第17話盗賊達よサラバだ(売却)







 メルメスの屋敷に到着した俺達は各々に割り振られた部屋に案内された後、メルメスの『夜はご馳走をご用意しますので、コナー様はそれまで王都の観光にでも出かけられたら如何ですか?』という提案を受け、俺は屋敷を出て、再び王都の街中へと散策に出る事にした。



 ミント達も『王都の冒険者ギルドに顔を出しておきたいから、夕食までは出かける事にするよ』という事で、全員別行動する事になった。



 ちなみにメルメスは王都の別邸の管理を任せていた使用人達と予定の照らし合わせなどをしなきゃいけないとかで、1人屋敷でお仕事だ。(もちろんバルトファルトが一緒に屋敷待機しているが)




「―――とまぁそんな訳で、今回も街案内お願いします」



「…?何がそんな訳なのかはわかりませんが、かしこまりました?」



 で、俺は前回の宿場町の時同様、初めての王都で迷ったり目的の場所がわからないなどと言った問題が起きない様にメイドのペペットが王都案内に付いてきてくれることになった。



 一応成人済みの俺が毎度毎度メイドさんに道案内されるのは些か恥ずかしいような気もするが、メルメスも『王都は広いので道に迷えばまず帰って来れませんから』という理由でペペットを付けてくれたので、甘んじて受け入れよう。



「それでコナー様?まずはどこに向かわれますか?王都観光と言えばやはり国王陛下が住まわれる王城を見に行かれるか、王国中から選りすぐりの職人が手掛けた魔道具が買える“魔道デパート”などがございますが」



「魔道デパート!何それめちゃくちゃ気になりますね!……って言ってもまず俺が行かなくちゃいけない場所があるんで、そっちに行ってからですかね」



「それは……あ、なるほど」



 俺の苦笑を浮かべた顔を見て、すぐに心当たりがあったのかペペットは納得したような表情で頷く。



「…まずは盗賊達を“奴隷商館”に売り渡さないとね」








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








 奴隷……前世では一世代…いや、数世代は昔に極小規模な国々で行われていた制度で、人を“物”や“家畜”として同列視する悪文化として知られる存在だった。



 しかし、この世界の奴隷制度はかなりラフな物らしく、職に困った貧民などの救済処置としてのリクルート制度として扱われている。



 人権は保障されており、強引な命令などは聞かなくとも問題は無いし、寧ろ奴隷の人権を迫害したと国に知られれば犯罪者として取り締まられる制度も存在するとメルメスは言っていた。



 もちろん、立場的にはかなり低い身分ではあるので、人権を盾に金だけ奪おうなどと策略(契約だけして仕事を一切放棄し金だけ貰うような事)した奴隷は一気に犯罪奴隷落ちし、それ相応の刑罰もある。それに人権と言っても常識の範囲内の主人の命令には絶対に従わなければいけないので、余程金に困るなどしなければ自ら奴隷落ちはしないとの事。(この間のメルメスが言っていた“借金の形に数か月奴隷になる”という例は結構稀な話なのだろう)








 …では、今俺が連れている盗賊…犯罪者の奴隷はどうなのか?と言う点だが……きちんと【犯罪奴隷】と別枠で数えられ、こちらは国主導で強制的に従わせる前世の奴隷制度と同じような扱いになる……らしい。






「…と言った訳で犯罪奴隷の売買は国との契約になりますので、規定の金額で買い取りさせていただく決まりになっております」



「な、なるほど?」



 今現在、俺はペペットの案内で連れて来られた王都で一番大きい奴隷商館にて、犯罪奴隷の取り扱いを説明してもらっていて、【犯罪奴隷】の事も今教えてもらった。



 犯罪者は罪の重さで【犯罪奴隷】の中でも数段階のレベルに振り分けられ、その罪の重さで奴隷の行き先が変わるらしい。



 なんでも、一番重い罪で犯罪奴隷に落ちれば国営の研究所へ連れて行かれ人権無視の人体実験などもされるという話で、その話を聞いた時は思わず犯罪を犯していなくとも背筋が凍る思いだった。



 店主は『まぁ犯罪を犯させない為の脅しみたいなものですから』と言っており、実際は鉱山での強制労働が関の山なのだとか。



(…人体実験が嘘だとしても、鉱山で強制労働……犯罪抑制にはもってこいの罰だなぁ)



 自分は犯罪を犯す気など全くないが、一応心に刻んでおこう…。












「はなせぇ!!!俺様はべっぴんの女捕まえて子沢山な家庭を築くんでぇ!!」



「かしらぁぁぁ!!!おらぁ貴族の連中に傅くなんて出来ませんぜぇ!!助けてくだせぇぇ!!」



「せめて……せめてあの可愛い子を愛でてから死にてぇよぉぉ……」




 盗賊達を【アイテムボックス】から出せば、異常なまでの汗臭さやカビ臭さに鼻を刺激されるが、流石は奴隷商人…顔色変えずに盗賊達の数と体の状態をメモしている。



「……そこの小太りの男と膝に痣のある男は念の為、医療室に連れて行ってから牢屋へ、他は全員問題はないので連れて行きなさい」



「「「かしこまりました」」」



 医務室。つまりはあの連れ出されて2人は何か怪我、もしくは病気持ちの可能性があるという事だろうか?だとすればあの一瞬でそれらが見抜けるこの商人さんは恐らく、簡易の鑑定眼の様なスキルを持っているという事だろうか。



 もし本当にそんなスキルを持っているのだとすれば、言っちゃ悪いが“奴隷商館で働いているのだろう?”と疑問に思ってしまう。



 人の怪我や病気が瞬時に見抜けるのであれば治療院などに行けば引く手数多になりそうなものだが…。




「お待たせしました。盗賊20名、内2名は膝に怪我と慢性的な病気持ちでしたが、特に問題はありません。正規の値段で買い取らせていただきます」



「あ、ありがとうございます」



 待った時間などほんの5分適度で、寧ろ早すぎて『え、もう?』みたいな反応をしてしまった。



「殺人、窃盗を犯した中犯罪奴隷1名あたり大銀貨3枚なので…合計金貨6枚になります」



「え!?そんなに?」



 あんな薄汚れた汚いおっさんどもが金貨6枚(60万円)?何かの間違いではないかと疑ってしまう。



「コナー様…本来盗賊を退治出来る冒険者は少数…それに全員が全員コナー様の様に犯罪者どもを街まで運べるようなスキルを持っている方が稀なのです。寧ろ安いくらいです」



 そうなのか?



 というか、そうか…俺はバルトファルトやミント達のおかげで盗賊を捕らえる事が出来たが、本来俺1人なら盗賊達を捕まえる事など不可能だったし、俺と同じく戦闘力を持たない一般人であれば寧ろ命を狩られていた可能性の方が大きい。



 そう考えれば、命の賭けた代償としての賃金として計算すれば金貨6枚も妥当な数字?の様な気もしてくる。



「ちなみに国で指名手配されているような大犯罪者をお連れいただいた場合は報奨金も出て平均金貨20枚くらいにはなるとの噂ですよ」



「2……0!?」



 盗賊を捕まえて200万円……馬の5分の1……あれ?馬の5分の1って考えたら…そんなにすごい金額でもない気がしてきたような……。




「……まぁ、盗賊を捕まえる事を目的にする訳じゃないから、ちょっとお得な臨時収入が入った程度の気持ちでいよう…帰ったらミント達と一緒に分配しなきゃね」




 自分の金銭感覚がどんどんズレていくようなイメージがあったが、これ以上考えてもしょうがないし、寧ろこれ以上考えない方が俺の為な気がしたので、商人から金貨を受け取りつつ一旦話をそこで打ち切るのであった。











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