第10話王都【ベルナート】へ~2日目から2週間目までの道中~





 ~旅に出て2日目~



 本日も温かい日差しを身体全身で受けながら、特に舗装などされていない道を『ガタガタ…ガタガタ…』と小刻みに揺られながら馬車を進ませる。



 馬車に乗っているメンツは昨日と同じく、俺とバルトファルト、そして俺が昨日まで男性だと勘違いしていたミントの3人で同乗しており、他の人達は俺の【アイテムボックス】の中である。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



★アイテムボックス★


≪自室≫    10×10:【その他▼】


≪メルメス≫ 10×10:【メルメス♀:読書】【メイド♀】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【メイド♀:睡眠】【メイド♀】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【メイド♀】【カルメア♀】【アイリス♀】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【執事♂】【執事♂】【執事♂】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【バット♂】【執事♂】【その他▼】


≪トイレ≫   5×5:【汚物×5】


≪水場≫    5×5:【その他▼】


≪シングル≫  5×5:空


≪シングル≫  5×5:空


≪ダブル≫  10×10:【メメ♀】【ヘーニア♀:睡眠】【その他▼】


≪ダブル≫  10×10:空


≪ダブル≫  10×10:空


≪ゴミ箱≫  10×10:【その他▼】




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 …うん、きちんと全員分表記がされているな。一応補足すると、執事さん達用に用意した部屋に【バット♂】と、メイドさん達用に用意した部屋にいる【カルメア♀】は調理人の2人で、昨日の夕ご飯の準備の際に少しだけ話をして名前を教えてもらい、実名表記になっているだけだ。



 メルメスに関しては、本日も読書に勤しんでいるようで、お付きのメイドに部屋の掃除をしてもらいながら優雅に過ごしているっぽい。



 ………昨日一日で計7冊の本を読んでいるみたいだが、そのペースで2か月間読書を続けるとなると、絶対後半には読む本が無くなりそうなのだが、大丈夫だろうか?読み終われば別の事をし始めるのかな?





 ちなみに、【カルメア♀】と一緒にいる【アイリス♀】はホワイトタイガーの回復担当の人で、ミント曰く『あいつは料理やら縫い物なんかを学びたい』と言っていたらしく、朝からメイド達用の部屋に入り浸っているらしい。



 あまり細かい事はわからないが、感覚的には何やら色々と話し合っている?ような感覚が感じられるので仲良くしているのだろうと判断する。











 野営地を出発して数時間、今日はまだ魔物に襲われる事なくスムーズに馬車を走らせつつ、俺は元よりお願いしていた御者のやり方をバルトファルトに教わっていた。



「そうだ、基本は手綱は緩く持ちながらも馬の視線を真っ直ぐ前に向ける様に引け。じゃなきゃ馬は好き勝手な方向に寄れ始めるからな」



「おぉぉ……こんな、感じ?ですか?」



「うまいうまい。よく出来てるよコナー」



 馬の手綱を握りながら、すぐに何か起きても代われるようにバルトファルトが隣で補助をしつつ、手取り足取り馬の動かし方を学び、それを実践。上手く行けばミントが褒め、ミスをすればバルトファルトからの叱咤が飛んでくる。



「馬の視界は前しか見えない様に目隠しが付けられているから、顔の向いてる方向にしか進まない。賢い馬は手綱を引かなくても真っ直ぐ歩くのもいるが、基本は御者が制御するモノだ」



「……結構気を使いますね……これ、1頭だから何とか出来てますけど、2頭引きの馬車とか4頭引きの馬車はどうやって言う事を聞かせてるんですか?」



 ブルスの街でも偶に見かける多頭引きの馬車。


 あれの御者はどうやって4頭もの馬に指示を出し、まっすぐ進めていたのかが不思議に思える。



「あれは……馬同士を固定する事によってある程度進行方向を強制する事が出来る作りだが、それでも手綱捌きにある程度の練度は必要だからな。貴様も将来4頭引き馬車を扱いたかったら金を貯めて、馬車の扱いに慣れるしかないぞ」



 いや……ただ1頭引きでもこんだけ難しいのに4頭引きならどんだけ難しいのかが疑問になっただけなんだけど……というか1頭数千万はする馬をホイホイと買えるかッ!




 ……結局、馬車は慣れが一番だという事がわかってからは、昼食休憩の時間まで、俺は根気よく馬の動向に注視しながら、御者としての訓練を続けるのだった。








~旅に出て3日目~7日目~





 旅は順調に進み、度々襲撃してくる魔物を退けながら早くも1週間。【アイテムボックス】で過ごす人達も特に体調不良になる人も出ていない。



 御者の訓練も中々に慣れて来て、横にバルトファルトが居る状況ならば丸一日御者をやってもいいぐらいには上達している。



「暇だぁぁ……せめてもっと魔物が出て来てくれれば身体を動かせるのに…」



「あはは…俺はこのまま平和に行きたいけどね」



 旅は順調……しかし、その平和自体に不満を持つ者が1人……。この一週間【アイテムボックス】の中はする事が無いと外に出続けたアウトドア系男装?女子のミントである。



 ミントは魔物が出て来た際も率先して動いてくれるし、馬車の御者もたまに手伝ってくれるいい人なんだけど、その全ての理由に『暇だから』と言う一文が入る。



 おかげで、魔物も出ず、御者の仕事しか残ってない現状、ミントの『退屈ゲージ』がマックスになっているっぽい。



「暇ならば部屋で寝てくればいいではないか。寝てれば退屈も何も感じずに済む」



「……オレ、基本的に夜じゃないと眠れない質なんだ……それにオレが寝てたらバルトファルトさんが魔物を全部倒しちゃうじゃないか」



「当たり前だ」



 ミント本人は『暇を潰したい』と言う理由で喋っているのだろうけど、傍から聞けばただのバトルジャンキーにしか聞こえないセリフに思わず苦笑い。



 しかし、今の所俺自身この旅に飽きていないから“退屈”という感情を感じていないが、いずれ俺も数週間、数か月ずっと馬車の御者をしているだけだと暇を持て余してしまう可能性も高い。



 ならば何か暇を潰せる物を考えた方がいいのでは?と思考を巡らせてみる。



「……そういえば、メルメスの部屋に確かボードゲームとか用意されてなかった?借りるとかじゃないけど、簡単なボードゲームならそこらへんの木を使って再現とか出来ないかな?」



「それだ!」



 最悪、読書ばっかりしているメルメスに借りればいいかもしれないが、ミントにとって一応は貴族で領主なのだからそう簡単に物を貸し借りするのは気が引ける可能性があったので、代替案として手作りを提案してみれば即座に動きだすミント。



「ぜりゃあ!!」



「うわ!?」



―――ズバンッ!!……ドォォォンッッ!!




 ミントがゆっくりと走る馬車を飛び降りると、そこそこ太い木の幹に勢いよく剣を振りかぶり、轟音を立てながら木を切り倒す。



 俺は思わず轟音に肩をビクつかせながら、音に驚いた馬達を落ち着かせ、馬車を停める。



「ちょ、ミント!!いきなりそんな大きな音立てたら馬が…」



「あ、す、すまない!少し配慮が足りなかったッ!」



 俺の言葉にすぐ自分のミスに気が付いたミントは申し訳なさそうに謝罪しながらこちらに駆け寄ってく馬車を


「……暇は人をダメにするってこういう事だね……」



「ふむ…まぁミント殿の暴挙は放っておくとして、コナー殿、先程の馬を落ち着かせる手際は中々に良かったぞ?そのまま精進しろ」



「……あ、どうも?」



 バルトファルトも少しズレているのか、ミントの事を放って置いて俺の手綱捌きを褒めるのは今じゃない気がする……。いや、褒められるのは嬉しいけど…。




 そんな一幕を興じた後、切り倒した木を細工しやすいように丸太状にし、馬車に積み込んで再び馬車を走らせる。



「……簡単に言っちゃったけど、簡単なボードゲームって何か案はあるの?チェスの駒とか作るの大変だと思うけど」



「流石にチェスは作れる気はしないし、オレ自身あまりチェスは得意じゃないんだ……なんで冒険者達で密かに流行っている“魔物盤”を作ろうと思う」



「魔物盤?」




 魔物盤とは、今冒険者界隈でちょこちょこ人気がある個人が考えたゲームらしく、概要はほぼチェスや将棋と同じ駒を使うゲームだ。



 違う点は魔物側と冒険者側に分かれ、使う駒も別々の能力があるという部分だろうか?駒には魔物の名前やランクを記し、冒険者側も同じようにランクを記する。



 そして、このゲームの醍醐味なのだが、この”ランク”の高さに応じて倒せる駒と倒せない駒が存在する事である。



 将棋やチェスは強い駒が多く移動できるという特性があるのに対し、魔物盤は強い駒程移動に制限が掛かるが、同じく強い駒、もしくは弱くても合計ランクが多くなるように弱い駒を集めなければ倒せないというルールがあるらしい。



「―――ってな具合に、強い駒をどこに配置して、どう攻略するか…ってのが面白くてね。このゲームなら元々個人の手作りで出来たゲームだし、ランクと名称だけ書ければ問題ない。まぁ駒の数をこの丸太から切り出さないといけないからそこは面倒だけど、その分オレも暇を潰せるし、一石二鳥だな」



「…なるほど……ちょっと面白そうかも。出来たら俺にもやらせてね!」



「ああ!それじゃ早速作る為に、揺れの少ない【アイテムボックス】の中で作業しようかな?もし魔物が出たら遠慮せずに呼んでくれ!」



「わかったよ。≪ゲート≫」



 先程まで、魔物出たら絶対オレが狩る!と生きこんでいたミントだったが、他に暇を潰せそうな物が見つかってウキウキとしながら≪ゲート≫をくぐって部屋に入る。



「……うるさいのが居なくなればまぁまぁ静かになるな」



「うるさいって言っても普通の雑談ぐらいしかしてないと思いますけど……」



 なんだかんだ馬車の上にいる3人の内、一番会話を繋げていたミントが居なくなって、一気に寂しく感じる部分もあるが、その分御者の訓練に集中しようと意気込む俺は手綱をギュッと握りしめるのだった。







「少し力が入りすぎてるぞ、もう少し緩く手綱を握れ」



「あ、はい…」











――――――――――

――――――――

――――――







~旅に出て…2週間目~





―――ガタガタ……ガタガタ……



「………」



 現在、ブルスの街を出発してから14日程経過し、山や森をいくつか越えた先の平原で馬車を走らせている。




 ……俺1人で。




「ん?魔物か……よっと」



 魔物が視界に入った瞬間にすぐさま気が付き、馬の手綱を引いて素早く馬車を停める。



「ぎゃっぎゃ!」


「アオォーン!」



 魔物はゴブリンとウルフ系の魔物が大体10匹ぐらいこちらに走ってきており、ほんの数十秒ほどでここに到着するだろう。




「≪ゲート≫……ミントー!魔物ー!……あ、今はバルトファルトさんの方か。バルトファルトさーん!魔物ー!……そして俺は退避ィッ!!」



 ≪ゲート≫でアイテムボックス内で寛いでいるはずのバルトファルトへ一言連絡してから、魔物から馬を守る為に大き目な≪ゲート≫を作り、馬車ごと自分を【アイテムボックス】へ収納する。



『……よっと、今回は【ホブゴブリン】と【マッドウルフ】か……雑魚だな』



『あれ?なんかコナーに呼ばれたから出て来たけどやっぱり今ってバルトファルトさんの番だったか?なら任せるよ。今メメと魔物盤で勝負の途中だから』



『構わん』



 ……この2週間で慣れたけど、2人とも結構緩い会話ばっかしてるから忘れそうになるけど、一応今魔物に襲われてるんだよなぁ……まぁ安全に隠れてるから問題はないんだけど…。




 今や馬車の運転は俺に任され、魔物が出て来た時以外は部屋で剣の修練をしているバルトファルト。



 木でできたボードゲーム【魔物盤】が完成してからは偶にしか外に顔を出さなくなったミント。



「最初は俺1人で馬車移動は怖いって思ったけど、案外普通に大丈夫でよかったよな。魔物が出ても緊張せずに隠れられたし」



 俺1人で馬車移動と言うのも妙に寂しいが、この旅が終わった後の商人としてやっていく予行練習と思えば、やる気も出るというもの。



 魔物の襲撃も今までバルトファルトとミントが片手間で片付けるのを見ていたからか、俺も1人でいる時でも『2人があっさり片付けてくれるから』と不安にならずに行動出来た。



「このまま行けば後1か月ちょっとで王都に着くらしいし……順調順調」



『おい、魔物は殲滅したから後は頼んだぞ』



「あ、はーい!」



 バルトファルトの声に我に返った俺は、馬車を外に出して王都への旅を再開させるのだった。










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