第13話王都【ベルナート】へ~自営業へ向けてのお買い物~
翌日、今日は魔物の群れを討伐しに行ったミント達が昼頃に帰ってくる予定なので、俺は朝起きてすぐに朝食を取り、午前中は昨日と同じく町の観光と洒落込もうと町に散策に出掛ける。
すでに宿屋の場所もわかっているし、昼に冒険者ギルド前に集合となっていたので特に案内も必要では無かったので、今日は俺1人での観光だ。
「――いらっしゃーい、ご自由にご覧くださーい」
「……うーん…1個2個なら問題ないけど……流石に大量に用意するってなるとキツそうだよなぁ…」
ここは町の中心から少しだけ外れた小さい“家具屋”。
何故家具屋に来ているかと聞かれれば、昨日話した運送業の下準備として、お客を乗せる(?)【アイテムボックス】内の家具やらを揃えるのにどれくらいお金が居るのかを調べに来たのだ。
「ベット……サイズは多分シングルで値段は……大銀貨5枚…くぅ…中々するなぁ…」
店の品ぞろえは基本的な物は揃っていて、タンスやテーブルにベット、それに少し値段が高いものだと魔道具が組み込まれた洗面台やコンロなどもいくつか展示されている。(コンロの値段は金貨2枚程)
仮に魔道具が組み込まれていないただの家具一つとっても別段安いという訳でもなく、既製品らしいシングルサイズのベットに大銀貨5枚と値札が掲げられているので、そこそこ家具と言うのは高い買い物らしい。
「…お客さん?暫くそこで唸ってるみたいだけど、買うか迷ってるのかい?」
「あ、いえ…家具一式を10セット買うのにどれくらい費用が掛かるかなぁって調べてて…」
「一式を10……え、は?10セット?」
値札を見て唸っていた俺が商品を買うか買わないか迷っているターゲットだと見たのか、先程まで別の客に接客していた愛想の良さそうな女性店員が声を掛けて来たが、こちらとしても知識のある店員に家具の良し悪しを聞きたかったので素直に今悩んでいる事を告げると、『うっそでしょ?』と言いたげな目で驚かれる。
「えと、近々……宿?の様な物を開業しようとしてまして、それで…」
「あぁ!なるほどね。そう言う事なら10セットってのも納得だね…でも宿屋を開業するっていうには客室が10部屋しかないのかい?結構少ない気もするけど」
「そこは後々
「そうかい?まぁそっちにも事情があるのは理解したよ…それで?予算はどれくらいで考えてるんだい?」
「……実はまだ金貨10枚くらいしか予算が無くて…」
金貨10枚…前世で言えば大体100万円ぐらいの資金なのだが、これは小さい時から漁師の仕事や商会の仕事を手伝ってコツコツと貯めた俺の全財産。
はっきり言って、俺と同年代でこれだけの貯金を持っている奴はまず居ないと言えるだけの大金だが、それでも家具を買い揃えるには少々心もとない金額だ。
「金貨10枚……家具は安い物の方がいいのかい?それとも出来るだけ品質がいい高級品を揃えたいとか考えはある?」
「一応客層は旅商人や冒険者が対象になると思うんで、それほど品質にこだわらなくてもいいとは思ってます。ただ、将来的に貴族の方も運ぶ……ごほん…泊まる予定なので、その時は高級品の家具の方がいいかなぁって」
「運ぶ…?……まぁ貴族が宿泊するような宿屋になれれば確かに高級品の家具の方がいいだろうね。なら10セットの内1セットだけ高級品の家具にして、他を安い家具でまとめたらどうだい?部屋のグレードで値段を変えれば冒険者や商人の中でも大金を出す客も出る可能性があるし、安い部屋と高い部屋を区別する事で『この部屋が嫌なら高い部屋にしな』って苦情を一蹴出来るしね」
苦情を一蹴て……まぁ確かに部屋のグレードを分けるのはいい案かもしれない。
俺がレベルアップしていけば部屋数はどんどん増えて行って同じ家具で統一するのは面倒だし、部屋の大きさを変えられる俺の【アイテムボックス】なら≪シングル≫の大きさで安いグレード、≪ダブル≫でちょい高めの高級志向と分ければ貴族が顧客として来た時に対応出来る。
「それがいいかもです。でも値段的に高級品が買えますかね?」
「ベット、クローゼット、テーブルとイス一式、それに貴族が相手なら4つくらいソファーを用意しとけばいいんじゃないかしら?宿屋は食事の出来るレストランが付いてるタイプ?それにお風呂はお湯とタオルの貸出をする感じかしら?」
「……すみません、そこらへんはまだ考えてなかったでした…でもレストランとかは付かないので各自で食べてもらう感じになると思います。お風呂は……どうなんでしょう?」
「……あんたの宿屋はすぐに潰れそうね…」
ぐッ……言い返せない…。
俺自身、普通の宿屋を経営するとなれば経営不振で店を潰すイメージしか湧かないが、俺がやろうとしているのは人を運ぶ運送業の方なので、これでも問題は無いはずなのだ。
……いや、移動する距離によっては数週間、数か月は俺の【アイテムボックス】に寝泊まりする事になるのだし、宿屋としての機能も完備させていた方がいいのか?
「ま、まぁ元々どんな宿屋?にするかを決める為に市場調査に来たのが目的ですし、その他の事はその内決めようかと…」
「そうかい?それならいいけど……ひとまず安い家具でも見てみるかい?」
「えと、お願いします」
女性の店員に若干呆れられながら店の奥に歩いて行くと、先程まで見ていた家具とは明らかにレベルが落ちているが“作りはしっかりしてそうな”ベットやタンスが陳列されているコーナーに案内される。
「ベットはここら辺が一番安くて銀貨5枚、タンスやテーブル、2人分の椅子も全部合わせて大銀貨1枚って感じかしらね」
「やっすッ!?」
見た目安っぽい木で出来たシングルサイズのベットが前世で言う5千円の銀貨5枚。
その他もろもろ木製家具一式合わせて大銀貨1枚……流石に安すぎて不安になる。
「どうしてこんなに安いんですか?見た感じデザイン性とかは皆無ですけど、足はしっかりしてるし、変なササクレもない丁寧な出来なのに…」
「ん―…まぁぶっちゃけここの商品はうちの旦那の手作りなのさ。別に職人でもなく趣味で作った家具達でプロの職人が作った商品じゃない」
「旦那さんの手作り…」
「だから同じベットでも細かく比べれば大きさはバラバラだし、防炎加工もしてないから火事になれば普通に燃えるから高値では売れないのよ……それに材料の木材も近場で切り倒した普通の木だから大銀貨1枚でもきちんと利益は出るのよ?」
そう言われて徐に、一番近い椅子を2つ並べてみれば微妙に高さが違うようで、座高が2センチ程ズレていた。
確かにこれはプロの家具職人が作った商品とは言えないし、旦那さんの手作りで安いという理由なのも納得できる。
「…これを9セット分あるんですか?もしこれを買うってなったら…大銀貨9枚??安い」
「どうする?買うかい?」
元々市場価格を見るつもりで来たが、これだけ安い物はまず他の場所では見つけれないだろう。
「う~ん……」
――――――――――
――――――――
――――――
「――どうもありがとね!また家具が欲しくなったらおいで」
…結局、俺はあまりの安さに根負けし、9セットの安い家具セット(旦那さん作)を買う事になり、その他高級志向の家具一式(ベット、クローゼット、テーブルとイス、それに寛ぐようのソファ4席)も合わせて金貨2枚と大銀貨9枚で購入した。
「…王都の品ぞろえとか見てから買えばよかったかもだけど、こういうのは勢いが大事だ!」
自分を正当化する為の理由を独り言で呟きながら自分のステータスを開き【アイテムボックス】の中身を確認する。
「ひとまず買った家具は空き部屋に押し込んでおいて……って、お?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【名前】 コナー
【年齢】 15歳
【スキル】 アイテムボックス:Lv9
【SP】 24/26
★アイテムボックス★
【ルーム操作】
≪自室≫ 10×10:【その他▼】
≪メルメス≫ 10×10:【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:【その他▼】
≪トイレ≫ 5×5:空
≪水場≫ 5×5:【その他▼】
≪シングル≫ 5×5:空
≪シングル≫ 5×5:空
≪ダブル≫ 10×10:【その他▼】
≪ダブル≫ 10×10:空
≪ダブル≫ 10×10:【その他▽:家具一式】
≪ゴミ箱≫ 10×10:【その他▼】
≪ルーム9≫ 10×10:空
【装備】
≪頭≫ :無し
≪胴体≫ :普通のシャツ
≪腕≫ :無し
≪足≫ :普通のズボン
≪武器≫ :無し
≪アクセサリー≫:無し
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「レベルが上がってるじゃん!昨日はステータスの確認しないで寝たから昨日からレベルが上がってたのかな?……やっぱり大勢を収納しながらの旅は経験値効率がすごいね。この調子ならレベル10もすぐだね」
旅の間は毎夜毎夜ステータスの確認をしていたが、昨日は初めての町という事で興奮しており、夜の確認を忘れて寝てしまっていたが、やはり自分のスキルがレベルアップするのはかなり嬉しい。
レベル10になれば新しいスキルの能力も獲得出来るはずなので、めちゃくちゃ楽しみだ。
「…少し気が早いかもだけど、この町を出発したら新しい家具を早速配置してみようかな?それでミント達ホワイトタイガーの人達に使い心地とか家具の配置の感想を聞いてみよ……ヘーニアさんには高級志向の部屋をお願いすれば喜んで引き受けてくれるかな?」
メルメスにふかふかお布団を用意してもらうように頼む訳にはいかなかったし、俺が用意出来る寝具でかなり高価なベットなので、ヘーニアも文句は言わないだろう。
―――ゴーン…ゴーン…
「っと、そろそろお昼か。早く冒険者ギルド前に行かなきゃ」
正午を知らせる時の鐘の音を聞き、開いていたステータスを一旦閉じた俺は、事前に決めていた集合場所の冒険者ギルド前の広場へ向けて歩き出すのだった。
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