第16話 到着!王都【ベルナート】






「ついたあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




 ブルスの街を出立して約1か月と1週間。


 予定よりも3週間程到着が早かったが、ついに今回の旅の目的地である王都……【ベルナート】に到着した。



 …まぁ到着したと言っても、まだ王都は数キロ先なので、“着いた”ではなく“見えた”が正しいかな?



 ちなみに、例にもれず【アイテムボックス】の外にいるのは俺1人なので、他に目的地へ到着した事への喜びを共有できる者はいない。



「……ま、もう少し王都に近づいたら出て来てもらうし、いいけど」



 前回の宿場町に入る時に起きた“勘違い事件”はもうたくさんなので、今度は王都の門に到着する前に【アイテムボックス】の中にいる人達は外に出て来てもらうつもりだ。



 もちろん、つい数日前に捕らえた盗賊達はそのまま【アイテムボックス】に閉じ込めておかないといけないので、まだ出せないのだが…。



「個人的にはさっさと盗賊達は【アイテムボックス】の中から出したいんだけどねぇ……なんかばっちいし…」



 汚い……そう、何を言ってもまずそこが気になるのだ。



 盗賊達に襲われた時はまだ離れていたから『汗臭い』で済んでいたのだが、この数日間、盗賊達を【アイテムボックス】の中で監禁していたのだが……臭いが悪化した。



 いや、普通に考えれば風呂なんて入っておらず、偶に降る雨水で身体を拭いていたであろう盗賊達を水も無く、身体を洗う道具も無い部屋にロープで雁字搦め状態で放置すれば余計汗臭くなるのは当然だし、単純に計算して【汗臭い密室】×【盗賊の人数20人】=【激やば】なのは明白。



 臭いの根源たる盗賊達を全員【アイテムボックス】の外に放りだせば臭いも一緒に消えて無くなるように俺の【アイテムボックス】はなっているので、臭い残りなどは大丈夫なのだが、それでも“何か残りそう”と感じる程の臭いなので、出来るだけ早く盗賊達は何とかしておきたい。



「メルメスには、今の時期の王都なら例の【フォールエント祭】っていう奴隷商達が集まる祭りがあるからどんな犯罪者でもまぁまぁの値段で引き取ってくれるらしいし、せめて俺の運送業の資金になってくれると助かるんだけど」



 ちなみに、今は王都で奴隷として売れるからいいが、別の街に行く途中で盗賊などを捕縛した際は、どの街でも警備隊が常駐しているので、警備隊宿舎に行けばすぐに犯罪者たちを引き取ってくれるとミントに教えてもらった。



「……と、そろそろ皆に出て来てもらわないと」



 盗賊の事で考え事をしていたら王都まであっという間に到着してしまい、急いで門番に見つかる前にメルメス達を【アイテムボックス】から出すべく馬の手綱を引くのだった。








――――――――――

――――――――

――――――







【王都ベルナート】



 総人口は30万人越えで、街の規模は3万ha(ヘクタール)はある大都市。


 前世では人口30万人など都道府県の少し人が多い場所であれば幾らでもあったものだが、この魔物蔓延る異世界では凄い事だろう。



 町並みは比較的木造の建物が多いが、所々コンクリート調の建物や、お城?の様なものが立ち並ぶ姿が見受けられ、それだけでもこの街の発展力がわかる。



 …まぁ前世で日本の記憶を持ったまま転生してきた俺にとってみれば、精々中世の時代。未だ産業革命が起きていない外国の町並みと言った印象が浮かぶが、生まれ育ったブルスの港町に比べれば大都市も大都市と言える規模なので素直に『おぉ!でけぇ』と感心の声を上げてしまったけども。







『はいはい!こっち見てきな!良いのが入ってるよー!』



『あはははー!お兄さんってば冗談が上手いねぇ!しょうがないから安くしとくよ!』



『あ!くそ!このコソ泥まてやぁ!』




 ――そして、今王都ではメルメスが言っていた“フォールエント祭”。それが開催されるとあって国中の街々や周辺各国から奴隷商や祭り目当てで来た観光客達が王都に集まっているらしく、街のメインストリートは人がごった返し、まともに馬車では進めない状態になっていた。



「…ふむ、いっその事私がヘルムを取れば…」



「やめてください」「やめてくれ」



 いきなり街中で無差別テロを画策した発言にギョっとしながら俺とミントはノータイムでバルトファルトへSTOPをかける。



 王都に到着した俺達は、事前に【アイテムボックス】の外にメルメス達を出していた事もあって、特に問題も無く街に入れたのだが、見ての通り馬車での移動は難しく、歩くにしたってこの人だかりの中ではミント達は大丈夫でもメルメスや体格の小さいメイド達はまず間違いなく人の波に攫われるという結論に至り、折角出て来てもらっていたが、再度俺の【アイテムボックス】に入ってもらい、案内のバルトファルトと万が一俺も人の波にのまれない様にとミントにも付き添いとして残ってもらった。



 …というか、基本外に出るのってこの3人だけな気がする…。




「バルトファルトさん!あとどれくらいですかー?」



「もうすぐ着く」



「……やっぱりお貴族様が住む場所に近づいてるからか、人通りも結構減ってきたね。それに歩いている人の格好も裕福そうな人ばかりだ」



 そして、そんな俺達が今向かっているのは、毎年メルメスが利用しているというフィッシュナート家が所有する王都での別荘……というより、王都にある別邸か。



 基本、王都滞在中の寝泊まりはそこでしていいらしく、何か特別な事情が無い限りその別邸で寝泊まりをしてもいいらしい。



 王都に滞在するのは少なく見積もってもパーティが開催されるのは1か月と3週間後。それプラス王都で溜まりに溜まった仕事を片付けるとメルメスが言っていたので、大体3か月程は王都に滞在すると聞いている。



 滞在の間は食事も出るし、なんならミント達冒険者組は3か月後に帰って来れるのであれば冒険者ギルドでクエストを受けて来ても問題はないとの事。



 俺もフォールエント祭で祭りを楽しんだり、運送業の準備をしててくれと言われている。



 なので俺は、出来るだけ王都観光を楽しみつつ、あわよくば王都にいる間に運送業のテストが行えたらなぁと考えてるけど、まだ確定した予定は何一つもない。




「見えたぞ」



「……え、デカくないですか?メルメスは『別荘みたいなもの』って言ってたけど、余裕でブルスの屋敷より大きいような…」



「わぁお…まるで小さなお城だね」




 バルトファルトに案内されて到着した場所には、レンガとコンクリートが主に使われた大きな屋敷が建っており、ミントの言うように、まるで小さなお城だ。



 周りを見渡せば、似たように大きな屋敷もちらほらと見受けられるが、それでもメルメスの屋敷の方が立派に見える。



 「貴族として、国王が住まわれる王都にみすぼらしい屋敷など立てられる訳ないだろう?それに、この屋敷は数代前のフィッシュナート家当主が当時の国王様直々に贈られたお屋敷だ。立派じゃない方が可笑しいだろう」



「なるほど……」



 バルトファルトが言うには、数代前のフィッシュナート家ご当主が国にとっての危機を救ったとかでこの屋敷と子爵家としての貴族位を褒賞として下賜されたのだという。なので、元々フィッシュナート家は男爵位の貴族だったのだとか。



 他の屋敷よりも立派なのも、直接国王から下賜された屋敷なのであれば、ある意味当たり前の事かと納得する。



「さぁさっさと行くぞ!」



「あ、はーい!」「あぁ!」




 大きな屋敷に圧倒されながらも、【アイテムボックス】の中で待っているメルメス様の事を思い出し、歩き出すバルトファルトに急いで着いていくのだった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る