第3話プロローグ③~自分だけのスキル~
水産業が盛んな港町【ブルス】。コナーが生まれた故郷の街であり、街の総人口は約2万人くらいで、その殆どの住人が漁師や水産加工の仕事に就く“海の街”。
水産関係以外でこの街のまともな職種と言えば宿屋や商人、それにファンタジー物に定番の冒険者という職種も有ったりする。
今向かっている教会も、街に必ず1つは無いと困る場所であり、そこで働いている…というより駐在している?“シスター”や“神父様”もある意味この街に必要な水産関係以外の職種と言えるだろう。
――教会とは、創造の神【パタールナ】からスキルとステータスを授かる為に必ず必要になる建物らしく、どの街でも教会と神父、シスターの所属が義務付けられているらしい。
寧ろ教会が無ければ街として認められず、移住や冒険者ギルドへの依頼などが出来ないという話だ。
…とはいっても、そんな街をこの目で見た事は無いし、冒険者ギルドにも入った事は無く、ただ両親に聞いた事を『へぇそうなんだ』と鵜呑みにしているだけの知識なので、実際には色々と違う部分もあるかもしれないが…。
まぁ何が言いたいかと言えば、この世界の教会…というより【創造神パタールナ】は、この世界で当たり前に存在を確信されているし、その神を崇め、スキルを授かる事の出来る【教会】はこの世界の人にとって、特別な場所という事である。
……個人的に、前世では神の存在をまったく信じていなかった性分故に、なんとも言えないうさん臭さを感じてしまうが、そういった感情は表に出さない様にしようと心に決めたのは余談だ。
「――汝、創造の神パタールナ様の祝福を授かり、この世の理を紐解かん……コナー君…5歳の誕生日おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます神父様」
教会に到着してすぐに、まるで後光でも差しているのではないかと思う程優し気な笑みを浮かべるおじいちゃん神父様に、何やら堅苦しい文言を並べられたと思えば、お祝いの言葉を贈られる。
「すでに祈りの間の準備も出来ております。フィンさんや他のご家族はこの礼拝堂でお待ちになりますか?」
「はい、ここでコナーが良きスキルを貰えるように祈らせてもらいます」
あまり詳しくは知らなかったが、神からスキルを授かる際は本人1人だけで【祈りの間】という創造神と交信が行える部屋に入室し、家族は教会の入り口である礼拝堂で子供のスキルが良き物である事を祈るのが習わしらしい。
「コナー?頑張って来なよ!くれぐれも創造神様にご迷惑を掛けない様にね!」
「うん!行ってきます!」
ベルフに励ましの言葉を投げかけられつつ、家族みんなの見送りを受け、神父様と一緒に1人教会の奥へと足を進める。
教会の中は比較的キレイに掃除が行き届いており、木造の建物だというのにどこかキラキラと光り輝いているようにも見え、清掃の気合の違いを見せつけられる。
「さぁコナー君、この扉の先からは君1人で入ってもらいます」
「はい」
神父様の案内で辿り着いたのは、扉というよりも門と言っても過言ではなさそうな大きな扉。扉の横には申し訳程度に掲げられた【祈りの間】という看板。
怖い訳では無いが、流石に緊張が胸を締め付ける感覚を感じつつも、神父様が『ギィィ……』と開けてくれた扉の向こうへ足を踏み出す。
「―――――」
……部屋の中は特に変わった作りをしている訳でもなく、ただ部屋の真ん中に水晶が置かれているだけ。
肝心の創造神様とやらがいる訳ではないし、壁などに特別な装飾がなされているという訳でもない。
…だが、部屋に入った瞬間にこの部屋は特別なのだとすぐさま”心で”理解が出来た。
「……空気が重い…それに、何だろ…体の周りに何か…モヤが触れてるみたいな感覚……。あの水晶の所に行けばいいん…だよね?」
事前の説明では、部屋に入り、水晶に手を翳せばいいとだけ聞かされているが、妙な存在感を発するあの水晶に近づいてもいいのかな?と少しばかり不安がよぎる。
「……綺麗」
近くで見る水晶は曇りが無く、水晶の奥を透かして見ようとすれば、光の屈折の影響か水晶が虹色に輝いているように見える。
間違っても水晶に直に手を触れて手垢など付けてはいけないと気を付けながら、事前に教えられていた通り、手を水晶に翳してみる。
『――――――――』
「え…?」
時間にして、ほんの数舜。
手を翳した瞬間に、まるで人の声の様な、はたまた楽器の音色の様な、……もしくはただの風が通り過ぎた時の風切り音。そんな自分では表現しきれない何かの“音”が耳を通り抜けると同時に、何故か【頑張りなさい】という言葉が脳裏に浮かぶ。
「……創造神…様?」
すでに手は水晶から離し、どう聞いても言葉として成立しない“音”が言葉として認識出来た摩訶不思議な出来事に、今のが創造神パタールナ様の力かと、呆気にとられる。
「……あ、ありがとうございますッ!」
何となく、神という大きな存在の片鱗を味わい、とにかくお礼を言った方がいいかと考え、大きな声でお礼を告げると、どこからともなく誰かが微笑みの声を漏らしたように聞こえた気がしたが、これ以上ここに居座るのはダメな気がしたので、後ろ髪を引かれつつもすぐに部屋を出る事にした。
◆◇◆◇◆◇◆
「ただいまぁ……ふぅぅ……」
「お疲れコナー!どうだった?いいスキルはもらえた?」
「モルト、はしゃぎ過ぎだよ?…コナーも今帰って来たばかりなんだからまだステータスは確認してないだろうしね」
祈りの間を後にし、礼拝堂へ戻ると、父さんと母さんがシスターと話をしており、戻ってきた俺を見つけたベルフとモルトはすぐさま駆け寄って来て出迎えてくれた。
「あ、そっか、もうステータスを確認出来るんだもんね。勝手に確かめてもいいの?」
「いいんじゃないかな?僕やモルトの時もすぐに確認しても特に何か言われた事はないし、一度創造神様から力を授かったらいつでもどこでもステータスは確認出来るからね」
どうやらベルフ達も以前は待ちきれずに、自分のスキルを確認しようと神父様や両親達の許しを貰う前にステータスを確認していたらしい。
先駆者達が特に怒られもせず、問題も無かったのなら自分もいいだろうと納得した俺は、早速自分だけにしか見る事が出来ないステータスを開く。
「ステータスオープン」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【名前】 コナー
【年齢】 5歳
【スキル】 アイテムボックス:Lv1
【SP】 10/10
★アイテムボックス★
≪ルーム1≫10×10:空
【装備】
≪頭≫ :無し
≪胴体≫ :子供のシャツ
≪腕≫ :無し
≪足≫ :子供のズボン
≪武器≫ :無し
≪アクセサリー≫:無し
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おぉぉぉ…!」
ステータスを開こうと思考すれば、自ずと『ステータスオープン』と唱えればステータスを見る事が出来ると何故か理解する事が出来たのは一旦おいておくとして、それよりも目の前に浮かぶ半透明の板に書かれていた情報に目を輝かせる。
「スキル…【アイテムボックス】!」
「アイテムボックス?おぉ結構役に立つスキルじゃん!」
「この街でも、魚介の保存や他の街へ輸送する商人さん達に必須のスキルだね!よかったねコナー?」
異世界のスキルで最も有名なスキル3つを挙げろと言われれば、まず間違いなく【アイテムボックス】はランクインするほどの良スキル。
若干、ラノベ別で不遇になる事もあるスキルだが、少なくともこの世界ではかなり役に立つスキルだと聞いた事があるし、今のベルフやモルトの反応から外れスキルの類に分類される事は無いだろう。
……ちなみに、個人的に有名なスキルトップ3は【鑑定】【アイテムボックス】【テイム】とかだと思っている。
「これなら、コナーが父さんの取ってきた魚とかをスキルで保存して、新鮮なまま売りに出す事も出来るんじゃないか?」
「んー、と言っても父さんの魚は市に出されてからすぐに専属の【アイテムボックス】持ちの人が保存してくれてるし、どっちかと言えば道具の出し入れをしてもらうとかの方が助かるんじゃないかな?……あ、でもコナーのスキルが
…自動収納?
「ベルフ兄さん、自動収納ってなに?」
「あ、えっと、スキルってね?人それぞれに合った個別の機能が備わっていて、同じスキル持ちでも微妙に出来る事が違う場合が多いんだよ」
「そうなの?」
「ベルフ兄の【風魔法】とか“〇〇魔法”ってスキルはそこらへんわかりやすいよな?ベルフ兄の【風魔法】で使える魔法は≪フライ≫。それと、確か風の攻撃魔法で≪ウィンドブラスト≫の2つだったよね?」
ウィンドブラスト?その魔法は見た事ないけど、前世の知識的にすごく攻撃魔法っぽい名前だ。
「コナー、実は他の【風魔法】のスキル持ちの人達って殆ど≪フライ≫みたいな空を飛ぶ魔法を使えないって知ってたか?」
「え!?【風魔法】って≪フライ≫が前提のスキルじゃないの!?」
「あはは!違う違う……≪フライ≫って何気にめちゃくちゃ珍しい魔法で、この街にいる【風魔法】スキル持ちで持ってるのは僕だけのはずだよ」
生まれてこの方、ベルフ達と遊ぶ時は大抵空のお散歩をしていた自分にとって、それは目から鱗と言っていい程の驚愕真実。
しかし、なぜ≪フライ≫を習得している人が少ないのか、それとなぜ同じ【風魔法】スキル持ちで使える魔法が違うのかが気になってしまう。
「どうしてかというと、これはモルトのスキル【ポーショナー】を授かった話と一緒で、5歳までに願っていた願望が影響しているらしいんだよ」
「僕の【ポーショナー】は普通は一般的な傷を癒すポーションを生み出すスキルなのに、僕は≪毒感知≫と≪解毒ポーション作成≫っていう毒に特化した魔法構成になってる。これは僕が小さい時に毒魚を食べて倒れた時に『毒の魚を食べてお腹痛くなるのは嫌だ!』って願いが反映された結果でこうなったみたいなんだ」
「!!……もしかして、ベルフ兄さんの≪フライ≫を使える【風魔法】は……『空に飛びたい』って願いで授かったスキル…って事?」
「その通り……と、言ってあげたいけど、僕の願望に関しては特に記憶が無いんだよね?特に『空を飛びたい!』って考えながら生活してた訳じゃないはずだし……ただ、母さんが言うには、良く空を見上げる子だったとは言われたから、多分それが関係してるとは思うよ」
なるほど、つまり俺の【アイテムボックス】のスキルも、何らかの俺の願望の影響を受けて、俺専用のスキルとなっている為、他の同じ【アイテムボックス】スキル持ちとは別の力を持っている可能性もあるという訳か。
「で、さっき言った自動収納っていうのは、手を触れずに“見て意識するだけで”スキルの異空間に収納出来る【アイテムボックス】の機能の一つだね。自動収納以外だと異空間の入り口を手で描く事で作り出して手作業で収納する人もいるし、何なら一つの場所や袋なんかを指定して、その指定物の中にしか入り口を開けない人とかもいるらしいからね」
「そ、それって結構重要じゃない?最後の人と同じだったら結構きついかも」
見ただけで収納出来るのであれば文句なしだが、せめてどこでも開けるタイプの【アイテムボックス】であってほしいと願うのは強欲だろうか?
「あはは、まぁ自分のスキルの事を知るには自分で色々と試すしかないからね。僕達も手伝うから、一緒に調べていこう?」
「おう!僕も手伝うよ!」
「ありがと!ベルフ兄さん!モルト兄さん!」
兄弟仲睦まじく話していると、両親達がシスターとの話合いが終わったらしく、『さぁ帰るよー』と呼びに来て、教会を後にするのだった。
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