第3話 めざめる

2024年4月?日 昼


 からだがだるいが...どうにか頭は回るようだ。いつ意識を失ったがわからないが、助かったらしい。目が霞んで緑が一面にあること、ふさふさした場所の上に仰向けで寝ていることはわかる。

 そうだ、水。いや、あまり喉は乾いていない...水、水の魔法が使える。魔力と思考があれば...!水よ生まれろ!



 「___ということです...申し訳ないとほんと心から思っています...」


 と僕は目覚めて早々、看病してくれた命の恩人に謝罪していた。寝起きは弱くないはずだが...魔法に浮かれてしまった。

 黄金みたいだが質素な服、ロングで整っていない黒髪、色白で麗しい女の子が僕を見ていた。


「...本当?」

「本当です...」

「...意味わからない。そのままでいて。」

 魔法のドタバタでいつの間にかいた彼女に体をぐるぐる巻きにされていた。

「少し、聞きたいことがあるんだけど...」

「.........」

 この沈黙は肯定ってことでいいのか...?

「人がたくさんいる場所ってある?行き方も合わせて教えてくれると助かるんだけど...」

「...?どうやってここまで...?」


 『転生した、いつの間にかここにいた』と言われたら僕の場合、関わるべきじゃない人間だと思い雑に回答をする。素性は明かさないようしつつも、訳ありで困っているよう牽制する返答

「...君は過去を話せる?」

「............そう......ごめんなさい」

 少し強い言い方だったな。

「いや、謝らないで。こっちの都合だから」

「...魔法つかえる?」

 ?僕の質問と何の関係が...

「世界転移の魔法」

「は?」

 声に出してしまった。世界転移?ここは世界を移動することが一般的なのか?

「......つかえない?」

 魔法である以上経験すれば使えそうだが

「使えないな」

 彼女は考え込んでしまった。





「.........ほんと、しかたなく......人、たまに来るから、それにつれてってもらって。...それまで...ここ、居ていいから...」

「...!」

 倒れていたところを救ってくれた上、家に泊めてくれるなんて、聖母の生まれ変わりか?

「ありがとう。ぜひ、よろしくお願いするよ」

「...ラクネ」

 名前だろう。こちらも名乗らないわけにはいかないが......。転生の影響かと思ったが、視界の端が赤いのは髪の色か。安直だが、赤い魔法使い...

「...アカマと呼んでくれ」


______________________________________


2024年4月13日 朝


「今日は何かすることは...?」


「ない。食べ物も私しかとれない。水は大樹からあふれてくる。そこにいればいい。」


 ラクネの家に運ばれてから4日経つらしい。危害がないと感じてきたのか結構物言いをするようになった。食事は毎食ラズベリーみたいな実とどんぐりのようなもの――ベリーは甘酸っぱく普通の人は悪くないだろう、どんぐりはピーナッツまんまの味で驚いた――を食べていた。実の魔法が知識に入ったが...いつ使うのか。



 見回ってほしくないのだろう、ここにきてから何もさせてもらえず部屋で暇してる。ラクネは食事を持ってくるときに姿を見せる。と思いきや10分ぐらい毎に「具合は平気?」や「水持ってくる?」と声はかけてくる。心配してくれている...いや、退屈なんだろう。

「何か話そうよ」

「声聞こえないから近くきて。部屋は出ないで。」

 と食事から次の食事までの暇な時間、会話するようになったのが一昨日。


 隠したいことあるし、この世界を知らないことも相まって話題がない。そのため「今日も涼しいね」「うん。」など子どものままごとのほうが10倍濃い会話するだろ、とツッコミを入れたくなるような内容を毎回......不甲斐ない。


 だけど今日は...そういえばどこまで知っているんだろうか

「スライムについて知ってる?」

「...ぅん?」

「スライムは液状の集合体で本体は核。核を傷つけるだけで倒せる」

「しってる。常識。」

「だったら、あの体どうやって形成してるか知ってる?」

「......魔法の力?」

「半分正解。ただそれは体を動かすために魔力を通わせているだけ。体の水は地面に染み込んだ水や空気中の水蒸気から補っている。」

「え!?」

「それだけだと形状維持ができない。核からゼラチンやらでんぷんによく似た成分を作り体に送る。」

「...ぉー?うん。」

 ゼラチン、でんぷんはわからないのかな?

「ゼラチンっていうのは、水を固めてプルプルにする食べれる薬品?みたいな?」

 知識がすこししかないものの説明が少し下手だが

「そんなのあるんだ?」

「そう、果物のジュースにゼラチンを入れて固めるゼリーっていうスイーツがあったり...スライムはそれで体の維持をして低燃費で活動し魔力を温存できる。」

「へ~!」

 ラクネは意外性たっぷりで無邪気に驚いていた。今日も人が来なかったら今度は水の魔法についてでも話してみようか。人か...

「そういえば気になったんだけど」

「答えれることあまりないよ?」

「ほんとにここら辺は人来るの?」

「え?しらないの?」

「教えてもらってもいい?」

「......わかった。」


 目隠しされ何もわからないまま運ばれた。着いて目隠しを外されると目の前には剣があった。台座に刺さっているが

「聖剣的な?」

「知っている?」

「噂で。少ししか知らない」

 そういう物語は結構あるけど、この世界もなんだ。

「触っていいの?」

「わからない。抜けた人が勇者ってことだけ。」

 豪華な装飾できれいな剣だなぁ、としか思わない。試しに抜こうとしてみたがびくともしない。新たな知識もない。別に剣士的な奴としてきたわけじゃないし、どうでもいいや。

「帰ろう」

「もういい?」

 と目隠しされて帰った。




 ラクネは食料調達中。最近は空間中に魔力を感じるようになってきた。だからといって何かできるようになるわけではない...と思っていたがそよ風と強風くらい魔力の流れに違いを感じる。出るなと言われているが気になる。家を出るとどこからか声が聞こえる。近くの大木に魔法で木を生やし枝の階段を作り降りる。声は...こっちか!


 僕は焦りながらも冷静に声の近くまで息をひそめてきた。


「なぜ俺らをつけてきた!」


「......」


 二人組の剣士っぽい方がなにかに剣を向けながら言った。そのなにか生物は服はところどころ焦げている。下半身が蜘蛛、上半身は人のその生き物...ラクネは何も言わない。


「黙ってるなら〇ぬだけだなぁ!」


 剣士が振り上げた剣は握りこんでいたはずの手からすっぽ抜け...剣士の背から腹を貫いた。剣士に合わせて動いたラクネの手からは線がキラりと。

 時折違和感があった。こっそり抜けようとしてもばれるし、家も高いところにあるのに僕をそこまで運んだ。すべてあの線、蜘蛛の糸によるものだろう。うまくやっていたもんだ。


「我の魔法で焼き払ってくれよう」


 二人組のもう片方、魔法使いみたいなやつは剣士には無関心でラクネに向け魔法陣を出した。いくら糸でもは防ぎようない。


「くらえ。フレイムスフィア。」


「焼くことないんじゃないか?」


 大きな火の玉—— 『火の魔法』の『球』に魔力を『注入』し前方に『動かす』ことを行ういくつかの魔法が複合された魔法 ——だったが同じ要領で僕が作った水の玉の中に消え、蒸気が出る。


「何者だ。貴様。」


 魔法陣、魔法を安定して発動させるための設計書みたいなもの。覚えられれば簡単に煩雑な魔法が使えるし、量や時間が毎回一定であるその精密性から大規模な魔法を確実に行う目的もある。そして条件次第で自分以外の魔力、空間中や物体の魔力を魔法に使うことができる。


「まぁいい。マインバースト。」


 〈魔法の知識〉で相手の魔法したいことがすぐわかる。名前が度し難いが...。火元になるところに大きな水の玉を飛ばす。


「なっ!ならば!」


 懐から何か空中に放り投げた...いつの間にか目の前の奴と二人きりで部屋にいた。初日に見た夢を思い出しながら


「燃えろ」


 目の前にいる魔法使いが唱える。辺りが火に包まれ、僕は冷静に唱える。


「...まだ水が使えるか...だがいつまで続くかな。」


 火柱が周囲に...この火柱、魔法をあえて小さくしたくさんの魔力で唱えると、水鉄砲の先が細いのと同じ理由で、勢いが強い魔法になっている。

 それとは別に、さっきまで手元で魔法を使っていたのに、前触れなく火柱を出して来る...さすがに応戦するか。あいつの顔に火を~


「こんなちっぽけな火。」


 払われただけで消えた。自分から魔法の場所が遠いと減衰量が大きい。いつも手元足元から魔法を唱えていたから気づかなかったな。だったらあいつはなんで


「貴様、火の魔法も使ったな。弱かったが、急に我の眼前に出した。水も相当出したろうに、それでも余裕にみえる。」


 この展開は......よくない。非常によくない。かなりやばい。


「魔王様に報告だ」


 魔法使いが懐からものを二つ。片方は魔方陣を展開する巻物みたいなものでもう片方は...短剣?


「逃がすか!」


 火球を放つも防がれた。2発3発と放つが防がれた。


「待て!」


 水の出しすぎで足取りが悪く思うように動けない。排水してないのか!

 魔法使いは短剣を魔方陣に刺す。光が部屋を覆いつくし......視界が晴れると魔法使いと空間が消えた。


「くそ...」


 逃げる余裕を残していたか。最悪の状況だ。あの魔法使いは僕を脅威とみなした。でないと逃げないだろう。そしてあいつは口にした。魔王、きっと魔王とその手下に僕が知れ渡る。間違いなく狙われ続ける。


「運命は決まっていたのか...」


 安寧を得るには魔王をつぶさねば。敵の数も強さもわからない......だが、やらなければ。


 体内の魔力は満ちている。

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