第4話プロローグ④~僕の【アイテムボックス】の力~






 教会にて、自分のスキルが【アイテムボックス】だと判明してから俺は、ベルフやモルト達兄弟2人に手伝ってもらい、どんな力があるのかの検証をする事になった。



「ほッ!…せいッ!」



「おぉぉ!結構遠くでもるね!」



 まず初めに確かめたのは、教会でも話していた“自動収納”であるか否か。


 調べる方法はとても簡単で、適当な小物でも食べ物でもいいので、アイテムボックスに収納する為の物を用意し、実際にスキルを使用して瞬時に収納されるかを確かめればいい。



 ――結果は、残念な事に『見ただけで異空間に収納できる』自動収納タイプではなかった。



 ……だが、特に悲観するほど残念な機能ではなく、寧ろ条件によっては自動収納よりも良い結果かもしれない。


 というのも、俺の【アイテムボックス】はどうやら『認識できる視界内に自由に異空間の入り口を作り出せる』タイプだったのだ。



 目で異空間の入り口を開く場所を定め、アイテムボックスの中の異空間の”どこに”繋がるのかを確定させると、入り口の幅や高さも自由な≪ゲート≫を開く事が出来る。



 これなら、アイテムボックスに荷物を手作業で運び込む手間は掛かるが、自動収納で自分1人で収納するよりも、≪ゲート≫を開きっぱなしにして人に手伝ってもらいながらアイテムボックスに荷物を運び入れてもらう事も出来るという利点が存在する。



「うん、これならコナーがみんなで共有できる倉庫をいつでも出せるって認識でいいから、大分使い勝手はいいんじゃないかな?自動収納だとスキル使用者本人以外、異空間内の整理とか入出管理が出来ないからね」



「だな!それに…なぁコナー?この【アイテムボックス】の≪ゲート≫、上向きに開く事は出来ないのか?」



「ん?上に?……ちょっと待ってねモルト兄さん……こうかな?よッ!」



 能力への感心と自動収納じゃ無かった事へのフォローしてくれたベルフに心がほっこりしつつ、何やらモルトに考えがあるのか、ゲートの開く向きを変えられるかと言われたので、指示通り上を向いたゲートを開いて見せると、モルトはアイテムボックスにしまう予定で持ってきていた木材を上向きで開いているゲートへ放り投げる。



―――ス…



「お、やっぱこうすれば楽に物を仕舞えるな。割れ物とか傷つきやすい物以外ならこうやって放り込めば自動収納なんていらないよ!」



「おぉ!ホントだ!」



 放り込まれた木材はゲートの中に綺麗に入っていき、きちんとアイテムボックス内に収納されるのを見て、思わず声を驚きの声をあげる。



 これならば、投げた程度で壊れる心配のない漁で使う網や釣り道具、それに壊れても問題は無い廃材などを収納する場合、かなり楽に仕舞う事が出来る。



「確かにそれなら大分楽に使えるね…。まぁその場合、放り込んだ物を出す時は色々と整理しなくちゃいけないかもしれないけど……そこは追々考えていこう」



「うん!」「おぉ!」











 それから、次に調べたのはアイテムボックス内の時間経過に関してである。



 ……そう、実はなんとこの世界の【アイテムボックス】はラノベで良く見られるチート性能である異空間内が≪時間停止≫しているタイプの【アイテムボックス】が存在するのだ。


 異空間に出来立ての料理を収納し、何年、何十年後に取り出したとしても出来立て熱々の料理を取り出す事が出来る【時間停止】能力。





 そんな超便利機能は是非とも欲しい!と思い、家から実験に使えそうな氷を持ってこようとしたのだが、ベルフに呼び止められる。



「コナー、実はさっきのゲートに物を入れたり出したりした時にわかってたんだけど、コナーの【アイテムボックス】は【時間停止】が付いてるタイプじゃないみたいなんだ」



「え!?なんでわかるの!?」



「実は、アイテムボックスに木材を出し入れする時に僕やコナー、それにモルトも≪ゲート≫を通じてアイテムボックス内に両腕を突っ込んでいただろ?それが【時間停止】の機能が無い証拠になるんだ」



 ベルフの説明によると、【アイテムボックス】に【時間停止】の機能が付いている場合、人や生きている動物などはアイテムボックス内に入る事は一切出来ないという。


 言われてみれば、時間の止まった空間内に片腕だけ入れて、血や細胞が止まったりすれば、最悪腕の血流がせき止められる事で腕が破裂…最悪、細胞の動きが止まる事で細胞同士の結合が解かれ、ズバッと腕が切断されるかもしれない。



 という訳で、【アイテムボックス】の中に人の手などが入る事がわかっただけで、【時間停止】機能は付いていないと分かる訳らしい。



「でも、アイテムボックス内に手や生き物が入らないタイプだったとしても【時間停止】機能が付いてない場合も結構あるから、生き物を入れられるタイプなだけいいんじゃないかな?」



「…そういや、近所のイクスさんも【アイテムボックス】持ちだったけど、生き物を入れられない上に【時間停止】もないタイプって言ってたっけ?その代わり自動収納と結構大きい異空間持ちだから、引っ越し業をやってるらしいけど」



 イクスさんとやらはコナーはわからないが、どうやらモルトの知り合いで俺と同じ【アイテムボックス】持ちが近所に住んでいるらしい。



 ただ、モルトが言ったように、そのイクスさんとやらは生き物を入れられないタイプの【アイテムボックス】らしいので、やはりスキルの詳細は人それぞれという事らしい。




「よし、後調べといた方がいいのは“経験値の取得方法”と“容量”かな?」



「ベルフ兄、流石に経験値の方は今すぐ出来るって訳じゃないから気長にやるしかなくない?」



「経験値の……取得方法…?」



 またしても知らない知識が出て来たので、2人に説明を聞けば、スキルの詳細が個々人で別な様に、スキルのレベルの上げ方もが必要なのだという。



「僕の【風魔法】はひたすら『魔法を長時間使用する』事で経験値が入るタイプのスキル」



「んで、僕の【ポーショナー】は……『様々な毒を知る』のが条件のスキルだね…ある意味毒に詳しくならなきゃレベルを上げられないスキルだから結構きついんだこれ…」



 他の例え話を聞けば、やれ『スキル使用時のSPをとにかく消費させる』やら『スキルを出来るだけ様々な方法で使用してみる』やら『スキルを一回一回、本気で集中して使う』など千差万別の条件があるらしい。



「その条件ってどうやって調べるの?」



「それはもちろん……経験と考察によって?」



「そうだね、基本的に色々とスキルを使いまくってレベルが上がった時に『何をしている時にレベルが上がったか』を確かめて『△△と○○をしている時にレベルが上がった…なら△△を暫く続けてみよう』『△△ではレベルが上がらなかった…なら○○の方を試そう』って感じに試行錯誤していく感じだね。スキルのレベルは“Lv5”までは結構あっさり上がるから、そこまでに自分の経験値が手に入る方法を探り当てるのが基本かな?」



 ベルフは続けざまに「Lv5を超えた先はレベルが上がる毎にどんどん必要な経験値が増えるからね」と補足情報を付ける。



 だとすれば、今後スキルを使用する際は、何をして何が起きたのかをきちんと記憶し、レベルの上昇を見逃さない様にしなければならないだろう。




「と、今すぐ確認出来ないこの話は一旦置いておいて…“容量”の方を考えよっか」



「あ、そっちは多分調べなくてもわかるかも…“ステータスオープン”」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 【名前】 コナー


 【年齢】 5歳


【スキル】 アイテムボックス:Lv1


 【SP】 10/10


★アイテムボックス★


≪ルーム1≫10×10:木材、木くず




【装備】


≪頭≫     :無し


≪胴体≫    :子供のシャツ


≪腕≫     :無し


≪足≫     :子供のズボン


≪武器≫    :無し


≪アクセサリー≫:無し



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「……うん、やっぱり僕の【アイテムボックス】の容量は縦横10メートル四方の四角い部屋…だと思う」



「コナー、もしかしてステータスに空間の広さに関しての詳細があるのか?」



「うん。多分大きさはそれで合ってると思う…仮に”10”がメートル単位じゃなくて、ミリとかセンチならさっきの木材は入らないだろうから10メートル四方の空間が正解だと思う。あ、でも一応10メートルって可能性もあるけど…」



 約50センチはあるはずの木材が入ってる時点でセンチやミリ単位は無いと理解していたが、キロメートルというバカでかい容量があった場合は流石に予想外。



 万が一も考えて、きちんと物を詰め込んで容量を測る実験もした方がいいかと悩む。



「…あれ…?もしかして」



「「コナー?」」



 ふと、少し思いついた事があり、徐に自分の目の前の空間に人1人通れるくらいの≪ゲート≫を開き、手を突っ込む。



「え、コナー!?」



「おぉぉぉぉ!!!なるほど!!人間が入れるタイプで、≪ゲート≫の大きさとか開く場所に制限がないなら、自分で中に入ってみれば中の様子がわかるって事だな!」



 ベルフとモルトが見たのは、目の前で開いた≪ゲート≫に自ら体を通し、【アイテムボックス】の作り出す異空間へ消えていくコナーの姿だった。



「ふぉぉぉぉぉ……“真っ白!”」



 そして、肝心の異空間に入った俺はというと、あまりにも真っ白で若干まぶしさすら感じる約10の四角い空間に歓声をあげ、見たまんまの感想を述べる。



『おーいコナー!大丈夫か!?こっちからは中は見えないし、なんでかアイテムボックスの中に入れない様になってるんだけど!?ちゃんと生きてるんだよね!?』



「ん?あれ?ベルフ兄さん達入れない?」



 後ろから若干くぐもった声が聞こえてくるのに気が付いた俺は、すぐに後ろを振り向けば、恐らくアイテムボックスの入り口である≪ゲート≫に手を押し付けてこちらを心配しているような表情を浮かべているベルフとモルトの2人。



『入れないよ!さっきは腕が入ってたのに、今は指一本すら…ってわぁぁ!!」



―――どてんッ!!



 パントマイマーもびっくりな程完璧に両手を前へ突き出していた2人に対し、『早く中に入ってくればいいのに』と思った瞬間、ベルフとモルトを拒んでいた“何かの壁”が消えたのか、つんのめる様にアイテムボックス内へ転げ入ってくる。



「だ、大丈夫?」



「いてて……うん、大丈夫……って白!?」



「うはぁぁ!!真っ白ででっかい…部屋?だな!」



 2人は特に怪我はしていないようで、先程まで俺が驚いていたようにアイテムボックス内の白い部屋?に驚きの声をあげる。



「だよね。それにこの広さ的に、やっぱり容量は10メートルで合ってたっぽいし、使い勝手は良さそう!」



 これだけの広さがあれば、入れ方を気を付ければ我が家の家具や漁に使う道具、なんなら漁船その物もしまい込むことも出来そうだ。(漁船の入れ方は考えないものとする)



「それに、さっきベルフ兄さん達が≪ゲート≫を通れなかったのって、多分僕が認識しないとこのアイテムボックス内に入る事は出来ないって感じっぽいね」



「え、あぁ…そういえばそうみたいだね」



 自分が入る事を許可した者や物しか≪ゲート≫を通れず、【アイテムボックス】所有者本人でもある俺ことコナーも、アイテムボックスの中に入る事が出来る。



 それはつまり、このアイテムボックスの中に入り、誰の侵入も許可しなければ絶対に破られる事のない鉄壁のセキュリティハウスになるという事と同義。



 その上、中の空間も家の部屋より広く、倉庫と言っても過言ではない程の広さがあり、閉塞感を感じない様に窓代わりの≪ゲート≫もある。





 つまり俺の【アイテムボックス】は…。





(前世の…刺されて死んだ“俺”が死ぬ間際に望んだが出来る【アイテムボックス引きこもり部屋】という事か!?)




 なんとも情けない願望を汲み取ってくれたものだと、ベルフとモルト2人に気づかれない様にため息を漏らす。



(いや…別に嬉しくない訳じゃないよ?この世界にはまだ見た事はないけど街の外には魔物っていう化け物がうじゃうじゃいるって話だし、身を守る術があるのは大歓迎……でも、これって食料とかが無くなったら結局外に出ないとダメだから本格的に引きこもり用の部屋にしか見えないんだよなぁ)



 仮に異空間内で自給自足が出来たら一生異空間内で過ごすのか?と聞かれれば、流石にそんな自堕落な生活はしたくないと答えるのだが……この“引きこもり部屋”になりえるという微妙な事実に気が付いた俺はどんな気持ちでこの【アイテムボックス】を使えばいいのかと変な気分になる。



「……ま、僕が引きこもり部屋って風に見なければ、めちゃくちゃ有能なスキルだとは思うんだけどね…」



「…ん?何か言った?コナー」



「何でもないよベルフ兄さん…ってそれよりも、そろそろ夕食の時間じゃない?≪ゲート≫向こう側、日が落ちて来てるよ!!」



「やっば!今日僕父さんに解毒ポーションのストックを作るように言われてたんだ!ベルフ兄!コナー!先に戻らせてもらうぜー!」



 モルトのフライングに俺とベルフも「あ、ちょっとまってー!」とすぐに追いかけ、俺もすぐに≪ゲート≫を閉じ、暗くなってきていた空の下、帰路に着くのだった。





















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 コナーがスキル【アイテムボックス】を授かってから10年。



 今や小さかったコナーも15歳になり、すでに立派な成人男子へと成長し、兄二人と同じく、程よく焼けた褐色肌で母親譲りの紅い髪のイケメンに育った。



 近所の評判も良く、人が困っていれば気軽に声を掛けるような好青年で、父親のフィンの仕事もたまに手伝いながら、将来を見据えて商人の勉強に励む努力家な男の子として周囲には認識されていた。



 将来はこの【ブルス】の街で荷運びで他の街に荷物を運ぶ商人の真似事をしながら、偶に家に帰り家業の漁師の手伝いをしていくという、なんとも普通な生活を送るのだろうと………コナー自身もそう思っていた。



「ふふふ……きちんと責任、取ってもらいますね?」



「……はい…」



 頬を染めた小さな女の子になんとも魅惑的なセリフを吐かれ、只々頷くしか出来ない。



 ―――これは、本来は平凡な生活を送るはずだったコナーが、非凡な人生へと舵を切る事となる運命的な出会いなのは、今は誰も知らない。





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