第9話王都【ベルナート】へ~アイテムボックスの中は羞恥の香り~





 さて、ブルスの街を出て初の旅、初の野営という事でかなり興奮している俺。



 夕食はすでに全員食べ終わり、ぼちぼち暗く就寝の準備をし始めているのだが、ここで少しだけ言いたい事がある。



 というのもつい先ほど説明した【アイテムボックス】の中の状況をある程度感覚で把握出来るという事を伝えたと思うのだが、その際に例えで人の名称の横に【メルメス♀:出血】の様な項目が出現すると言ったのは覚えているだろうか?



 実はこれ、なんと俺自身も【アイテムボックス】の中に入っていれば自分の項目が現れるのだ。



 まぁ別に俺自身が怪我をして出血していたら普通にわかるし、あまり意味の無い機能なのかもしれないので説明する意味は無かったのかもしれないが、“今の状況”を説明するのにはこれを見せた方がいいと思ってあえて説明した。




 というのも…。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★アイテムボックス★


≪自室≫    10×10:【コナー♂:興奮】【その他▼】


≪メルメス≫ 10×10:【メイド♀】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【メイド♀】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【執事♂】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:【執事♂:睡眠】【その他▼】


≪トイレ≫   5×5:【汚物×12】【メイド♀:排泄】


≪水場≫    5×5:【メルメス♀:全裸】【メイド♀:全裸】【メイド♀:全裸】【その他▼】


≪シングル≫  5×5:空


≪シングル≫  5×5:空


≪ダブル≫  10×10:【アイリス♀】【メメ♀】【ヘーニア♀】【その他▼】


≪ダブル≫  10×10:空


≪ダブル≫  10×10:空


≪ゴミ箱≫  10×10:【その他▼】




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 はい、現在メルメス他数名のメイド達が俺の【アイテムボックス】内にて湯浴みをしています。





 …………。



「……くそッ!俺は【興奮】なんてしてない!してないはずなのにッ!!」



 何故か顔に熱が籠っている気がするが、決して俺はメルメスの様な子供の裸を想像している訳じゃないし、話した事も無いメイド達のあられもない姿を夢想などもってのほか!



 多分、この【興奮】は色々と初めての旅で疲れているからそれが変に表記されているだけなのだろうと思い込むことにする。



「……と言うか、メルメス達もメルメス達で恥ずかしげも無く人の【アイテムボックス】の中で良くお風呂に入れるよな…もしかしてこの世界の女性ってそういう羞恥心的なのが薄かったりするんだろうか?」



 今までこの世界で生きて来て特に気にした事は無かったが、言われてみれば何となく男性より女性の方が恋愛ごとにがっついていたり、物怖じしない人が多い気もする。



 ベルフを射止めたマーシャもベルフと結婚するまでは他のライバル達ベルフに惚れた女達を押しのけて行くタイプのかなり押せ押せな肉食系女子って感じだったし、案外そうなのかもしれない。



「まぁベルフ兄さんは単純にイケメンで肉食系女子が群がっていたってだけかもだけど…」



 ……ともかく、メルメス達が気にしないと言っている以上何か注意をするわけでもないし、自分を律するという意味でも出来るだけお風呂場の方に意識を向けない様にしながら、今日の事について振り返る。




「ひとまず、旅の出だしは順調。魔物の襲撃も難なくバルトファルトさんがはねのけてくれるし、【アイテムボックス】の中の人達も特に苦情なんかは無い……精々俺の羞恥心がどうこうってだけか…」



 ミントの様に何もすることが無いと暇を訴える者も少しは居たようだが、元々馬車の旅は揺れに耐え忍び、ゆっくりと流れる代わり映えの無い景色を眺める苦行の様な物。



 それに比べれば、暇になれば静かなベットで眠れる【アイテムボックス】の旅は格別なようで、ホワイトタイガーのシーフをしているメメなどは『もう馬車の移動には戻れない…』とまで言わしめる程らしい。



「…俺はまだ馬車の旅1日目だしな…その内辛くなったりするのかな?」



 馬車で移動している間は俺が【アイテムボックス】に入れば、その場に≪ゲート≫が固定されてしまい移動が出来なくなるので、俺自身の馬車移動はどうあっても必須にはなるが、商人になり様々な街を転々と移動する生活を始めたら辛く思う時も出てくるのだろうか?



「……ま、商売をするんだから多少の苦難は覚悟しなきゃだし、気にしてもしょうがない。それにスキルのレベルが上がって能力が増えれば、解決策も出てくるかもだしな」



 この世界のスキルは基本的にレベルが上昇すれば威力や扱いやすさが向上し、5レベル毎に新しい能力が付与される。



 俺の場合はLv1で【アイテムボックス】その物を使える様になって、1レベル上昇の度に容量と言う名の≪ルーム≫が増えて行く。


 Lv5ではその増えた≪ルーム≫を改変したり、表記の変更が可能になった≪ルーム操作≫を覚えた。



 次はLv10で、何かしらの能力が付与される筈なので、もしかすればそこで俺自身が【アイテムボックス】の中に居ても移動する事の出来る能力が付くかもしれないのだ。



「……まぁそんなトンでも能力、そう簡単に手に入る訳は無いと思うけど……≪ステータス≫」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 【名前】 コナー


 【年齢】 15歳


【スキル】 アイテムボックス:Lv8


 【SP】 18/24


★アイテムボックス★


≪ルーム操作≫




【装備】


≪頭≫     :無し


≪胴体≫    :普通のシャツ


≪腕≫     :無し


≪足≫     :普通のズボン


≪武器≫    :無し


≪アクセサリー≫:無し



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「レベルは去年にLv8に上がってからは変動は無し…でも恐らくこの王都への長旅の間にLv9には上がる可能性は高いし、俺だけの馬を貰えばLv10なんてすぐだ……んふふふ」



 元々資金的に馬を手に入れられないと思って商人を諦めていた俺にとって、またとないチャンス。街と街を行き来する行商の仕事は俺の【アイテムボックス】の経験値的にすごく都合がいいんだ。そりゃ気持ち悪くニヤケてもしょうがないだろう。(決して状態が【興奮】だからという訳では無い)




「……早く明日にならないかな?」



 明るい未来を想像して、ワクワクの止まらない俺はメルメス達が湯浴みを終え、男性陣の順番だと呼ばれるまで自分のステータス画面とにらめっこしていたのだった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「ん?」



 夜中、男性陣の湯浴みを終わらせた後、もう寝るだけだというタイミングで今まで【アイテムボックス】の外で何やら訓練をしていたらしいミントが【アイテムボックス】に戻って来たらしく、魔物以外は通すように意識した≪ゲート≫を通って同じ冒険者パーティーの休んでいる部屋へ入る感覚がした。



「……そういえば、ホワイトタイガーの人達は結局時間優先で大きいベットが一つだけだったよね……………………いやいや、何があろうとそれは人個人の問題だし、俺がさっさと寝てしまえば解決…」



 流石に人のを盗み見るような事をしたい訳じゃないし、恋愛自体は自由なのだから俺が文句を言う筋合いなどは無い。



 ……一つ願うのならばせめて俺が眠ってから色々と初めて貰えると助かるが、こちとら健康的な15歳の少年、色々と始まる前に寝ようと思っても何故か目が冴えてしまってどうしても意識をしてしまう。



「くぅぅ……昼間ずっとミントと話していい人だってわかっているが故に、微妙な罪悪感……」



 どうにか急いで眠りたいと願い、『変に状況を想像するからダメなんだ』と自分に言い聞かせ、特に何か理由があった訳では無いが、先程まで開いていたステータス画面をもう一度開き、落ち着いて画面を確認する。



(……別にミント達がそういう関係だったとしても、メルメス達と違って羞恥心の強い方だとすれば俺の【アイテムボックス】内で事を起こさない可能性だってあるんだ……寧ろ旅を始めた初日にそんな事をするような人達じゃないだろうし…)



 自分に言い聞かせつつ、ぐるぐると回る思考を落ち着かせていると、ふと視界の中に渦中のホワイトタイガーの人達がいる部屋の項目が映る。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



≪ダブル≫ 10×10:【ミント:♀】【アイリス♀】【メメ♀】【ヘーニア♀】【その他▼】



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「………ん?」



 見間違い……か?いや、そんな訳……




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≪ダブル≫ 10×10:【:】【アイリス♀】【メメ♀】【ヘーニア♀】【その他▼】



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ミント♀………





「……へ!?」









――――――――――

――――――――

――――――








「いやぁ……すまないな、コナーには伝えても問題は無かったのだが、いかんせん忘れていて……ほら、オレもこんな喋り方だし、性格も男っぽいと言われるから気にして無くてね」



「えっと…?寧ろ女性を男性と間違えてて申し訳ないというか、昨日の昼間からずっと男性に話しかける様にしてて申し訳ないというか?」




 翌日、朝一番に起きてきたミントへ勘違いしていた事による謝罪を伝えれば、あっけらかんとした様子で笑い飛ばすミント。



 聞けば、ホワイトタイガーと言う冒険者パーティーを組む際に『女性だけだと侮られるし、変な男どもに絡まれる可能性もあるからミントが男役になってよ』とワザと男に見える様に振る舞っていたらしい。



 ミント本人も『おう、その方がいいね』とあっさり承諾して暫く『オレ』と自称していたら妙にしっくり来ていたらしく、今では男と勘違いされても『だろ?』と得意げに話すほどだ。



「まぁ女とか男とかあんまり気にせずに話してくれよ、オレはもうコナーとは友達だと思ってるしな」



「ミント……うん!なら改めて友達って事でよろしく!」



「あぁ」



 顔は中性的だが、背は高く、胸は無い。声は若干低めで女と言われれば『へぇ?マジ?』と感じるハスキーボイス。


 だが、髪はよく見れば艶やかで、防具と服で見えにくいが腰も女性特有のクビレがあり、女性と分かればモデル並みのスタイルの良い美人に見えなくもない。



「おおい、そろそろ出発するぞ貴様ら。早く準備をしろ」



「はーい!」



 まだ旅は始まったばかり、問題はまだまだあるのかもしれないが、俺は心底楽し気に出発の準備を始めるのだった。









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