第19話王都の冒険者達
【魔物】……それはブルスの街を出てから幾度も俺達の旅路を邪魔してきたこの世界特有の“魔力を糧に生きる者達”の総称。
この世界で魔物は、基本的に危険な生き物として認識されており、冒険者ギルドに所属する冒険者達はこの魔物達を駆除するのが主な仕事とされている。
中には、攻撃性が薄い魔物や単純に人間に害を与えられる程、力の無い魔物などは“ペット”として飼われる場合もあるらしいが……そちらは比較的少数な部類なので一旦置いておこう。
そんな魔物を討伐するのが仕事の冒険者でも、全員が全員魔物を圧倒出来るほどの強者ではないし、誰であれ最初は戦い方など知らない初心者ばかり。バルトファルト達を見てあまり実感はないが、魔物相手に命を落とす危険性だって普通にあるのだ。
なので、初心者冒険者は当然としても、如何にベテランの冒険者であれ、魔物に恐れを抱く冒険者は数多くいると思うし、寧ろ怖がりな方が冒険者として正しいのかもしれない。
「くっそ!このバカフォルンッ!!きちんと働きなさいよッ」
「てぇッ!?…おい!魔法はまだかぁ!?」
「馬車は……馬車だけは守らねばぁッ!!」
深い森の中、多くの魔物達に囲まれながら傷だらけの馬車を守るように陣形を取っている冒険者達と、馬車の上で身を守るように屈む俺と御者……そして、何故か魔物と対する事無く
「おーきーろぉぉ!!起きろってばこのタダ飯食らいの疫病神ッ!」
「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃ……あ、あの…フォルンさん?流石にこの状況は起きた方が…」
「……すぴー……デザートははちみつケーキがいぃ……すぴー」
…魔物に恐れも抱かず、寧ろ魔物の襲撃に一切動じず寝続ける冒険者と言うのは……肝が据わっていると捉えた方がいいのか?
俺は馬車の外で鬼の形相で怒鳴るシーフの少女を宥めつつ、隣で眠る魔女っ娘冒険者”フォルン”の寝言に呆れながら、何故こんな状況になったのかと数時間前の事を思い返す。
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「ほぉん?ガトラー
「自分も運送業……ガトラーに近い商売を考えてるんで、何が必要かとか色々知っておきたいんですよ。ほら、トイレとかお風呂とか普通はどうやるのかな?って」
屋台の女性からガトラーについて軽く説明をしてもらった俺は、自分の行動目的と客の少なそうだった“外行き”と呼ばれるガトラーの馬車に乗車する事になった。
屋台の女性からは『行き先の村に用事があるならともかく、ただの興味本位で魔物と遭遇するガトラーに乗るなんてアホなのかい?』と呆れていたが、俺には退避用の【アイテムボックス】もあるのだし、命の危険は比較的少ない。
それに、商売として外行きのガトラーとやらが成立し、成り立っているのであれば安全マージンはきちんと取っているだろうし、そこまで心配するもんでもないだろう。
「トイレはそこらへんの茂みで済ませてもらうが……風呂なんてお貴族様でもあるまいし、そんなのねぇぞ?と言うか、このガトラーだって近くの村に行くだけなんだから精々半日程で帰ってくるんだ。風呂どころか下手したらトイレだってしないで帰ってくるぞ?」
「え”!?」
まさかのお風呂自体あり得ない存在扱い…。それに移動の距離が近い場合はトイレすら不必要な物として考えられているとは……これは少し予想外。
俺的には、今までバルトファルトさん達と長旅をしてきて、魔物との戦闘は1日に1,2度あるかないか程度のモノだったし、街から数日程度離れた場所なら護衛1人くらいいれば問題なく移動出来る物だと思っていた。
だが、この男性(外行きガトラーの御者)が言うには魔物の襲撃は数時間に一度は起きるし、今までに冒険者が怪我、さらには死者まで出る事なんてザラにあるらしく、結構ハードな旅路になるらしい。
ちなみに、このガトラーの御者の男性は、冒険者でもない俺が乗車して来た事が物珍しかったようで、世間話兼忠告をしに来たようだが、俺が色々と質問する所為か色々と教えてくれる気のいいおっちゃん的な存在になっている。
「……どうしてそんなに魔物が出るんでしょう…?俺、この間までこの王都まで旅をして来ましたけど、魔物と遭遇するのなんて1日に1,2度…少ない日は丸一日出会わない事だってあったのに」
「そりゃおめぇ、魔物が余り出ない整備された道路か、魔物が生活しにくいだだっ広い平原なんかバッカ通ってきたからだろ?俺達が行くのはエココ村…魔物が多く生息する樹海を抜けて行かなきゃいけねぇ危険地帯だ。下手すりゃ1時間ずっと魔物に襲われ続けなきゃ進めない時もある場所と遠回りをしながら危険な所を通らない長旅と比べるんじゃねぇよ」
なるほど…。言われてみればバルトファルトさんに馬や馬車の御者の技術を教わった時に『移動する時はなるべく開けた道を通るか俺に道を聞け』と指示されていたな?てっきり、馬車の車輪が壊れるとか、馬の蹄が割れる事を危惧してのアドバイスだと思っていたが、魔物の群生地を避ける意味があったのか。
「なるほど、勉強になります…」
「勉強って……はぁ、まぁいい。それより……おいあんたら!そろそろ出発するから馬車に乗りな!今日は一般客も1人いるからそいつの事戦力として数えんなよ」
『『『了解ー』』』
…何やら呆れた目で見られた気もするが、そんな目で見られようとこの馬車を降りる気はないし、もし危険な目にあっても【アイテムボックス】に逃げ隠れるから許してほしい。
王都を出発した俺達一行(恐らく冒険者パーティーの男3人と女2人の5人パーティ、そして俺と御者のおっさんの計7名)。
今はまだ広い平原をカッコカッコと進むだけで魔物の魔の字すら感じぬ平和な時間。
御者のおっさんが言っていた魔物が巣食う樹海とやらはまだ先らしいし、しばらくはこんな平和な時間が続くのだろう。
―――こてっ
「……ん?」
道は平らで振動は少なく、耳に入る雑音と言えば馬車を引く馬の蹄が大地を叩く『カッコカッコ』と言うある意味眠気を誘う状況。
そんな状況に俺の左隣りに腰かけていた魔女っ娘?姿の冒険者少女が眠気に負けたのかこちらに倒れて来て、そのまま肩に頭を押し付け安らかな顔で眠りこける。
「すぴー………すぴー……」
「…えーと…」
「ん?あ、ごめんなさい!…こらフォルンッ!?いつも言ってるでしょ!人様に迷惑かける様な寝方はしないでって!」
「……すぴー……後10分……すぴー……」
すぐさま眠りこける少女に気が付いたであろうもう一人のシーフ職らしき格好をした少女が申し訳なさそうに眠り続ける少女の肩を揺らす。
しかし、何度肩を揺らそうともフォルンと呼ばれた少女が目を覚ます事は無く、完全に熟睡モードになってるようだ。
「……はぁぁぁ……なんでこの子はいつもいつも……せめて私の方に倒れなさいよ…」
「えっと、この子はいつもこんな感じで?」
「えぇ…基本寝てばかりなのは
シーフの格好をした少女は、鬱憤があふれ出る様にあーだこーだと文句を垂れるが、言葉の節々で『放って置いたら変な男に持ち帰られる』やら『この子には私が居ないのダメなの』などと漏らしている為、仲は良いのだろうと理解できる。
「―――って、ごめんなさい!まだ挨拶もしてない他人にこんな文句ばっかり聞かされても困るわよね?……今さらだけれど、私は“アーデリア”でそこの馬鹿娘はフォルン。そっちの3人は今回臨時でパーティを組んでもらったゲルトさん、リードディヒさん、ポートさん」
「いきなりな紹介だな…ゲルトだ。一応このパーティのリーダーをやらせてもらってるが、ただ単純に一番年齢が高いって理由だけで選ばれたなんちゃってリーダーなんでよろしく」
「なんちゃってリーダーの一歳年下のリードディヒでーす!ちなみに19歳」
「同じく19歳。役割はタンクのポートだ」
王都を出るまで比較的時間はあったが、街の喧騒と御者のおっさんとの世間話などで自己紹介などは出来ていなかったので、魔物が出る樹海に入る前に名前を知れるのは助かる。
「コナーです。数日前にブルスの街から王都に着いて、ガトラー見学の為に同行させてもらってます……あ、自分は15歳です」
「おう?成人したばっかか?それでこんな危険なガトラー見学とかいい度胸してんねコナー君。将来大物になるか、早死にするかのどっちかだな」
「やめろリードディヒ、不謹慎すぎるぞ」
恐らく、ただの冗談で俺とコミュニケーションを取ろうとしただけのようだが、リーダーのゲルトはかなり真面目な人らしく、リードディヒを窘めながら俺に『すまんな』と謝罪をしてくれる。
個人的には軽いノリも別に嫌いではないので、特に気にしてはいないが、単純にゲルトの事は良い人なんだなと感心しつつ、気にしてないと首を振って返事を返す。
「…それより、臨時?いつもはパーティを組んでいないですか?」
「いつもは私とフォルンの2人だけ。ゲルトさん達は今臨時で仲間の人が1人怪我で休んでるらしくて、その穴埋めで私達2人が入ってるのよ」
聞けば、ゲルト達は元々4人パーティだったらしいが、つい先週ごろに同じガトラーの護衛でエココ村に向かう際に足を怪我してしまったらしい。
大した怪我では無いのだが、完治までは安静にした方がいいと判断され、流石に3人で魔物退治はきついなと困っていた所にアーデリアとフォルンが臨時パーティーの募集をしていて、この冒険者パーティーは誕生したという事らしい。
「どうして臨時パーティを?固定の冒険者パーティーは募集しなかったんですか?」
「それは……ちょっと面倒な
「あぁ……」
アーデリアの言う事情も気になりはしたが、未だ俺の腕に顔面を押し付ける様に眠るフォルンへの呆れた視線を見て『確かに無理そうだな』と頷いてしまう。
……と言うか、なんか肩が冷たい気が……あれ、もしかして涎垂らしとる?
「……もがぁ……もががぁ……ピュー……(うまぁい……ケーキぃぃ…すぴー…)」
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