第2話プロローグ②~コナー君 5歳の誕生日~




「コナー!網を片付けてくれ!」


「はーい!」



 磯の匂いが鼻腔を刺激する港町【ブルス】の海岸沿いで、小さな船から網やロープといった漁で使う道具を片付ける子供が1人……何を隠そう、約5年前にこの異世界【パタールナ】に転生してきたコナー少年である。


 現世でパチンコ逆恨み事件を経て、コナーとして第二の人生を歩みだした”男”は、この港街【ブルス】で漁業を営む極々一般的な庶民な家庭に生まれた。


(……前世のラノベとかだと、お貴族様とか王族の王子様に転生…なんて話もあって、転生直後は結構ワクワクしたもんだけど…流石に産婆の婆さんがボロイ木の小屋で出産させる子供が貴族な訳無いわな)


 生まれた直後の記憶は結構はっきりと覚えていて、出産直後の血まみれの身体を産婆のメルラ婆さんに布で拭かれた記憶も覚えている。


 流石にパチンコ逆恨み男に滅多刺しにされたと思った次の瞬間に、いきなりおぎゃぁ人生リスタートしたのはかなり動揺したものだが。


(まぁその後はこの世界の事や常識を学びながら、5年も経てば色々と慣れが来るもんで、今や立派な漁師の3男坊だ。まだ海での漁の手伝いをさせてこようとはしないが、こうやって漁の準備や後片付けの手伝いはさせられるからな……5歳児に手伝わせるって中々に酷だとは思うが…)



 この世界では、子供は基本的に独り立ちするまでは自分の家の手伝いをするのが一般常識らしいので、他の漁師の家の子も俺と同じ年代ぐらいから仕事の手伝いをしているらしく、別に「ネグレクト!」と咎められるような事ではないらしい。



「…ん?どうしたコナー?なんか考え事か?」



「あ、ごめんベルフ兄さん。今片付けるー!」



 どうやら色々と考え事をしていた所為で、片付けの手が止まっていたらしく、船の上で作業をしていた1番上の兄である長男“ベルフ”に声を掛けられる。


 ベルフは今年で13歳の少年で、髪は茶色、肌は毎日海に出ている事もあって見事に焼けた褐色の肌、顔は中々整っていて家族の贔屓目からしても悪くない2枚目のイケメンである。



「ベルフ兄、コナーは今日は5歳の誕生日なんだから気もそぞろって奴じゃない?僕も初めての時はドキドキしてめっちゃ楽しみだったし!」


「それはわかってるけど、いつも落ち着いて真面目なコナーが仕事中に考え事をするなんて珍しくてね…まぁ確かに、モルトの言う通り今日くらいはコナーも落ち着かないのは納得だけど」



 ベルフがコナーに心配の声を掛けていた所に、これまた船の上から話に入ってきた褐色肌の少年は今年で9歳になる我が家の次男坊の”モルト”。髪はベルフよりも薄い茶髪…見ようによっては金髪に見えなくもない髪色にベルフと同じく将来が楽しみなイケメンよりの顔立ち。


 この2人合わせて、我が家は3人男兄弟なのだが、2人とも優しくて末っ子のコナーとも仲良くしてくれる自慢の兄たちであり、前世では一人っ子で兄が欲しかったコナーにとって、とても大事な兄弟たちである。



「おぉい、そろそろ片付けを終わらせないと、家で昼食の準備をしてる母さんにどやされるぞ?コナーも、今日の事が楽しみなのはわかるが、早く仕事を終わらせないとには連れていけないからな?」



「「「はーい!父さん」」」



 そして、船の最後の乗組員である我ら兄弟の父親にして一家の大黒柱である“フィル”父さん。



 この街で他の漁師達から“ある事”によって一目おかれている父親で、これまた見事な褐色……いや、ある意味真っ黒とも言える肌を持つイケオジな35歳。


 そしてその“ある事”というのが、先程から兄たちや父さんの言っている“コナーの5歳の誕生日”や“教会”というのが関係している。









◆◇◆◇◆






「「「ただいまぁ」」」



「あら、おかえりなさい。今日も順調だったかしら?」



「いつも通り、大漁だったよ“アリア”」



 仕事の後片付けを済ませ、すぐさま家に帰ると、ちょうど昼食の準備を終え、リビングのテーブルの上に料理が並べられている状態で俺達を待っていたであろう母親のアリアが出迎える。


 アリアは3人の子供を産んだにしては若々しい見た目で、実年齢は34歳と父親のフィンとは1歳差には見えない程の美少女。


 今でこそ母親なのだと認識出来てはいるが、転生したばかりの頃はこんな美少女を母親と理解するのにかなり頭を悩ました。


 別段性欲などは身体が幼いから無かったとはいえ、別世界で成人済みの男性が見惚れる程の美少女にオムツを換えられたり、授乳プr…げふんげふん…などをされるのは些か拷問に近い何かがあった。


 父親は父親で、漁師の仕事柄異様に磯臭い服で強く抱きしめたり、髭でジョリジョリと赤子の柔肌を削られる日々は、赤子らしからぬ死んだ魚の目にもなってしまうというものだ。


 そんな苦労の末に、やっとこの人たちが自分の新たな両親なのだと認識出来る様になったのは、なんだかんだこの人達がとても優しく、居心地のいい家庭環境があったからこそなのだろうと俺は思う。



「あら?コナーは考え事かしら?食事中に珍しいわね」


「あはは!コナーってば、さっきも手伝い中に考え事して手が止まってたんだよ?よっぽど自分のがどんなのかが気になるみたいだね!」


「うッ……ごめん母さん…きちんとご飯食べてから考える…」


「あらあら……コナーも今日で晴れてスキル持ちだものね?余程楽しみなのね、うふふ」


 あははは!と家族がコナーを微笑ましく思い、暖かな笑いがリビングにこだまするが、笑われているコナーとしては、遠足を楽しみにしている小学生が微笑ましいと笑われているような感覚を感じ、恥ずかしいと顔を伏せてしまう。







 ―――スキル…それはこの異世界に存在する摩訶不思議な技能。


 コナーはこの世界に転生してから情報を集めている内にすぐに判明したファンタジー世界の要素、スキル。


 これは全人類が持ち合わせる神から贈られるギフトの様な力で、人それぞれに千差万別の【魔法】を生まれて5年……つまり5歳の誕生日に教会で信託として贈られるのである。


 基本的にスキルは1人1つを授かり、極稀にスキルを2つ授かる【ダブル】やスキルとしての力が破格の【勇者】や【大賢者】と呼ばれる神に愛された存在、≪神の愛し子≫なる存在も何百年かに数度の頻度で生まれるらしい。


 そして、このスキルなのだが、実は完全にランダムで授けられる力…という訳では無い。


 生まれてから5歳までの間の生活で、感じた事や己の才覚が影響してスキルが割り振られる為、ある程度狙ったスキルを取る事は可能…らしい。



 らしい。と何故不確定な言い回しをするのかと言えば、単純に個々人の“才覚”の部分が問題なのだ。


 簡単な例を出すなら、ただの一般市民に【勇者】のスキルを使いこなせるだけの力はあるか?という事である。


 いかにスキルが強くとも、それを十全に扱える人間でなければ意味をなさず、どれだけ幼少期に勇者のスキルを願おうともまず手に入れる事が出来ない。


 それに、精々5歳児の子供が『勇者がいいッ勇者になりたい勇者勇者勇者ぁぁぁぁ!!』と死に物狂いにスキルを懇願する事は難しく、周りの大人に『勇者になりたいと願いなさい』と言われた所で『ゆうしゃ?なにそれ?それより今日のご飯はお肉がいいなぁ』程度の思考ぐらいしか出来ないので、先程の様にスキルは狙った通りに出せるとは言われているが、まずほとんどが運である。



 まぁ前世の記憶持ちで、成人男性としての思考力を持つ俺だったら、この身体の才覚次第では狙い通りのスキルが手に入る可能性は高いかもしれないが。



「……コナーはどんなスキルを授かるのかしらね?」


「コナーは知りたがりの賢い子だから、もしかすれば【賢者】のスキルを得るかもしれないぞ?」


「うーん…自分としては、やっぱりベルフ兄さんみたいにみたいし、モルト兄さんの毒がわかるスキルとかあれば、安全に生きていけるのかなーって思うけど」



 ちなみに、ベルフとモルトはそれぞれ風を操る事の出来る【風魔法】のスキルと毒の有無を判別したり毒を直すポーションを生み出す【ポーショナー】のスキルを授かっている。


 ベルフの【風魔法】は授かった時に≪フライ≫という自分や周りの物を浮かす魔法を習得していて、ベルフと遊ぶ時はよく空の散歩に連れて行ってくれる。


 モルトの【ポーショナー】は一般的にポーションを生み出すスキルらしいが、モルトは毒系統の魔法に偏っているらしく、スキルを授かった当初はポーションを生み出す魔法より、手をかざした物の毒の有無を調べる≪毒感知≫の魔法を最初に覚えていたらしい。


 そして、このモルトの【ポーショナー】のスキルは以前、モルトが幼少期に父親のフィンが誤って毒魚の刺身(毒餌)をリビングに置いており、それを食べて腹を下した経験からこのスキルを得たのだろうという話もあったので、先程の願えば望んだスキルが手に入るという話にも納得が行くというものだ。



「僕の【風魔法】は空を飛ぶくらいしか使い道が無いから、出来る事ならコナーにはもっといいスキルを授かってほしいけどね…って、そろそろ神父様との約束の時間じゃない?」


「あ!ホントだ!早く行こ!」



 どれだけ自分達だけで悩もうが、結局授かるスキルは教会に行かなきゃわからない。


 昼食を勢いよく胃に流し込んだコナーは、すぐさま教会に向かうのだった。






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