。あんたみたいな変な虫がつかないようにね」
え?
サードは得物を手に持った。
「ウチだって、おんなじや。あんたみたいな変な虫、テンスくんにはいらへんやろ」
いや、ちょっ
その瞬間、戦いの火蓋が切られた。
――――――――――――――――――――
読んでくださりありがとうございます。
〇〇弁ってムズイっすね…………
暗殺組織幹部最下位の僕は辞めたい 〜他の幹部達とボスが離してくれません〜 ふおか @Haruma0000
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