第15話王都【ベルナート】へ~可愛いの暴力(キラッ☆彡)~







「はぁ…はぁ……くそぉ…抗えねぇ…」



「これが圧倒的力…ッ!!」



「勝てねぇ…勝てねぇよぉぉ!!!」



 大の男達が膝を折り、頭を垂れるかのように地面へ倒れながら、圧倒的な力(?)を見せつけるバルトファルトに苦言の声を上げる。



「どうしたどうしたぁ!!そんなものか盗賊ども!!悔しかったら少しはして見せろぉぉ!!」



「出来る訳ねぇ……いや、抵抗したい気持ちが一切ぇッ!!!」



 盗賊達を制圧するのは、メルメス付きの護衛騎士であるバルトファルト……がフルフェイスの兜を取った姿。



「なんで……なんでそんな可愛い顔をしてやがる!!男だってわかってんのに『傷つけたらどうしよう』って殺意が湧かねぇ!!寧ろ保護して沢山甘やかしたくなっちまうッ!!」



 ――兜を取ったバルトファルトは………ただただ可愛らしい庇護欲をそそる美少女の顔をしていたのだッ!!



『……いや、そうはならんでしょ…』




 【アイテムボックス】に避難していた俺は、つい先程までのやり取りを思い出しながら、ある意味カオスとも言える目の前の状況に思わずツッコミを漏らしてしまった。








――――――――――

――――――――

――――――





「――今だぁぁ!!!退避ぃぃぃぃぃ!!!」




「「「何ッ!?」」」



「…なッ!?き、消えた!?」



 盗賊達が飛び出してきたのを見て、バルトファルトやミント率いるホワイトタイガーの人達を盗賊達の背後から奇襲出来るように≪ゲート≫を展開し、俺は安全な【アイテムボックス】の中に退避すると、目に見えて盗賊達が困惑しだす。



 どうやら相手は人が入れるタイプの【アイテムボックス】や、瞬時に人が消えるタイプのスキル持ちと会った事が無かったようで、いきなり消えた俺に『は…?え…?え?』とその場で固まっている。



「でりゃぁぁぁああ!!」



「“火の爆弾ファイア・ボム”」



「シィッ…!!」




「「「「ぎゃぁぁぁ!?」」」」



 そして、その場で固まっているという事は、こちらからすればただの的と同義。すぐにホワイトタイガーのミント、ヘーニア、メメが奇襲をかけ、数人の盗賊達を気絶させる。



 回復役のアイリスは万が一ミント達が負傷しても良いように後方で戦場全体を見渡しながらいつでも治癒スキルを発動できるように待機している。



「……おぉ…ミントだけじゃなく、メメさんもヘーニアさんも強い……言っちゃ悪いけど、2人ともきちんとした冒険者なんだよな」



 ヘーニアの【火魔法】によって生み出された小さい火球。見た目は弱弱しく感じるが、対象に命中したかと思ったらかなり大きい音を立てて爆発し、近くの盗賊数人を巻き込んで吹き飛ばす威力はダイナマイトを思わせる。



 メメはシーフらしく、気配を消しつつ敵の背後に忍び寄って、華奢な身体からは予想も出来ないような鋭い蹴りで敵の意識を刈り取っていく姿は”暗殺者アサシン”と言えるかもしれない。




「バルトファルトさんは……って早ッ!!」




 視線をバルトファルトの方へ向けると、すでに盗賊達の大半が致命傷にならない程度に切り捨てられており、あっという間に盗賊達は壊滅。最後に残ったのは先程まで俺と言い争いをしていた盗賊達のリーダーらしき“カシラ”1人だけとなっていた。



「て、てめぇら!?一体どこから……つうかよくも仲間達を!!」



「盗賊なんぞやっていて自分達が攻撃されないとでも思っているのか愚か者…殺しはしない、さっさと降伏すれば無駄な怪我を負わなくて済むぞ?」



 盗賊達は20人もいたというのに、こうもあっさり殲滅出来るのは、やはりバルトファルトやミント達の実力がかなり高いからなのか?



 もちろん背後からの奇襲や盗賊達が油断していたという点もあっての事だとは思うが、それでもここまで圧倒的な力量差は流石としか言いようがない。



 ……それに、もしかしたら勘違いかもしれないが、魔物を相手にしている時よりも盗賊達を相手に立ち振る舞っている時のバルトファルトの方が妙に…手慣れている?感もあるので、騎士として対人戦は強いのかもしれない。



「…くッ!……俺様が降伏?そんな事をすると思ってんのか全身鎧野郎!!どうせ街に連れて行かれたら犯罪奴隷落ち確定。お偉いお貴族どもの下で死んだ方がマシな生活を送る位なら今ここで死んだ方がマシだぜッ!」



「そうか……貴族が全員が全員クズばかりではないのだがな……行くぞッ!」



 バルトファルトはさっさとケリを付けようと剣を下段に構え、カシラへ切りかかろうとする。




「てめぇらの強さはよーくわかった……だがな!俺らにだって策がねぇ訳じゃねぇんだよぉッ!!起きろ野郎ども!!【アキュムレーター】ッ!!」



「ッ!?」



 カシラが叫ぶと同時に何らかのスキルが発動されたのだと理解したバルトファルトは攻撃を一旦止め、何が起こるのかを観察している……が、すぐにスキルの効果が判明する。




「ぐぅぅ…いっててて……カシラー遅いっすよぉ!痛みで軽く意識飛んでたぜぇ…」



「こりゃひでぇやられようだ……明日から何日ぐらいで完治出来んのかねぇ?」



「はっはっは!まぁここでやられたら元も子もねぇんだ!後の事は明日考えるッ!!」




「「「ぜ、全員復活した!?」」」



「ほう?珍しいスキルを持ってるようだな」



 盗賊達は先程まで地面に倒れて気絶していたはずなのに、今は怪我一つ無くピンピンの状態で立ち上がっている。



 ヘーニアの魔法で火傷した後も、ミントに斬られた傷も、メメの蹴りあげた頬の打撲痕も全て消え、まるで先程までの光景が嘘だったようだ。



「はっは!どうだ俺様の【アキュムレーター】の力!!仲間の傷や疲労を一時的に“回収”して全回復させるスキル!!……まぁ後日少しずつ傷を戻して自然治癒させないといけないがな!」



 なるほど、【アキュムレーター】とはつまり、元気の前借。一時的に己に起きた事象を無かった事に出来るが、時間経過でじわじわと自分に返ってくる条件付きの“回復スキル”。



 本来の回復系統のスキルの様に【怪我を完治】させる事は出来なくとも、普通の回復系統のスキルには不可能な集団への即時回復効果と言う大きなアドバンテージがある。



 スキルの許容量がどの程度かはわからないが、もし際限なく怪我を一時的に治せるのだとすれば、ある意味盗賊側に負けは無くなったようなもの。



 こちらにもアイリスという回復役がいるので、条件は同じなのかもしれないが、人数はあちらの方が多いし、すでに奇襲の効果は無く、ここからは真正面からの勝負になる。



 人数差もあるのだし、大丈夫か?と心配の目を【アイテムボックス】の中からバルトファルトに向けるが……。




「ふむ…いいスキルだな?そんな有用なスキルを持っていて何故盗賊なんぞに落ちぶれたのだ?……まぁ聞いた所でこれからする事は変わらんがな」



「ふん!貴様の様なイケ好かない野郎に話す道理なんかねぇぜ……それに今の状況わかってんのか?死なねぇ不死の集団を相手にまだ勝つ気でいるのか?その兜の中身は空っぽかよボケがッ!」




 バルトファルトはいつになく落ち着いているし、まるで自分達の勝利を疑っていない様に見える。


 そして、その態度に盗賊側が不快に思っているようで、じりじりと武器を構えながらバルトファルトへ罵倒を浴びせる。




「空っぽとは心外だな……寧ろ色々と詰まっていてメルメス様にうっとうしがられてしまうのに困っているというのに」



「何をごちゃごちゃ言ってやがる!!いい加減死ねやゴミがぁぁ………あ?」




―――ガチャン……














「ふぅ……うむ、騎士としてあまりこの手を使うのは性に合わんが、いい加減お前達を片付けねばメルメス様の夕食の時間に遅れが出てしまうのでな。存分にがいい」



 ……バルトファルトが徐に兜を取った瞬間、その戦場から音が消えた。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 そして時は、冒頭に戻る。



 バルトファルトの顔面(美少女顔)を見て、何故か戦意を失った盗賊達が一方的にやられるだけで、一切の反撃をしてこなくなり、徐々に盗賊達を縄で縛りあげていく。


「くぅぅ……何故だッ!なんで手が上がらねぇ!!この気持ちは一体何なんだッ!!糞ッ!可愛いッ!!」



「かわ……いいぃぃぃ!!!ちげぇ!!俺は別にこんな……かわいぃぃぃッ!!」



「やめろ可愛い!いてて可愛い!縄は反則だろ可愛いぃ!!」




 盗賊達は口々に可愛いと漏らしながら捕まっていき、縛った者から順番に俺の【アイテムボックス】の空き部屋に放り込まれて行く。(ちなみに、すでに危険は無いとバルトファルトからのお墨付きが出て、俺は外に出ている)



「……バルトファルトさん…これどういう事ですか?盗賊達が一切反抗せずに……口はうるさいけど大人しく捕まっていってますし……というかその顔は何です?可愛いという感情しか浮かんでこないんですけど」



 何かしらのスキルの力なのかもしれないが、影響が無差別のようで、味方であるはずの俺もバルトファルトの顔を見るだけで『アイテムボックスの中にお持ち帰りして、大事に育ててあげたい』と大の大人に対して浮かべてはいけないような感情が浮かび、心が痛い…。



「私のスキルは【愛し子】というスキルでな。私の顔を見た者に強制的に庇護欲やら母性愛を感じさせてしまう物で、対人戦では相手の戦意を失わせられるスキルなのだよ」



「……母性愛……つまり、アイリスさんは母性愛に目覚めているという訳ですか…」



 俺の視線の先には、ミントやヘーニア達に取り押さえられながら『私の子供よぉぉ!!!私が育てるのぉぉぉ!!』と若干目のハイライトが消えかかっているアイリスがおり、どう対処するんですか?とバルトファルトに目線を送る。



「みな平等に戦意を無くす事は出来るのだが、庇護欲や母性愛を刺激する度合いは個々人の耐性に由来するので、こういう事もよくある。その所為でメルメス様から『緊急時以外は顔を隠しなさい』と命令された訳だ。…ちなみに効果は顔を隠さねば消えないので、さっさと盗賊達を収容すれば問題は無くなる」



 メルメスに顔を隠すように命令されていたのはそう言う事か…。



 以前はメルメスの理不尽な命令に疑問が浮かんだが、これならば納得出来る。




「……はぁぁ…俺もあんまり今の状態のままだと心に負担が掛かるので、さっさと盗賊達を押し込むことにします…」



 俺は、バルトファルトの顔を出来るだけ見ない様に気を付けながら、悪臭漂う盗賊達を縄で縛りあげて【アイテムボックス】へと放り込んでいく作業に没頭するのだった。







「落ち着けッ!あれは立派に成人した男だ!!お前の子じゃない!!」



「アイリスはまだ未婚でしょう!?恋愛未経験の癖に子持ちだなんて色々と設定が危ないわよぉ!!!」






「私のッ!!!赤ちゃあああああああああああんッッ!!!!」








 ……なお、アイリスは後日、己の醜態を死ぬほど後悔し、バルトファルトが居る場所では常に視線を外すように心掛ける様になった。









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