異世界ホテルマン~めざせ!一流のホテル経営ッ~

大樹

始まりの旅

第1話プロローグ~これが俗に言う転生という物かッ~



 ―――人は大体70~80年くらいの寿命があり、長ければ100年もの時間を生きる事が出来る。


 だが、この世界の人間全員がその寿命で死ねるものではない。


 病死や事故死、運が悪ければ通り魔に刺されたりなんかして死ぬ事もある。


 正確な数値などは知らないが、体感で言えば全日本人の1割…いや、純粋な寿命での老衰以外に限定するならもしかすれば2割くらい行くのかもしれない。(全世界を含めればもっと割合が上がると思うけど)


 仮に本当に2割だと仮定するとすれば、8割の人間は皆天寿を全うして70~80年くらい生き、そして死んで行くのがのはず。


 つまり何が言いたいかというと、「2割なんてそうそう当たらねぇよ!俺は8割を引くぜ!」とパチンコの80%信頼度を持つリーチを『まず外れんやろ』と安易に安心してしまうのはしょうがないという事である。




「……ぐぷッ…!」


「だぁぁぁぁぁ!!糞がぁぁ!!糞がッッッ!!」



―――ザクッ!ザクッ!!



 人通りの多い大きな一般道。その道のど真ん中で1人の男が倒れ、その男の上でマウントを取り、下敷きになっている男の胸をザクザクとナイフで滅多刺しにする男が1人。



「キャァァーーー!!」


「ひ、人殺しだぁぁーーー!!!」



 周りの人達は人がナイフで滅多刺しにされている状況に混乱と恐怖を覚え逃げ出し、まだ理性の残っている人達は警察、もしくは救急車を呼ぶべく携帯を操作している。


 しかし、そんな周りの状況を特に気にしていないか、それ以前に気が付いても居ないのか、ナイフを何度も何度も何度も、自分の下に倒れている男に振りかざす犯人は狂ったように怒り出す。



「てめぇが……なんで1000円しか入れてねぇてめぇが、10万突っ込んだ俺より勝ってんだよ!!どうせパチンコ店とグルなんだろ!!この糞野郎が!!!」


「……ぁ……しら…ねぇ…」



 すでに血を流し過ぎて視界は眩み、胸の痛みも死の間際だからか一切感じない中、男は目の前でナイフを振りかぶる男の顔を見て、数時間前の事を思い出していた。






――――――――――

――――――――

――――――





 約2時間前、俺はいつもはあまり立ち寄らないパチンコ店に、ふらっと立ち寄り『1000円だけ暇つぶしでやってみるか』と軽い気持ちで店に来ていた。


 余りギャンブルを嗜む方では無いのだが、その日はちょうど2時間程仕事の都合上、少しだけ暇な時間が出来てしまい、家に戻った所ですぐに仕事の現場に戻らなければいけないという微妙なタイミングで目に留まったのがこのパチンコ店。


「どうせ勝てないけど、時間を潰すのにちょうどいいし…1000円負けたらタバコでも吸ってよ」


 そんな負ける前提で打ち始めたパチンコ台が、最初の1回転目で7.8割がた当たると言われるリーチに発展し、『お?これはまさか?』とワクワクとした気持ちで台を見つめる。


―――キュイン!!キュキュキュイィィン!!!



「うぉ?やっば運良すぎじゃん!って確変引いた!おぉ!まさかの臨時収入ゲット~」


 元々ギャンブルはそこまでハマる質ではないが、お金が増えるのは純粋に嬉しい。世に言うギャンブル依存症の方々の気持ちはあまり理解は出来ないが、流石に今の勝ちが確定している状況に喜びの感情が出ない人間はいないだろう。



「…………ちッ…」



「…え…?こっわ…めっちゃ睨んでくんじゃん…」



 大当たりを引き出玉が出始めると、恐らく負けが重なり大分イラついているであろう男が隣の台で舌打ちをかまし、チラリと横目でそちらを見ればこちらを殺意のこもった目で睨んでくるのがわかり、すぐさま目線を正面の台に戻す。



(…うわぁ…こういう変な奴が居るからギャンブルって好かないんだよな……この確変が終わったらすぐやめよ)


 面倒な奴に声など掛けられでもしたら目も当てられない。ならばさっさと出玉を回収してとんずらしようと考えたのだが…


―――キュイン!!キュキュキュイィィン!!!


「…………」


「…お、や、やったぁ……」


―――キュイン!!キュキュキュイィィン!!!


「…チッ!!!」


「…あ、あはは……」


―――キュイン!!キュキュキュイィィン!!!


「………」ガンッ!!


「ッ……」


 確変が全く終わる様子が無く、すでに席の後ろには大量の箱済みされた出玉。横ではあまりの大連チャンにイラつきが限界を超えたのか、台をグーで殴りつけるヤバい奴。お金がどんどん増える状況と横のモンスターが怖くなってきた状況に喜びと恐怖が混ざり合う奇跡の瞬間になんとも言えない心労を味わう。



 結局、この大当たりが終わったのは2時間後で、1000円の掛け金がまさかの10万円にまで膨れ上がる大勝。


 だが、そんな喜ばしい出来事よりも、一刻も早くこのキレ散らかしている男の傍から離れたいと思っていた事もあり、出玉を換金した後は逃げる様にパチンコ店を後にする。


「……はぁぁぁ…息が詰まって死ぬかと思ったわ……いや、まぁこの重くなった財布はめちゃくちゃ嬉しいんだけど、やっぱ俺にはパチンコは楽しく感じねぇわ」



 もし、隣の台にあのキレ散らかしている男が居なかったら、「また暇なときに来てもいいかもなぁ」くらいは思ったのかも知れないが、すでに【パチンコ店=キレるヤバイ奴】という最悪のイメージが固まりつつあり、パチンコ店に苦手意識が生まれていた。



 そんな嫌な気持ちを吐き出す様にため息交じりで道路を歩いていると、後ろから“ドンッ”と衝撃が走り、背中に高熱のフライパンを押し付けられたかのような熱を感じ、後ろを振り返れば…



「くそが……なんで俺が10万負けて…てめぇ見てぇな……」



 先程までこちらを殺すんじゃないかという程睨んできていた男が何かキラリと光る物体をに突き立てていた。







――――――――――

――――――――

――――――






 そんな事があり、今はめでたくこのキレ散らかしている男の下敷きになり、胸をハチの巣状態にされているという訳なのである。



(……あぁ……やばいなぁ…絶対助かんねぇ奴だこれ……)



 視界は歪み、四肢は動かず、刺されている胸どころかその他全ての身体の感覚が無い。



(…悪いな…親父や母さんに碌に親孝行も出来なかったし…彼女と結婚して子だくさんの家庭を築く事も出来なかった……いや、家庭が出来てから死んだら残された子供や妻が可哀そうか…)



 走馬灯と言えるのか、両親との思い出や仕事場で少し気になっている受付のリカちゃんを勝手に彼女、未来の奥さんとして仕立て上げた妄想を掻き立てるが、変なとこで冷静な事を考える自分に笑いが込み上げる。



(もし……来世があるんだとしたら……きちんとをしたいもんだぜ……)




 こうして、ちっぽけな一般市民としての“俺”という物語が終了し、黄泉の国へと旅立つ事となった。













◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







―――ズポンッ!!



「――おぎゃぁぁ!おぎゃぁぁ!」



「おぉおぉ!立派な男の子じゃ…よく頑張ったのぉ」



「はぁぁ……はぁぁ……ありがとう……はぁぁ…メルラさん」




 部屋の四方が木製の壁で覆われ、元は白いシーツであったであろう血まみれのベットに寝転びながら疲弊した様子の女性が1人、そして出産を手助けをしていたであろう妙齢の産婆が生まれたばかりの赤子を抱きかかえながら疲弊した女性の枕元へと移動し、赤子の顔を母親に見せる。



「おぎゃぁぁ!!おぎゃぁぁぁ!!」


「はぁぁ……とっても可愛い……」



 赤子は生まれたばかりで元気に泣き叫び、その様子をみた母親は満面の笑みを浮かべて口を開く。


「……可愛い私の子……貴方はコナーよ……これからよろしくね…?」



 子を産むにしてはかなり若い母親の聖母とも言える優しい笑みをまだ生まれたばかりで目が見えない赤子が目を限界まで広げ叫ぶ。



お、おぎゃぁぁこれが俗に言ううあぁぁ!?転生というものかッ!




 赤子の大きな産声は、とてもよく響いた。








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