第2話 魔法よりも

「燃えろ」


 目の前にいる魔法使いが唱える。辺りが火の海に包まれ、僕はとっさに唱える。


「草よ!」


「はっ!バカめ!燃料を足してどうなる?」


 僕はにやりと笑った。草があたり一面を覆いつくし火を消していく。


「ばっばかな...」


「ここは密室...酸素が供給されない。ならば!酸素をなくせば燃えなくなる!」


「っくっくっく」


「なにがおかしい!」


「まだ気づかないのか?」


「!?...くるしぃ!?」

「なにを...した...」


「お前がさっき自分でいったろう」


「!...」


「全く...人間はおろかだなぁあ!」


 苦しい。死ぬのか?ここで?


「___...で...るんだな」


 水の音でよく聞こえない。息が。もう。


______________________________________


2024年4月9日 朝

 目を開けるとスライムが覆いかぶさっていた。


「っっっっっ!」


 対処はできる。昨日と同じ方法で!


「はぁっ...はぁっ...はぁぁ.......馬鹿が見る夢すぎる...」


 地味に死にかけ、心臓がドキンドキンしてる。呼吸を整えよう。


「スーーー...はーーー...スーーー...はーーー...」


 と何度か繰り返し、冷静になる。

 昨日は転生して、スライムに襲われた。そこで草の魔法、スライムの知識を得ることができた。夜だったこともあり、疲れていた僕は小さな草の防壁を建て寝たが...


「草は全部風で飛んで行ったか?」


 さわやかな風が吹く。今は晴れ。

 〈魔法の知識〉についてわかったことがある。知識を得るにはきっかけが必要だということ。強く意識することで忘れていたことを思い出すような感じに。今、水や火を頭に必死に思い浮かべたがダメで、強く意識するようきっかけが必要らしい。草の魔法については食べ苦みを味わったことで知識が出てきた。逆にスライムは本体に触れただけで知識を得たが?

 この草の魔法、知識には『魔力を草や葉に変換する』と刻まれている。種類や大きさなどの細かなことしか変えられるが、魔法を使うことの恩恵はこの文言を出ることはない。役に立つ場面がかなり限られる魔法だろう。

 スライムの知識。なんと素晴らしいことか。生態系...というより行動目的や生息場所、作り方(核の表面によくわからない記号を入れ、魔力を注入する。少しの形状変化で記号の制御は不安定になり魔力が外部に流れ出す。)や成分、可動域、最大火力など幅広く深く知識が刻まれている。残念なことに多種族のスライムは名前までしかわからなかったが...それでもかなりよい知識だ。

 副産物的な感じに、スライムなどの生物は魔物と呼ばれること、魔法につかうエネルギーは基本的に体内の魔力ということ、などこの世界特有のことが少し理解した。疑問を解決すると別の疑問が出てくる。


「魔法使った後、身体の魔力を使った感覚はあったのに減ってなかったんだよなぁ...」


 ...などなど昨日のことを整理し、今朝見た夢は...あまり覚えていないし、次はやるべきことを考えようか。

 最終目的は魔王を倒すこと...だとか。しかし、僕は夜に転生させた素性が知れない奴の指示は従いたくない。そんなことより安定した暮らしを得ること。前の世界でも同じことを思っていたが、こっち世界なら断然望ましい。この世界で安定した暮らしをすること。それを僕の目標とする。

 そのためにも計画を立てる。家を手に入れるか?魔法の知識を得る?などと考えていたが、魔法をあまり知らない以上どこまでできるか、別の脅威があるのか、はたまた別の異能力があるのか...わからない。そう何もわからないなら情報を集めるべきだ。人と会いこの世界について知ろう。


 夜中とは当然違い周りは明るい。目の前にきれいな草原だけが広がっている。...きれいとか言っている場合じゃない。まさか草原だけとか馬鹿げていることはないよな...?と立ち上がり、後ろを振り返ったあたりで少し遠くに何か見えた。木がたくさん生えているようにみえる。おそらく森だろう。何もない草原ではないことに安堵しながらも森しか見えないことに冷や汗をかいていた。まあ、こんな草原で立ち往生しても仕方がないので森に向かうことにした。



 10分後、運動してなかった弊害が出ると思ったが、足取りは軽く不思議だった。気づかなかったがすこし痩せている。考えれば転生なので身体は変えられる...か。そんなことに気づきつつ森の前に着いた。入りたくない...この辺りもスライムがいるので近くに魔物はいないだろう。勘...なのか、毒がないといわれ毒々しい見た目の物に触れようとしている...そんな気持ちだ...

 嫌々も森に入り進んでいく。元の世界なら大樹と呼ばれるであろう木が、手を広げても当たらない適当な間隔で生えている。木に生えた葉は青空を見せてはくれず明かりを少しだけ通す。ところどころに蜘蛛の巣が作られているが、肝心の蜘蛛がいないのはなぜだろうか。様子が変でも森は森だ。木の魔法でも手に入らないかなあとか考えながら周りを見渡し進んでいく。



 ......1時間......2時間

 転生した身体とはいえ疲労は無視できない。木の魔法は気づいたら知識に入っていたが、それどころではない。足がガクガクして歩くのがやっとだ。座って休めばいいと思うだろうが、気づいたときには足を止めるわけにはいかなかった。のどが渇いていたが、なんかぼんやりしてきた。水分不足の典型的な合図だろう。水分不足は数日で〇ぬと聞く。僕は医者ではないし、そういう縁もない。そして、より水不足に陥った際の症状も知らない。いつ動けなくなるかわからない...このまま歩みを止めては再度歩き始められるか...


 ...... ......

 どれくらい歩いたか...そもそも...なんで...進んでいるか......水...そう...だ...水を...探さ...なくては...


「みず.........みず.........み......ず......」



 つかれた......





 つめたい......





「...___?...___」


 こえ......


 ......?


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