第2話 大神殿と創造主
大神官バレルのあとについて、クレスは大神殿の門をくぐった。
バレルは正装である深緑色の長衣に身を包み、クレスは神官学校の制服である深緑色の上着と
大神殿は、この国の中枢機関であるので、それなりに大きな敷地面積をもつ。
門から二階建ての大神殿までは、大きな広場になっており、一画に樹木が植わっていた。
樹木の中には小さな
いま主島では冬の季節が巡ってきているので、広場の奥に植わっている花々は、冬の花が色とりどりに咲いていた。
樹木の上には昨日ふった雪が帽子をつくっている。
大神殿の敷地には新雪が敷かれて、それが太陽の光にきらきらと輝いていた。
そして、この寒さの中でも大神殿に手続きにくる人々が、一階の第一区画に入っていくのがちらほらと見えた。
その雪や人を見ながら、クレスは父である大神官バレルのあとをついていく。
大神殿の入口に立っていた門番の神官も、バレルを見ると深く頭をさげて大神殿内に彼らを通した。
クレスがいままでに大神殿に入ったことがあるのは、第一区画までだ。
一般の住民は、この第一区画までしか入れない。第二区画や第三区画には、入る意味がないからだ。
区画は建物ごとに分かれており、第一と第二は正面の二階建ての建物の中に、第三区画、聖殿がある場所はその裏に中庭を挟んで大きな白亜の宮がたてられていた。
クレスたちは大神殿の建物を通り越し、中庭を抜け、その大きな白亜の宮へと入る。
大神官バレルはクレスを創造主リアスに会わせるために、この大神殿につれてきたのだった。
それは、創造主リアスが、次期大神官のクレスを呼んだから。
だから昨日の晩、大神官バレルはクレスを必死になって探していたのだ。
「宮の扉をあけよ」
バレルがそう言うと、門番が扉を開ける。
白亜の宮の白い扉がぎいという音をたてて両側に開く。
聖殿の中は高い天井から橙色の光が降り注ぐ、広くて神聖な場所だった。
その聖殿の中央、数段階段を上った場所に椅子があり、その前に深緑色の長衣を纏った老爺が立っていた。長い髪はすべて白く、後ろでゆるく縛っていた。ヒゲも白く、背は高い。子供が読む、童話の中の魔法使いのようないで立ちで、身長よりも長い杖をもっていた。
バレルは片膝を折った最敬礼でその人物に頭を下げる。
それにならってクレスも片膝を折り、最敬礼で頭を下げた。
創造主リアス。
あまり人々の前にその姿を現すことはないが、確実に存在する方だと、この世界のものは誰もが知っている。
「頭をあげよ」
「はい」
大神官バレルが返事をして創造主リアスの前に顔をあげる。
クレスもそれに
「そこにいるのが、お前の息子であるクレス・クレウリーか」
初めて見た創造主リアスに自分の名前を呼ばれ、クレスは緊張しながらもリアスの目を見て明確に応えた。
「はい。わたしがクレスです」
その様子を見て、創造主リアスは笑んで目を細めた。
父親であるバレルに向かって、その口をひらく。
「なんとも、元気がありあまってそうな息子ではないか」
バレルは再び頭をさげた。
創造主リアスはそれをもう一度、目を細くして見やると言葉をつづけた。
「クレス、お前が次期大神官候補なのだな」
「はい」
周知の事実として決まっていること。
それを創造主リアスから言われると、この世界のことなど何も知らない自分に、不安が沸き起こった。
「そうか。ではクレス。これからお前に次期大神官としての任務を与える」
「任務……ですか?」
「そうだ。この世界のことは神官学校で習っているだろう。
「はい、もちろんです。春島を護る
「そうだ。今回は、この季主の元へ行って、私の書いた手紙の返事を皆からもらってきてほしい」
「手紙の返事……ですか?」
「ああ。しかし、この手紙の中を見てはいけない。季主からの返事をみてもいけない。この主島を出て四つの島をめぐって手紙の返事をもらい、またここに戻ってくるのだ」
それを聞いて、その任務にクレスは興味をもったが、少しだけ不安を感じた。クレス自身がこの主島から出たことがなかったからだ。
だが、四つの浮島を巡る旅は、面白そうだ。
「かしこまりました。その命、
そう力強く返事をすると、創造主リアスはそば仕えの神官に、用意してあった二通の封筒をクレスに渡すことを命じた。
大神殿の象徴色である深緑色の縁飾りのついた、二通の手紙。それは、紐を巻いて開閉できるようになっている、封筒だった。
見ようと思えば見ることが出来てしまう作りだ。
一方には通行手形、と書いてある。もう一方には何も書いていなかった。
「一方は季主に会えるように取り計らう通行手形。もう一方は季主に見せる手紙だ。出発はなるべく早く。仕事の期限はないが、終わったらすぐにわたしの元へもどってきて、季主からの返事を
聖殿にふかく響いた創造主リアスの声に、クレスと大神官バレルはまた片膝を折った最敬礼で頭を下げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます