1章 命を食らう魔法
1話 遭遇
人の住まない西の森には、命を食らう魔女が棲む。
村に長らく伝わる言い伝えで、どれくらい古いかって言うと、もう三百年は前から言われているらしい。父さんはじいちゃんから聞いたし、じいちゃんもじいちゃんの父さんから聞いたんだって。
でもさ、三百年だろ? いくら魔女だって元々が人間なら、そんなに生きられると思えない。それに、西の森は四六時中、いつ見てもひっそりとしてる。
魔女っていうのはきっと、子どもが一人で森に入らないようにするための方便なんだ。だから本当は魔女なんていない。
それを証明するために、今日オレは一人で西の森に入った。
森の中は昼なのに薄暗くて、湿った土の匂いがずっとしてた。生温い風も吹いてたけど、なんてことはない。そんなのどこにでもある普通の森と変わらない。怖がるものなんて何もない。何もないんだ。
だからやっぱり、魔法とか、魔女とか、そんなの嘘っぱちだ。
魔法なんてないんだ。
「え」
出会ったのは、ろくな獣一匹にも会わず、三十分ほど森の奥へ歩いてきたところだった。
その子は──オレと同じくらいの女の子は、肩まで伸ばした茶色の髪をゆらゆら風に揺らして、鼻歌まじりに森を歩いてた。右腕に垂らした木カゴの中には得体の知れない木の実やキノコや草がきっちり並べて詰められていた。
その子はオレを見るとひどく驚いた顔をして、あわあわと焦りだす。オレは鼻を鳴らした。
ほら見ろ、人がいた。それもオレと同じくらいの子どもだ。こんな子どもが入れるくらい、安全なんだ。やっぱり迷信だ。魔女なんて。
「む、村の人ですか……?」
女の子は聞いてきた。だから、うんとうなずく。あわあわと左右を見回す。小心者なのかな。
「な、なんでここに」
聞かれたので答える。
「迷信を暴くためだよ。西の森には魔女がいるなんて言うけど、そんなものいないんだろ? 君みたいな子が出歩けるくらいだもんな」
「いや、というか……」
ふいに女の子が二人になった。え、と思ったときには周囲が暗くなって、葉っぱの音が頭に響くくらい大きくなる。
世界が逆さまになる。
「この森の空気、人には毒なんですけど……」
女の子の声を最後にオレは頭からひっくり返った。と、思う。
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