第18話ガトラー
「あぁ~…疲れたー……」
奴隷商館で盗賊達を売り払った後、王都の主要施設をペペットに案内してもらいつつ半日過ごした俺は、少し夕食時に遅れながらもメルメスの屋敷へ戻り、自分が宛がわれた客室のベットへ倒れ込んでいた。
「なんだろ?ずっと馬で移動してたから足が鈍ったのかな?たった半日で足が張ってる気がする…」
ブルスの街ではずっと立ち仕事ばかりだったので、たった半日歩き回っただけで足が疲れるなんて大分久しぶりの経験だ。
俺はベットの上で足をコネコネと揉みほぐしながら、先程までの王都観光を思い返す。
「……しっかし流石王都、半日歩き回って街の半分も見れずに終わったな。一応【王城】【冒険者ギルド】【メインストリート】【聖教会の大神殿】……あとペペットさんに『入ったらダメですよ』って教えられた【スラム】の場所はわかったから、明日からは1人で王都観光に出掛けれそうだけど」
【王城】はその名の通り、この国の国王や貴族の中でも上位に位置する王侯貴族達が仕事場にしている場所で、前世で言う国会議事堂。……いや、国王一家が住んでいる点から考えれば米国のホワイトハウスの方がイメージ的には近いだろうか?
流石に中には入れはしないが、王城の入り口である【城門】から全長何百メートルあんねん!ってツッコミが出そうな程デカいお城を眺められるようになっていて、観光客らしき人も結構いた。
【冒険者ギルド】は特に別の街と特段変わりはないっぽいが、やはり国の中心たる王都だけあってギルドの建物もデカく、かなり目立つ感じだったのは印象的。
そして、そんな【冒険者ギルド】が建っているストリートこそ、この王都で一番の【メインストリート】。今日はざっと見て回っただけなので、どんな店が立ち並んでいるのかは詳しくは知らないが、ペペット曰く『宿場町で見た“魔法屋”の本店や攻撃性の薄い魔物を売るペット屋などもありますよ』と言っていたので、俺が知らないような店が沢山あるのだろうと予想できる。(ちなみに、先程盗賊達を売り払った奴隷商館もこのメインストリートの端っこにあったりする)
次に【聖教会の大神殿】なのだが……これに関してはただ一言……『真っ白』!
いや、うん…本当にただただ真っ白って印象しか無かったな。もちろん大神殿と言うだけあって建物はデカいし、建物の所々にはめ込まれたステンドグラスはキレイだったんだけど、それ以上に太陽の光を反射するほど磨き上げられた真っ白の壁に目が行ってしまい、そんな印象しか浮かばなかった。
なんでも『創造神パタールナ様を崇める教会の壁が汚れているなど言語道断!常に清潔さには気を配りなさいッ!』と教皇様?とやらが毎日大神殿の壁を磨きまくるので、異様に目が眩しい真っ白い教会が出来上がっているのだとか。
……教皇って、一応一番偉い人…だよね?その人が自ら壁掃除をしてるって聞いた時は思わず『え?』と聞き返してしまった。……まぁ信仰心が無い腐ったエセ聖職者よりは断然マシだけれども。
「そんで…【スラム】かぁ…やっぱりこういう世界観ならあるんだなぁ」
【スラム】…身寄りのない子供や、裏の人間達が住み着いたアンダーグラウンド。
流石にそこら中に死体が転がっているほど治安が悪い訳では無いが、子供がスリをしてきたり、非合法なカジノや売春宿が普通に経営していたりと、女子供が立ち入るような場所ではないらしい。
非合法ならば国が摘発しないのか?と不思議に思うが、そこはやはり国家と言う仕組みなのか、その非合法のカジノ然り、売春宿から国に結構な額の上納金を貴族に賄賂として渡しているらしく、限りなく黒なグレーとして国に見て見ぬふりをしてもらっているらしい。いわゆるヤバめのヤクザと同じようなモノだろう。
「【スラム】には近づかない様にしなきゃなぁ……ふあぁ……」
前世でも強面のヤーさんには近づいていい事など無かった。極力近づかない様にしようと心に誓いつつ、揉みほぐれたふくらはぎの快感に眠気を催し、そのまま眠りにつくのだった。
――――――――――
――――――――
――――――
「今日はどこから行こっかなぁ?」
翌日、足を揉みほぐして寝た御蔭か特に疲れを残さずに起きれた俺は、メルメス達と朝食を取った後、再び王都観光に向かうべく街の中心地である【メインストリート】に来ていた。
「今日はこの【メインストリート】を中心に歩こうかな?一応運送業に仕える店とかあるだろうし、メルメスが言うには俺が目指す“辻馬車”もここら辺を良く通るらしいからなぁ」
実は今日、朝食の場でメルメスに『今日はどうなさいますの?』と聞かれ、少し悩んでるけどひとまず王都にはどんな店があるのかを調べに行こうと思うと伝えれば『なら、【メインストリート】で前に仰った辻馬車を見に行ってはどうでしょう?』と提案されたのだ。
確かに、俺がやろうとしている事の前任者?と言うか同業者を見て、何かアイディアを得るのは悪い事ではないなと思った俺はすぐにメルメスの提案に乗った訳だ。
「辻馬車も王都の街の中で行き来するタイプは結構安い値段で乗れるらしいから実際に乗るべきだよな……お金も昨日の奴隷商館から貰った金貨6枚
そう、実は昨日、メルメスやミント達、それにバルトファルトへ奴隷の売買金を山分けしようと夕食時に伝えたのだが、全員『コナーが貰ってくれ』と受け取りを拒否されたのだ。
メルメスとバルトファルトは単純に『お金には困っておらず』。
ミント達ホワイトタイガーの面々は『旅の間、金貨を払った所で御釣りが出る程楽をさせてもらったから』と言う理由でだ。
流石に金貨を全部貰うのは悪い…というか申し訳なさが半端なかったが、ミントの『ならその金でもっとコナーの【アイテムボックス】の中を充実させて、オレ達を満足させてくれ』と言う言葉につい俺も『…わかった』と返事を返した訳である。
そんな訳で、この金貨6枚は俺の【アイテムボックス】運送業をより良い物にする為に使うと決めた俺は、辻馬車の集まる広場へと足を進めるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【メインストリート】と呼ばれる大通りにはいくつかの区画があり、大まかに分けて4つの区画に分類されている。
【冒険者ギルド】などが立ち並ぶ一番活気のある王都の中心街、中央区画。
その中央区画から王都へ出入りした門側が市や出店、その他飲食店や雑貨店が集まった繁華街区画。
中央区画から少し王城方面に進んだ先に【聖教会の大神殿】が目立つ一般王国民が住まう住宅街区画。
そして、そのさらに先進んだ王都の奥地。そこは観光客があまり立ち寄らない職人達の工房などが立ち並ぶ工業区画。
つまり、王都に入って進んでいけば、繁華街区画。中央区画。住宅街区画。王城周辺。工業区画と続くのが、いわゆる【メインストリート】と呼ばれるものだ。
補足として言えば、その工業区画を更に奥に抜けると【スラム】が存在しているので、そういった意味でも工業区画は観光客から人気が無い区画とも言える。
『――大神殿前~大神殿前~!買い出しが終わったそこの主婦方!重い荷物を持ったまま歩きで帰るより、
『後10分で締め切りまーす!工業区行の人はお早めにー!』
『おーいまだ出発しねぇのか?あんま客乗せまくると俺らの座る場所が……』
「おぉ……馬車があんなに……あれ全部辻馬車なのか…」
場所は王都の玄関口である“繁華街区画”。メルメスが言うには王都に到着した観光客と繁華街で買い物を済ませた主婦達、それらの客層をターゲットに比較的安価で乗れる辻馬車が集まっていると聞いたが、想像よりもかなり馬車の量は多く、それでいてかなり客入りが良さそうに見える。
馬車は屋根などついておらず、緩衝材やクッションなど一切ない木製の安っぽい馬車。
馬に関してはそこまで見る目がある方ではないが、若い馬では無く比較的年老いた馬が多いように見える。
恐らく、商会で遠い街へ行商に行けなくなった老いた馬を起用し、出来るだけ安く、長く商売を続ける為の知恵なのだろう。
「…この込み具合だと、流石に割って入る勇気が出ないなぁ……どこか空いてる所は……」
ギュウギュウ詰めに押し込まれでもすれば、辻馬車の観察も王都の観光も何もできずに終わってしまいそうだし、出来るだけ空いている馬車は無い物かと辺りを見渡していると…。
「……ん?アレも辻馬車……なんだよな?」
なにやら人が寄り付いていない空間が目に入り、そこを注視してみると、馬車が1.2台だけ留まっており、その馬車の周辺に如何にも冒険者らしき人間が数人だけ待機しているようだった。
しかも、よく見れば馬車は傷だらけ、所々何やら染みの様な汚れも見受けられ、どう見ても普通の辻馬車には見えない。
「何なんだろ…あれ…」
「―――兄さん観光客かい?」
「うひゃあぁ!?……え、?あ、はい…」
つい、意識をその馬車へ向けすぎてて、後ろから掛けられた言葉に過剰反応してしまい、思わず変な声が出てしまった…。
「いきなり声を掛けてすまんかったね。そこで突っ立ったまま暫くあそこのガトラーを見つめてたからどうも気になってね」
後ろから話しかけて来たのはどうやら俺が立っていたすぐ後ろの出店の女性だったらしく、俺の変な叫びをクスクスと笑いながらそう指摘してくる。
「あ、すみません……えっと、実は辻馬車その物を見学したくて……
「ガトラーの見学って何とも物珍しい子だね…ガトラーってのは辻馬車の別称みたいなもんさね」
ガトラー……何かその名に特別な意味でもあるのであろうか?
「そんで、あそこに留まっているのは所謂“外行き”……王都の外で魔物を倒しながら各所の村に向かうガトラーだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます