第14話 王都【ベルナート】へ~再出発と不潔な汗臭さ?~







「コナーぐぅぅん……もう私は君が居ないとダメだよぉぉ!!!」



「コナー君は責任をもってメメ達を迎え入れるべき……メメはコナー君が居ないとダメな体にされた」



「は、はい?」



 集合場所である冒険者ギルドの前に到着した瞬間、ギルドの中から出て来た【ホワイトタイガー】の魔法使いヘーニアと、索敵シーフのメメがいきなり泣きついて来て、第三者から絶対に誤解されそうな発言を叫ばれる。



「…すまないコナー。その二人は昨日、魔物討伐の為に野営をしたんだが、よっぽどベットで寝る生活に慣れてしまっていたのか大分ストレスをため込んでいるみたいでな……魔物討伐もストレス発散とばかりに暴れまわるんで苦労したよ…」



「そ、そう言う事……ミントもお疲れ様」



 回復役のアイリスがヘーニアとメメを引き剝がしてくれつつ、後ろで苦笑いを浮かべるミントに理由を聞いて呆れつつも“確かに一日中周囲を警戒して寝るのは面倒そう”と二人を同情してしまう。



 ただミント曰く、『冒険者である以上野営と周囲の警戒心は必須だから放って置け』との事なので、ヘーニアとメメには静かに合掌をしておく。





 そんな感じにミント達とじゃれ合っていると、宿屋の方向からメルメス達が馬車でやって来て、や使用人含め全員集合と相成り、メルメスが馬車を降りて音頭を取る。




「――皆様、すでに集合してますわね……では出発いたしましょうか」



 ……あれ?バルトファルトはどこに行ってたんだ?








◆◇◆◇◆◇◆◇◆










「へぇ…バルトファルトさんも魔物討伐に参加してたんですか」



「あぁ……だが討伐が終わってからはすぐにメルメス様の元で護衛の仕事に注力していたから冒険者ギルドには寄ってはいなかったがな」



「それで昨日は宿屋に居なかったはずのバルトファルトさんが宿屋の方向からメルメスと一緒に来たという事ですね」




 宿場町を出発した俺達は、来た時と同じく馬車と御者である俺(バルトファルトは俺と話があるようで少しだけ外に出ている)が外で移動を担当し、他の面々は俺の【アイテムボックス】の中で過ごしてもらっている。



 ちなみに、町を出発する前に町で買った高級家具はすでに設置済み(ヘーニアとメメが手伝ってくれた)で、その部屋にはヘーニアとメメが使用し、ミントは前日の観光途中で購入しておいたボードゲーム類(カードや正規の魔物盤など)を渡したら『暫く遊んでる!』とアイリスと二人一緒に部屋に籠り、和やかに過ごしているようだ。



「それで貴様、なんでも運送業を始めるのだろう?しかも資金の無さで馬車では無く騎乗での移動だと聞いたが」



「あ、はい……買えなくは無かったんですけど、出来るだけ最初は出費を押さえたくて……」



 どうやらバルトファルトの話とやらは俺の運送業に関する事らしく、移動の際、馬に乗る騎乗スタイルで行くつもりなら、きちんと練習しなければ落馬し、最悪命を落としてしまうらしい。



 前世の競走馬が走る柔らかい芝生やダート(砂地)ならば落馬しても軽い怪我で済む可能性もあるが、俺が馬を走らせるのは舗装も何もされていないただの道。



 地面は固いし、ごつごつとした岩がたまに地面から顔を出しているので頭から落ちれば余裕で死ぬ。



 なので、メルメスがバルトファルトに伝え、馬車の御者としての技術以外に、乗馬も指導してくれる事になったんだとか。(恐らく俺が宿屋を出てバルトファルトが宿屋に入れ違いになった時に指示を出されたのだと思う)



「――なので、またみっちりと乗馬の方法を教えてやる」



「ありがとうございます!助かります!」




 なんだかんだずっとバルトファルトには色々と教えてもらってばかりで申し訳ないが、バルトファルトも嫌がってはいないようなので存分に甘えさせてもらおう。




 ……ちなみに、バルトファルトに「御者だけじゃなく、乗馬まで出来るんですね!」と悪気無く褒めるつもりで発言したら「私の本職は騎士だぞ?騎乗が主体で御者の方がついでに覚えた技術だからな?」とツッコまれ、素で忘れていた事に謝罪した。











――――――――――

――――――――

――――――







 乗馬の練習を開始し始めて数日。



 …俺は挫折を味わい、何事も上手く行かずに絶望する事も有るのだと心の奥底から実感をしていた。




 それは何故か?



「うっぐぅぅ……擦れ…擦れ……ッ!!」



「さっさと慣れろ!馬の走りに合わせて体重移動をこなせば股が擦れて痛む事などない!馬と一心同体になった気になれ!!」




(ひぃぃぃ!!け、ケツが擦れて死ぬッ!!)



 先週までは馬車を引いてくれていた馬に一頭に俺とバルトファルトが跨りながら平原を駈けているのだが、俺は馬の背中と股間が擦れた痛みに悶絶し、バルトファルトは手綱を握りしめたまま問答無用だと言わんばかりに無茶な指示を飛ばしており、傍から見たら恐らく『新種の苛めか?』と勘違いされる事だろう。



「バ、バルトファルトさん!!ちょ、ちょっと休…憩ッ!!し、しませんか!?そ、……くぅぅ!…そろそろ!昼食時ですしぃぃぃ!!」



 もうなりふり構わず、情けなくも大声で休憩を催促すれば、『はぁ…やれやれ、根性の無い』と呆れられつつも、実際に昼食には良い時間にはなっていた事も有り、俺の股間はひと時の休憩を貰えるのだった。












「ひぃぃ…ひぃぃ…」



「……大丈夫か?」



 昼食を取れそうな開けた場所に到着して早々、俺は≪ゲート≫だけ開くと、すぐに地面へ倒れ込み、恥も外聞もお構いなしに股間を刺激しない様にブリッジ状の開いた格好で悶絶する。



 そんな俺の状態を≪ゲート≫から出て来たミントが心配そうに声を掛けてくるが、今は返事を返せるだけの心の余裕はないので、もう少し落ち着くのを待って欲しい。




「オレは御者をした事あっても騎乗の経験はないからなぁ……アドバイスとか何も出来ないが、何か手伝えることがあったら言ってくれよ?」



「あひぃぃ……あひぃがとぉ……ひぃぃ」




 ミントの温かい心遣いに感謝しつつ、昼食が出来る頃には何とか立ち上がる事も出来るようになった俺は、若干の冷や汗を流しながら昼食を食べる為に用意されたテーブルに腰を落とす。



「いつつ……はぁ…この状態がしばらく続くってなったら心が折れそうだ……どうにか早く慣れる方法はないのかなぁ…」



「――コナー様の上達スピードはかなりのものだとバルトファルトが言っておりましたよ?なんでも今日中には乗馬に慣れて明日には痛みも緩和されるだろうとも」



「メルメス?」




 俺が弱音を吐いている所に、メルメスが後ろから声を掛けて来て、そのまま隣の席に腰を下ろす。



 メルメスはたまたま聞こえた俺の独り言に対して励ましに来てくれたみたいだが、流石に今日明日で乗馬が上手くなるイメージが見えず、バルトファルトがメルメスに対し誇張して話したのでは?と、つい『そうかなぁ?』と疑問の視線を向けてしまう。



「ふふふ…あんな融通の利かない馬鹿騎士ですけれど、その分嘘や冗談などは言えませんから」



「……確かに…?」



 俺がブルスの街を出て、ロリコン疑惑に頭を抱えてる時も『いい加減うっとうしい』とオブラートに包まず言える人だ。俺の事を心配して話を誇張するような人でもないか?。



「だとしても、この痛みが少なくとも夜まで続くと思えば……あたた、意識したら余計に…」



「あらあら…では、一時的な処置としてペペットを呼びましょう」



「え?ペペットさん?どうしてペペットさんを?」



 ペペットには町の案内でお世話になったが、もしかして痛み止め的な薬を持っていたりするのだろうか?メルメス付きのメイドだし、そこらへんの準備はしてそう。



「実は彼女”水魔法”で冷たい水を手に纏わせる事が出来ますので、コナー様の患部を冷やし「大丈夫です!なんか痛みが引いてきました!」……あら、ホントですの?」



 メルメスの提案に気遣いと優しさしか無いのはわかってる、わかっているが…。



 ……流石に若い女性のペペットに俺の股間に手を突っ込ませるのは申し訳ないし、何より単純に俺が恥ずかしすぎる。



「痛みが引いたのは喜ばしい事ですけれど、もしまた痛みがぶり返したらいつでもおっしゃって下さいまし?すぐペペットを向かわせますので」



「あ、あはは……その時はよろしくお願いします…」




 なお、その後は痛む股間を極力悪化させないようにしつつ、メルメスとその他使用人達の前で必死に『俺、痛くない』アピールを続ける事に全力を注いだのは余談だ。




 ……ちなみに、後日ふと思ったのだが、冷たい水をペペットに生成してもらい、自分で股間を冷やせばよかったのでは?と気が付いたのだが、もうすでに馬にも乗れるようになっていた俺は今さら気が付いても遅いよなと馬の背中に跨りながら、がっくりと肩を落とすのだった。








――――――――――

――――――――

――――――








パカラッパカラッパカラ……



「うーん…やっぱり馬車より早いねぇ」



 再び王都へ向けての旅を再開して1週間、すでに俺1人で馬に跨り、馬車とは比べ物にならない程のスピードで草原を駆け抜ける事が出来るようになっていた。



 指南役のバルトファルトも数日前には『もう教える事は無い』と言い捨て【アイテムボックス】の中に入り、剣の稽古を再開している。



「お、ゴブリン…?なら大丈夫か」



『ギャッ!ギャ……g……』



 馬車での移動では無くなり、基本足の遅いゴブリン達は【アイテムボックス】に隠れてバルトファルト達に退治してもらわなくとも、無視して突っ切って逃げる事が可能になったおかげで大分時間のロスが減った。



 もちろん進行方向に陣取られたり、足の速いウルフ系の魔物が相手だったら、今まで通りバルトファルトとミント達を頼るしかないが、魔物襲撃の半分ほどはゴブリン系の魔物が占めていたので、大分戦闘を省略出来たと思う。



 現に、予定よりかなり速いペースで進んでいるらしく、後1週間もしない内に王都に到着出来そうだとバルトファルトに教えてもらっていたので、騎馬単騎での移動はやはり馬車よりもかなり早いようだ。(もちろん馬を走らせっぱなしには出来ないので小休憩はきちんと取っているが)




「……ん?アレは……」



「―――止まりなぁッ!!」



 と、ここ一週間で変わった事について考えていたら、突然目の前に何やら柵の様な物が道を塞いでいるのが見え、訝しんでいたら、柵の近くの茂みから如何にも何か月も風呂に入って無い……いや、盗賊っぽい見た目の男が20人くらいの集団で俺の周りを取り囲むように飛び出してくる。



 妙に小汚く、ほんのりとまだ離れているはずの俺の所まで汗臭さが漂ってくるあたり、余程不潔な人達だなぁと顔を歪ませるが、冷静に考えて、これはもしかして少しばかりピンチだったりするのか?



「へっへっへ……こぉんな人気のねぇ平原に立派な馬に乗ったガキ一人……なんかの訳アリっぽいが、ここを生きて抜けたきゃ有り金全部とその馬を大人しくこっちに渡してもらおうか?」



「こんなガキさっさと殺して物を奪えばいいのにあえて命を助けてやるなんて…さっすがカシラ!やさしぃこって!」



「よせやい馬鹿野郎!俺は博愛主義ってやつなんだよ!」



『ゲラゲラゲラゲラッ!!』




 盗賊は初めて見るが、どうやら相手さんが欲しがっているのは今俺が乗っている馬のようで、金目の物は二の次らしい。



 ……まぁお世辞にも金を持ってるようには見えないだろうし、荷物なんかも【アイテムボックス】に仕舞っているので、訳アリで馬を盗んで逃げてきた子供…みたいに見られているのだろう。



 金目の物は無くとも馬が売れれば最低でも金貨10枚はする代物だ。盗賊が狙うのも理解できる。




「……ここから一番近い街でも徒歩で数週間掛かる、移動用の馬が居なきゃどうせ野垂れ死ぬのをわかっていて何が博愛主義なのさ?(盗賊っぽいのに出くわしましたけど、どう対処すればいいですか?)」



「あぁん!?ここで殺されるよりかはマシだろうが!そんなこともわかんねぇのかこのガキ!!」



 流石に魔物相手とは勝手が違うだろうし、すぐにバルトファルトに出て来てもらうのが正解か判らなかったため、相手に対話を投げかけつつ、盗賊達からは見えない位置に小さい≪ゲート≫を開き、バルトファルトに小声で指示を仰ぐ。



 案の定盗賊はこちらを子供1人だと油断しているようで、俺の話を馬鹿にしたような返事を返してくる。




『相手の数は?』



「(20人くらいです)ならせめて近くの街まで送ってくれません?」



「なぁんで俺達がそんな面倒な事をしなきゃなんねぇんだッ!」



「「「そうだそうだ!!」」」



『ふむ、念の為ホワイトタイガー全員を呼んでおいてくれ、貴様はいつも通り【アイテムボックス】に隠れろ』



「(…相手は20人もいるんですよ?大丈夫ですか?)……ならせめて食料を分けてくれないんですか?」



「魔物に殺されるだけのガキに俺らの貴重な食料を渡すわきゃねぇだろうが」



『ふ……盗賊風情に負ける私ではないわ』





 盗賊達も余裕の表情を浮かべていても、流石にいつまでも俺の戯言に付き合うのは飽きて来ていたのか、次第に武器に手をかけ始め、今すぐにでも襲ってきそうな雰囲気になってくる。



「(ホワイトタイガーの皆さん!頼みますね!)…博愛主義が聞いて呆れますね!」



『おう!任せろコナー』『本業は久々ね』『盗賊はゴミ、さっさと処分すべき』『…眠いわぁ…』



 ヘーニアさん……。




「だぁとこのガキ!?下手に出てりゃ調子に乗りやがって……生かすのはやめだ!ストレス発散にぶち殺してやらぁ!!」



 いつ下手に出ていたのか全く分からないが、ついに盗賊のカシラ?と呼ばれた男がこちらに向かって動き出して来たので、すぐさま意表を付ける様に俺を包囲している盗賊達の後ろに≪ゲート≫を生み出し、バルトファルトとホワイトタイガーの面々が一気に飛び出してくる。



「―――今だぁぁ!!!退避ぃぃぃぃぃ!!!」









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