第11話王都【ベルナート】へ~一旦魔物討伐へ(コナーはお留守番です)~






 旅に慣れ、将来1人で旅に出ても大丈夫そうだなと感じる今日この頃。



 実は、王都に向かっている俺達は今、王都……ではなく、ブルスの街を出発して3週間程の場所にある宿場町に寄る為、町の検問にかけられている。



 まぁこちとらブルスの街のご領主様で、お貴族のメルメスが付いているので特に問題がある訳じゃないが、馬車の荷物の検分やらはどの立場の人間でも義務付けされている事なので、抵抗する事無く指示通りに兵士の質問に答えていた。



「……君…その年でこんな大勢の女性を自分の【アイテムボックス】に招き入れるなんて……」



「ちがッ!?違いますって!!これはただ……部屋を貸してるだけで…」




 …はい、まぁある意味そうなるかもと思っていた事態になりましたね…。



 事の発端は馬車の荷物の検分をする際に、俺が自分の【アイテムボックス】に大勢の人が入ってますと正直に答えたら、『監禁などの事件性が無い事を証明する為、一度全員出てもらいたい』と指示を受け、『わかりました』と指示通りにしたのだが、同行者の3分の2は女性だった所為でいらぬ誤解を生み、俺1人別室に連れていかれて色々と質問をされているという訳だ。



「あの……今回はメルメス…ブルスの街の領主様から正式に依頼をしてもらってあんな感じに【アイテムボックス】を使っていただけで……」




「いや、良いんだよ……私も昔は『俺だけのハーレムをー!』とか言って女の子のお尻を追っかけまくってたからね……同意を貰えているからってあんまり羽目を外し過ぎたら痛い目見るから気を付けなよ?」




 この色ボケおっさん…俺の話を一切聞かずに『ふう…やれやれ』みたいな顔で俺達が町に入る為の書類にハンコを押してくれるが、全くもって嬉しく感じないし、何なら軽い怒りで拳が出そうになるが、どうせこのおっさん兵士が1人勘違いするだけなのだからと必死に自分を言い聞かせ、【通行許可書】を受け取るのだった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「ひどい目にあった…」



「お疲れ様コナー。同情はするけど特に被害があった訳じゃないから気にしない方がいいぞ?……それよりも、実はフィッシュナート嬢達が一足先にこの町を治めてる町長に用事があると言って、別行動になったんだ」



「え、あれ?ほんとだ…メルメス達がもう居ない」



 詰所からやっとの事開放され、先程メルメス達を下ろした……出した?広場に行けば、すでにその場に残っていたのはミント率いるホワイトタイガーの面々と、恐らくメルメスがこの町の案内役として残していってくれたであろう2人のメイドしか居なかった。



 ……せめて許可証を持ってきてから行動開始して欲しかった…。



「そんな訳で、馬車は暫くフィッシュナート嬢達が使うらしいから、後程宿屋で合流しよう…との事だ。オレ達はすぐにこの町を出立しなきゃだから宿にはいかんが、案内はあっちのメイド達を頼ってくれ」



 ミントが背中越しに親指を後方に向け、その先にいるメイド達2人が示し合わせたかのようにこちらへお辞儀を返す。



「あ、うん……わかった」



「――コナー君コナー君。私達は退の準備でギルドに顔を出さなきゃだから行くけど、ぜぇぇぇっ……たいに!ふかふかお布団の予備を用意してもらえるように領主様にお願いしてね!?絶対よ!?」




「おいこらヘーニア、あまりコナーに迷惑を掛けるんじゃない……どうせ予備の布団があっても無くてもヘーニアはずっと寝てるだけじゃないか」




 旅の間、殆どぐーたらと寝て過ごしていたヘーニアの必死な懇願をミントが一蹴するが、ミント本人もこの宿場街に到着する寸前で『すまないコナー…出来れば魔物盤以外で何か暇を潰せそうなものがあれば買ってきて欲しい…もちろん金は出す』と隠れてお願いしに来ていたので、ある意味ミントもヘーニアと同類なのかもしれない…。








 …さて、今ヘーニアのセリフの中にあったと思うが、今回、この宿場町に立ち寄ったのは食料の補充以外に、ブルスの街で話した『魔物の群れの討伐』が関係している。



 実は、魔物の群れが発見されたという場所が、この宿場町から馬車で半日程離れた先の荒野なのだ。



 故に、一番近いこの町に立ち寄り、ホワイトタイガーの人達とバルトファルト、それと数は少ないがこの町に駐在している冒険者達と一緒に討伐隊を組むのだという。



 ちなみに、非戦闘員の俺やメルメスはこの町でお留守番の予定だ。




「いやだぁぁ……コナー君の快適なお部屋で寝ながら移動したいよぉ……討伐隊って言っても殆ど私達が魔物を蹴散らすんだからコナー君に運んでもらっちゃダメなの?」



「…それはメメも同意かも。元々ヘーニアの広範囲魔法で一気にブッパする予定でしょ?メメも出来たらあのふかふかお布団で移動したい」



「駄目ですよ2人とも?コナー君だってここまでずっと馬車の上で移動して来てるんだから疲れてるだろうし、いくら【アイテムボックス】の中は安全って言っても、あえて魔物の群れが居る場所に突っ込んでいく必要なんてないんだから!……コナー君にはここまでの旅の疲れをぐっすり休んで取ってもらわないと」



 ぶー垂れるヘーニアとメメの2人におっとりお姉さん風のアイリスが『めッ』と喝を入れ、何となくこのパーティはミントとアイリスの2人が居るから成り立っているんだろうなぁと感心する。(ちょくちょくミントも斜め上に行くイメージだが…)



 個人的には魔物の群れと言うのは怖いが、ある程度の危険性も【アイテムボックス】で無くせるのだから俺が運んでもいいとは思うが……今回はお言葉に甘えてお留守番をさせてもらおう。



 別に、移動中は入れなくとも馬車を停めて野営する時は俺も【アイテムボックス】の≪自室≫で休んでいるのだからそれほど疲れが残っている訳じゃないけど、初めての他所の町を見て回りたいという気持ちもあるからな。




「それじゃ、オレ達は行くからな?討伐が終わったらまたよろしく」



「あ、はーい!またねミントー!皆さんも頑張ってきてくださーい」




 『コナーぐぅーん……』と涙交じりに引っ張られて行くヘーニアとホワイトタイガー一行が冒険者ギルドへ向かうのを見送った俺は、深く深呼吸しながら辺りの町並みを眺める。



「………ブルスの街と違って木造建築が多い?やっぱ海から遠いから海風の影響を考えたレンガ調よりもコスト面で木の方がいいのかな?……気になるかも!」



 自分の知る故郷の街と見比べ、どんなものがこの町にはあるのかと心を高ぶらせながら、近くの店を見て回ろうと足を動かす。




「―――コナー様」



「ひゃい!?……あ…」



 そうだった…。さっき、この場にはホワイトタイガーの面々と案内役として残されたであろうメイドが2人いたのをすっかり忘れていた。(ちなみに今は1人しか残っておらず、ホワイトタイガーの方にも1人付いて行ったっぽい?)



「あ、すいません……えっと…確かお風呂のお湯をいつも入れてくれる…」



「ペペットでございますコナー様。私めが出来るのはただ【水魔法】でお湯を出す事だけでございます。コナー様の様に素晴らしいスキルは持ち合わせておりません故に」



 このメイド……ペペットはいつも夜の野営の時に、調理に使うお湯やお風呂場の大量のお湯をスキルで生み出してくれる人で、名前は知らなかったが数回は話した事のある女性だ。



 飲み水は有限で、そうホイホイと使えない中じゃぶじゃぶとお風呂のお湯を溜めれているのは、この人のスキルのおかげなので、感謝の念が絶えない……この人が居なきゃ、最悪少ない飲み水を一週間に一回ぐらいの頻度で、軽く体を拭く事しか出来なかっただろう。



 ……一応補足情報として、身体や様々な物をキレイに保つ為のスキル【クリーン】の所有者が居れば、一切お風呂に入らなくても体が汚れないで済むらしいが、今回の同行者の中にはその【クリーン】持ちはいないので、ペペットのお風呂魔法が大活躍という訳だ。……個人的にいつかは【クリーン】の全身洗浄を経験してみたいけど。




「えっと、ペペットさんは俺を宿に案内してくれるって認識でいいのかな?」



「はい。もっと詳しく言えば、宿屋以外にこの町のありとあらゆる場所をご案内するようにメルメス様からご指示をいただいておりますので、観光が目的であれば私をお連れ下さいませ」




 …冷静に考えれば、右も左もわからない初めて来た町を一人で練り歩けば、ほぼ100%迷子になる。恐らくメルメスも俺の心情をある程度予測を立てて、案内役のペペットを寄越してくれたのだろう。(色々と気を利かせすぎてて怖いが…)




「メルメスが……あ、ありがとうございます!えっと…なら先に宿屋の場所だけ教えてもらってもいいですか?はぐれるつもりは無いですけど、戻る場所を覚えていた方が何かと安心しますし」



「かしこまりました。ではこちらに…」




 まずはこの町を練り歩く起点にすべく、ペペットの案内で俺達は宿屋へと赴くのだった。






――――――――――

――――――――

――――――







 一度、宿屋に足を運んだ後、俺はペペットと共に町の中心部である市に来ていた。



「ペペットさんはこの町にはよく来るんですよね?」



「えぇ、メルメス様や前領主で在られるメルメス様の御父君が王都へ向かわれる際に、食料の補充や休憩地点としてよく立ち寄っていましたので、私もその時に」



 市では色々な出店が立ち並び、山菜やキノコなどの山の幸や家畜の加工品などの畜産物。それにこの宿場町の特産なのかワインの立ち飲み屋らしき店が数多くあり、それらに目移りしながらペペットに話しかける。



「そうなんですね……そういえば聞くのを忘れてたんですけど、その前領主のメルメスの両親?は今どうしてるんですか?」



 流石に8歳の娘に領主の座が行き渡っている状況から、十中八九鬼籍に入っているのだとは予想していた。なのでメルメス本人に聞くのは気が引けていたのだが、いい機会だとペペットに質問を投げかける。



「……前領主様は去年の夏頃に病で亡くなっております」



「そうですか…。まぁメルメスみたいな小さい女の子が領主を継いでいる時点で何となく予想はしてましたけど……。お母さんは?」



「お母君は存命ですよ。コナー様はお会いにならなかったかもですが、ブルスの領主邸で普通に生活されています」



 そうか、少なくともメルメスは現状で天涯孤独になっている訳では無いという事か。父親が死んでしまったのは辛いだろうが、甘える母親だけでも生きていてくれて良かった。



 ……しかし、母親が生きているのなら領主としての仕事はその母親が受け持つ事は出来なかったのだろうか?貴族の風習で直系の血を受け継いだ者しか領主になれないみたいなルールでもあるとか?




「……無知で申し訳ないんですけど、メルメスの領主としてのお仕事って、その母親がやる事は出来なかったんですか?8歳のメルメスに任せるには結構思い役職の様な気がするんですけど…」



「それに関しては単純に、お母君が書類仕事が全く以て!出来ない方なのです……最初は何とか領主の仕事を頑張ろうとしていたのですが、お母君の度重なる重大なミスを見かねたメルメス様が『お母様…私、領主を継ぎますので、どうか重要書類に血判を押そうとしないでくださいましッ』とお説教をいたしまして、現在の形になった次第でございます……メルメス様自身はとても優秀な方で、本当にメルメス様には感謝の言葉しかございません…うぅ…」



 いや、どんだけメルメスのお母さんやらかしてたの!?8歳児の自分の娘に仕事をクビにされて自分達に仕えてるメイドに泣く程安堵される母親ってなに…?



 一体、どんな事をすればここまで……と言うか今時“血判”って聞いた事無かったんだけど……。




「だ、大丈夫ですか…?」



「す、すいません……つい昔の『10年は安泰だったはずのフィッシュナート家が1月でッ!?』事変を思い出したら涙が止まらなくなりまして……もう大丈夫でございます……さ、気を取り直して、コナー様の観光案内をいたしますね」



「気になるッ!!流石に10年が1か月に短縮される程のミスはミスじゃないよね!?何があったのか気になるんだけどッ!?」




 一周回って、『もう観光とかよりこの話を詳しく聞いた方が有意義なのでは?』と思ったが、流石に1,2泊で再び王都に向けて出発するのだから今は観光を優先しようと“渋々”話を打ち切り、止めていた歩みを再び進めるのであった。



 ……ちなみに、ペペットには後日、もう一度話を聞かせてもらえるようにお願いはした。










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