第6話ロリ領主からの依頼






「…で、なんで俺はこんな所まで連れられて来られたんでしょう?」



「ぬ?メルメス様から何も聞いていないのか?」




 結局、騒ぎがメルメス…様?の威光によって収まった後、何故か俺はメルメスとバルトファルトに連行される形で、普段は近づきもしない街で一番大きな屋敷……この街の領主が住まう”領主邸”に連れて来られていた。



「私もよくは知らんが、メルメス様が『そこの方は私のなので、丁重に屋敷へお連れしてください』と命令されたので、その指示に従っているだけである……貴様幼女趣味か?」



「不名誉過ぎる!?…っというか一応貴方のお仕えしてる領主様なんでしょ!?幼女呼ばわりはダメじゃないんですか!?」



 バルトファルトの失礼な発言に思わず大声をあげてしまうが、ここが領主の屋敷である事を思い出し、すぐに口を手で押さえる。



「……というか、その肝心の領主様?はどこに行ったんですか?俺達をこの部屋に案内するや否や部屋を出て行っちゃいましたけど……それと、そのフルフェイスの兜何時までつけてるんですか?」



「メルメス様は恐らく、執務室に向かわれたようだが……何をしに行ったのかはわからん。この兜に関しては気にするな、メルメス様に『面倒だから我が家に仕えている間はそれを被っていなさい。じゃなきゃクビね』と命令されているだけだ」



「……そう…ですか…」




 上流階級は変な人間が多いとは良く聞くが…あの幼女にしか見えない幼子でさえ、そのような仕打ちをするのかとブルりと背中に寒気が過ぎる。



「バルトファルトさんは、苦じゃ…ないんですか?仕事とはいえそんな命令をされて…」



「ん?まぁ少々顔は蒸れるが、おかげで普通になったから私としては良かった部分が多いと思うぞ?」



「え?それってどういう…?」





「―――お待たせいたしました」




 バルトファルトのセリフに理解が追い付かなかった俺は、どういう意味かと質問を投げかけようとした所で、ちょうどメルメスが戻ってきてしまい、話は一旦そこで打ち切られる。




「いきなりこのようなご招待をしてしまい申し訳ありません。こちらとしても色々と急な出来事でしたので、ご容赦をしていただけると嬉しいですわ」



「え、えっと……メルメス…様?それは良いんですけど、一体どうして俺はここに連れて来られたんでしょう?」



 バルトファルトへどうして理不尽な命令を下しているのかがどうにも気になるが、無理矢理俺を連れて来た事に対しての罪悪感は持ち合わせているらしく、少なくとも悪逆非道のお貴族様という訳では無いらしいので、妙な肩透かし感を感じながらも本題に入ろうと質問を投げかける。



「あら、私の事はメルメスと呼び捨てにしてもらって構いませんわよ?アレほど熱烈に私を求めてくれた男性ですもの、今さら様付けは無粋ですわ」



「なんでそうなってるの!?俺はただ君をバルトファルトさんの所に運ぶために【アイテムボックス】の中に入ってもらっただけなんだけど!?」



 妙に演技掛かった仕草で、テレ顔を作りながらある事ない事を出任せに喋るメルメスに困惑しながら、幼女趣味を否定する為に必死に否定する。



「貴様……まさか本当に幼女趣味の変態だったのか…」



「違うッ!?何故そうなる!?」



 終いにはバルトファルトも勘違いで俺が幼女に情欲を向ける変態野郎だと認識されてしまう始末。



 何故だ。何故否定しているのに聞き入れてもらえないのか…。



「何故も何も……家族でもない異性を【アイテムボックス】に入れるなど性犯罪以外であれば恋人同士ぐらいしかしないだろう?世間一般で人を収納出来る【アイテムボックス】持ちはそこの所を気を付ける風潮にあるはずだが……もしや知らなかったのか?」



「……エ?」



 話を聞けば、世の数少ない生き物を入れられる【アイテムボックス】持ち達は、好きな異性を搔っ攫うという意味で家族以外の人間を【アイテムボックス】内に入れるのは出来るだけ避けるのが一般的で、もし仮に異性を【アイテムボックス】内に迎え入れる事があった場合、それは性犯罪や誘拐、それに緊急時のその他を除けば、『君を僕(私)の中で閉じ込めたい』とちょっとヤバイ感じの求婚に捉えられるらしい。



「つ、つまり…俺は、さっきの大衆の真ん中で、メルメスに狂気じみた求婚をした…みたいに見られてるって…事ですか?」



「熱烈でしたわね」



 う、嘘でしょ?あそこで俺達の事を見ていた数人には俺が幼女を密室に監禁する系のド変態として認識されてるって…事?



「ぐぅ……もうあの辺りに出向けない…」



「まぁまぁ…過ぎた事はしょうがないですわ…それよりも」



 はッ!そうだ、メルメスは言わば俺に求婚されて、それについて屋敷に連行された……そう考えるなら、これは言わば……不敬罪の打ち首…?



「ちょ、ちょっと待ってメルメス!お、俺はそんな求婚話は知らなかったし、あの時は「貴方には王都まで私を運ぶ依頼をさせていただきたいのですわ」緊急時だったので……って…え?」



 ……依頼?



「い、依頼とは?」



「実は私、領主という立場上、年に1度は王都で開催されるパーティーに出席しなければならないのですけれど……大の馬車嫌いなのですわ」



 馬車嫌い…?それって一体?



「…メルメス様は長い時間馬車の揺れや、車輪と馬の蹄の音が不快、そして世話係のメイド達が入れない馬車での移動が心底お嫌いなのだ。このブルスの街から王都まで約2か月はある旅路でメルメス様は毎年心底疲弊し、お身体を壊してしまわれてしまうのだ」



「そ、それは…お気の毒ですね……えと、もしかしてその道中を俺の【アイテムボックス】の中で過ごそうって事ですか?」



まさしく……先程、僅かな時間しか滞在しませんでしたが、貴方の【アイテムボックス】の中はインドア派の私にとって、至高の……チラリとしか見ていませんでしたが、人が使う用のベットらしき物も見えましたし、私以外の誰かを【アイテムボックス】内で生活させた事があるのでしょう?どうかその至福のひと時を私に御貸しいただけないかしら?」



 インドア派て……た、確かに、異空間の中には用の休憩スペースを作って仕事の合間に誰にも邪魔されない1人の時間を【アイテムボックス】内で過ごす事はあるが、その部屋を人に貸し出したり、人が入った状態で長時間移動した事はない。



 一応半日くらい兄達を異空間内に入れて街を歩き回った事があるので、出来なくはないだろうが、先程の『異性を入れるのは求婚』という話を聞いて、素直に頷ける訳がない。



「……流石に、領主で貴族の女性をそう何度も俺の【アイテムボックス】に入れるのはちょっと……」



 申し訳ないが、ここはお断りさせてもらう以外の選択肢はないだろうと―――。








「報酬はそうね、お金でもいいですけれど……この街の住人なら大きめの漁船を1.2隻か、1などでもよろしくてよ?」



「よろしくお願いします」



 ――と思ったが、この街の領主である相手が望んでいるんだ、求婚としての意味で捉えられないのなら何も問題はないし、元々王都には行ってみたかったのだ、ならば断わる意味などこれっぽっちも無い。無いったら無い!



「あら、お受けしていただいて嬉しいですわ!ふふふ、これで毎年地獄の4か月を過ごさなくてよくなりますわ…?」




 ……?あれ?俺って自己紹介してないよな……。



 もしかして、さっきまで別な部屋に行って俺の事を調べてた?そんで俺が馬を欲しがってるって知って、報酬に……。




 やっぱり上流階級の人間は怖いかも…。










――――――――――

――――――――

――――――










 上流階級の闇を目の当たりにした俺だったが、結局、報酬の馬1頭を諦める事が出来ず、そのまま依頼を受ける事になった。



「…では、色々と日程の話などもありますが、私もきちんとお部屋【アイテムボックス】の方を確認出来ていませんので、もう一度確認させていただいてもよろしいでしょうか?」



「お部屋……あ、はい…≪ゲート≫」



 すでに俺の【アイテムボックス】はお泊りするお部屋と同義なのだなと思いつつ、先程と同じ、使を≪ゲート≫にて開く。



「えっと、ここがさっきメルメスに入ってもらった俺の……休憩部屋?みたいな所です」



「あらあら……では失礼して…」



「メルメス様!護衛の私を置いて行かないでください!」



 メルメスは一言断りを入れつつ、待ちきれないといった様子で俺の出した≪ゲート≫をくぐって【アイテムボックス】の中へ入っていこうとササっと歩き出す。



 バルトファルトはそんな様子のメルメスに慌てて付いていき、俺も2人の後を追って【アイテムボックス】の中に入る。




「……やはり、かなり広いですわね…この中で2か月ゆったり出来ると思えば、これ以上ない程の極楽なのでしょうねぇ…」



「おおぉ……これほど広いとは……確かに、ここであれば馬車の中よりも快適な旅が出来そうですな…」



 俺より一足先に【アイテムボックス】の中に入っていた2人は、【アイテムボックス】内の真っ白な空間に驚きの声を上げている。



「些か、メルメス様が使うには貧相な家具ばかりだが、そこはコナー殿に了解を取って最高品質の物と変えれば問題はないか…」


「何を言ってるのですバルトファルト。ここはコナー様の聖域です。私の身勝手な都合で汚していい場所ではありませんよ!」



「…いや、別にあり合わせの家具で作った休憩所なんで、別に聖域でもなんでもないんですけど…」




「「コナー様(殿)!?」」



 2人は異空間内の様子を確認しながら話し込んでいたが、メルメスの行き過ぎた発言につい、後ろからツッコミを入れると、まるで俺が【アイテムボックス】内にいる事に驚いているかのような反応を見せる。



「え、そんな驚きます?説明がてらついて来ただけなんだけど…」



「まさか貴様…“自分もアイテムボックスに入る事が出来る”のか!?」



「あら……だとすればかなり稀な【アイテムボックス】持ちですわね……もしや、先程のというのも、ご自分が休憩する為のお部屋という意味でしたの?」



 珍しい……のか?家族の間では普通に受け入れられていたし、偶に海で漁師の仕事中に【アイテムボックス】内で休憩をしたりしていたが、特に周りの漁師達からは変な目で見られた事などは無かった。



「……生き物を入れられる【アイテムボックス】持ちは全員入れるものじゃないのか?…休憩所はそのまんまの意味だけど…他に違う意味とかあります?」



「私はてっきり、家族には言えない女性関係を隠す為の部屋の隠語かと…」



「君ホントに8歳……?っていうかそんな風に思ってたなら嬉々として中に入らないでください…ッ!」



 この子に羞恥心などは無いのだろうか?









 それから、お部屋観覧会は一時中止し、世間一般的の【アイテムボックス】持ちが有する力について教えてもらった俺は、色々と俺の【アイテムボックス】は高性能だという事がわかった。



「―――なるほど……つまり、生き物が入る【アイテムボックス】持ちは全体の3割くらいには居るけど、自分も入る事が出来るのは精々、その3割の中でも数%……その上自由に≪ゲート≫を設置出来、中々の広さの異空間持ちはまず居ないって事ですか」



「えぇ…少なくとも、私が知る限り“自分の身体全てを収納出来る”タイプの【アイテムボックス】持ちはコナー様が初めてお会いしましたわ。噂によれば王都にも居るとは聞きましたが、詳しい事はわかりかねます」



「…そんなに珍しかったんですか…知らなかったでした」



 この街で【アイテムボックス】持ちは数が少ないが、確かに数人はいる。



 顔を見合わせた者もいるにはいるが、お互いのスキルに対して詳しく話す間柄でもなかったので、自分が結構珍しいタイプの【アイテムボックス】持ちだと気付けなかったという訳か。



「まぁ確かに、みんな異空間に入れるタイプだったら、1人でも他の街に行商に行けますもんね……俺みたいに移動用の馬を買うだけの資金が無い奴は除いてですけど…」



「……なるほど…コナー様の【アイテムボックス】であれば、護衛など居なくても安全に街から街へ旅をする事が出来るという訳ですわね……」



「そうですね。……まぁ食料は【時間停止】じゃないんで気を付けないと旅の途中で餓死しちゃいますけど…」



 馬が買えないと分かった時は、何度『歩きででも旅商人として行商に行ってやる!』と考えたものだが、結局は半年も腐らない食料が見つからず不可能だと肩を落としたものだ。




「ならば、先程のコナー様のお部屋に2か月分の食料を積み、私と世話のメイドのみが王都に向かえば、護衛も必要ないという事かしら!」



「しかしメルメス様、その場合は夜はコナー殿と同じ部屋で同衾する事になると思いますが構わないので?」



「未来の旦那様ですもの、問題ありませんわ」



「問題しかないと思いますが!?バルトファルトさんも止めて下さいよ!?領主のご乱心ですよ!?」



 てっきり、求婚やそっち系の話は流れたと思っていたら、いつの間にか『未来の旦那』にされており、急ぎ否定の声を上げる。



 バルトファルトも自身の主が、一般市民の漁師の息子を旦那に娶ろうとしているのだから、もっと必死に止めて欲しいけど、この人メルメスの言う事全般に肯定しか返さないタイプな気がするんだよなぁ…。



「……というか、俺の【アイテムボックス】はがありますよ……変に同衾とか考えなくて大丈夫な作りですから…」



「あら、もしかしてあの広さの部屋がありながらレベル上昇で部屋数が増えるタイプでしたの?」



「はい……≪ステータス≫」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 【名前】 コナー


 【年齢】 15歳


【スキル】 アイテムボックス:Lv8


 【SP】 24/24


★アイテムボックス★


≪ルーム操作≫



≪自室≫    10×10:簡易ベッド、木製テーブル、その他▼


≪ルーム2≫ 10×10:空


≪ルーム3≫ 10×10:空


≪ルーム4≫ 10×10:空


≪ルーム5≫ 10×10:空


≪ルーム6≫ 10×10:空


≪ゴミ箱≫  10×10:角材×32 その他▼





【装備】


≪頭≫     :無し


≪胴体≫    :普通のシャツ


≪腕≫     :無し


≪足≫     :普通のズボン


≪武器≫    :無し


≪アクセサリー≫:無し



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「えっと、今見てもらった部屋と同じ大きさの部屋がまだ7つあって、その内6つは何も使ってない空の部屋なんで、そこを使ってもらえば問題は無いと思いますよ?さっき話してた家具もそこなら自由に配置しても構わないですし」



「……素晴らしいですわね……それならば他のメイドや使用人用に部屋を用意しても問題にならないのですわね?」



「大丈夫ですよ」



 最悪、使用人の部屋であれば、もう少し部屋をも出来るのでかなりの人数を収容する事も可能だ。




「……コナー様……流石は私の旦那様ですわ……」



「結局そこに行き着くんですね!?いい加減諦めてくれません!?」






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