第21話
次の日のお昼俺はいつものように一人中庭でご飯を食べているとある人物に声をかけられた。
「なぁ、今ちょっとええ?」
この場所は俺と神崎さんしか知らないため俺はてっきり神崎さんが来たのかと思ったがそこにいたのは昨日転校してきたばかりの柏木さんだった。柏木さんは俺の目の前まで来ると座っている俺を見下す形で俺のことを観察する。
「えっと、何かな」
俺がそれに困惑していると柏木さんは「んー」っと唸りながら顎に手を当てる。
「あんたウチとどこぞで会ぉたことある?」
「えっ…ないと思いますよ?」
俺は柏木さんから目をそらし動揺を押し隠して答える。しかし柏木さんは今でも俺のことをじっと観察している。俺は以前街中で柏木さんと会ったことを思い出す。あの時は女装していたし少ししか話していないからてっきり忘れているもんかと思ったけどまさか覚えられていたとは。いや、俺も覚えてたんだ相手も覚えてると考えるべきだったか。それにしてもまずいこれ以上俺が女装していることを知る人を増やしたくない。
「んー、ウチ記憶力いい方なんやけどな。ほんまに会ぉたことあれへん?」
「いやー、ないと思いますけど」
「そっか、それやったらええか」
柏木さんは「昼ごはんの邪魔してごめんな」と言ってその場を去ってしまった。俺は今後どうしたもんかと頭を抱えるハメになってしまった。以前別れ際に「街を案内する」と言ってしまった気がする。もし柏木さんがそれを覚えてたら一緒に街を歩くことになるかもしれない。もし今度女装したところを見られたら俺だってバレる可能性は十分ある。なんせ女装した俺と今の俺を見てどこかで会ったことがある気がすると言っていたくらいだ一度会ってそれなら学校で毎日会う今それはかなり危険だ。せっかく勇気を出して長谷部さんに正直に話すと決めていたのにこんな厄介ごとになるなんてどうすればいいんだ。
「とりあえず一人で考えても仕方ないし神崎さんにでも相談してみるか」
俺はそう決めると一言神崎さんにメッセージを送る。すると数秒もせずすぐに返信があり「今日部活ないから放課後喫茶店で話そう」と返ってきた。やはり神崎さんは頼りになるな、亮なら絶対バカにしてきてなんの役にも立たないからな。
その日の放課後俺は神崎さんに指名された喫茶店への向かった。しかし神崎さんはまだ着いていないのか周囲を見渡しても見つけられなかったため俺は先に席に座っていることにした。
「ご注文は何にされますか?」
俺が席に座り少し経つとウェイトレスが注文を聞きに来たため俺はコーヒーを一杯注文した。そしてコーヒーは数分もしないうちに届き俺はそれを一口飲むとほっと一息つく。それからさらに数分が経過すると神崎さんが喫茶店に着いたらしく周囲を見渡し俺を見つけると俺の前の椅子に座る。
「なんとなく見当はついてるけどそれで相談ってなに?」
神崎さんは席に座るなら直球に聞いてくる。そして俺が今日の昼休みにあった出来事を話すといつ注文したのか神崎さんは自分の目の前にあるカフェラテを飲みながら最後まで話を聞く。
「やっぱりか」
「え、やっぱりって?」
神崎さんの発言に俺は疑問を覚えそのまま返してしまう。神崎さんは手に持っていたカップをテーブルの上に置くと片手で頬杖しながら答える。
「柏木さんってこの前話してたナンパから助けてくれた人でしょ?大阪弁で金髪でサイドテールをしてるって特徴聞いてたから昨日柏木さん見た時からもしかしてって思ってたんだよね」
なんと、俺そこまで話してたのか神崎さんは俺がこの前話したことをここまで覚えているとは。俺は神崎さんの記憶力に感嘆していると神崎さんはジト目でこちらを見てくる。
「なに他人事みたいな顔してるの、あんたの問題なんだからちゃんと自分でも考えなさいよ」
怒られてしまった。しかしそれもそうか。俺がどうしたもんかと悩んでいると神崎さんは大きくため息をしてそのまま答える。
「まぁ、女装した状態でなるべく会わないようにするのが良いんじゃない?ていうかそれしか対策がないでしょ。それに東京は広いんだから適当に歩いてて出会う確率なんてそうそうないわよ。だから安心していいんじゃない?」
おー、さすが神崎さん。そう言われれば確かにそうだ。こんな広い場所で約束もなしに出会う確率なんてそうそうあるわけないんだから気にすることでもないか。俺は安心してコーヒーをまた一口飲むと先ほどまでの心配がなくなったせいか体全身から力が抜けていく。そして話題は別のものへの変わっていく。
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