第19話

あの花火大会以降なにか起こることはなくやがて夏休みは終わってしまった。今日から九月に入り二学期が始まる。この時期になると憂鬱な気持ちになる。おそらくこれは俺だけじゃないはずだ。俺はまだ寝ぼけた目を教室の窓の外に向けるとただ遠くの空を眺める。空を見ていると今でもあの時の光景を思い起こすことができる。あの美しい光景。夜空にはたくさんの花火があがり、それを嬉しそうに目を輝かせながら眺める少女。あの時あの一瞬が俺にとって1番の宝かもしれない。そんなことを考えているとホームルーム開始の鐘がなり担任の教師が前の扉から入ってくる。俺のクラスは割と真面目な人が多いためら賑やかだった教室もホームルームや授業が始まると皆すぐに自分の席につき静寂を作る。しかし今日だけはなぜかホームルームが始まっても先生が教室に入ってきても鎮まる気配がない。むしろ先ほどよりもなぜか皆ざわざわしている。俺はそんなクラスの異変に訝しさを感じ外を眺めていた目線を教卓へと向ける。そこには普段からよく見る一人の男と何故かその横には見たことのない女子生徒の姿があった。金髪を片方にサイドテールを作って、まるでギャルという言葉を体現させたような女子。ん?この子どこかで見たことあるような気がするぞ?いや、多分気のせいだな、だってこんな子探せばいっぱいいるもん。うん、気のせい気のせい。


「ウチは柏木 夏月(かしわぎ なつき)っていいます。今日から皆さんよろしゅう頼んます」


彼女の挨拶でクラス中が騒ぎ始める。男性陣からは「よっしゃ生ギャルだ!」という訳のわからん歓喜の声。女性陣からは「大阪弁かな?なんかかわいい」という女子特有のなんでもかわいく見えてしまう現象が起こっているらしい。俺はそんな周りの声は耳に入ってこない。なんせ彼女のその見た目と喋り方には心当たりがあったのだ。うん、気のせいじゃないは。彼女とは以前夏休みに俺が女装して一人街に歩いていたときに厄介なナンパに絡まれていたところを助けてくれたというか、仲裁してくれたことがあった。俺は彼女のことを思い出すとすぐさま窓の外に顔を向ける。いくら女装した上に数分しか離してないとはいえ気づく可能性はある。しかし、俺が窓の外を向く前ほんの一瞬ではあるが彼女がこちらを凝視しているような気がした。俺は柏木さんとは極力関わらないようにしようと心に決めた。ホームルームが終わると皆がいっせいに柏木さんの元へと近づく。そしていろいろと質問を投げかける。柏木さんはそれに淡々と答えるとさらにその場は盛り上がる。ちなみによくその和を見てみるとたくさんの人に押しつぶされるように亮の姿がそこにはあった。長谷部さんと神崎さんは興味はありつつも遠くから二人で会話をしながら眺めているだけだった。




午前中の授業と昼休憩が終わる。いつもならこんなに長く感じない授業も夏休み明と言うこともありかなり眠く集中力が続かない。慣れとは恐ろしいもので今までだったら毎日出来ていた事なのに一月それをしなくなるだけでこうも苦痛に感じてしまうとは本当に慣れは恐ろしい。そんな俺の事はともかく今日の午後の授業は修学旅行のためのグループ決めだ。俺の通う青秀高校は二年になると修学旅行で北海道、奈良・京都、広島、福岡・長崎、そして沖縄のどれか好きなところに行くことができる。これはクラス内の多数決で決められるため他のクラスとは別々の場所に行くことになることが多い。ちなみに俺たちのクラスはすでに奈良・京都に決まっている。奈良・京都といえば中学生の頃に修学でいったことがあるものが大半だったが、「旅行といえば奈良と京都だろ」という者やどこでもいいと思う者が奈良・京都に票を入れたため、北海道や沖縄には表が分散して入ってしまった結果このようになってしまった。俺はどちらかといえばどこでもいい派だったため奈良・京都に決まったことに対しては特に何も言うことはない。こうして決まった行き先で自由に行動できる時間がある。その時間では決まったグループで回らなければならないというルールがあるため今回はそのグループ決めをする時間らしい。グループは自分たちで好きに決めていいらしく皆んなが各々の仲良しグループを作り出す。俺には仲のいい友達というのはあまりいないためこういった「好きな人とペアを組んで」的なノリはあまり好きではない。内心先生が勝手に振り分けてくれれば楽なのになんて思っているほどだ。俺はみんながわいわい楽しそうにする中一人席に座ったまま窓の外を眺める。今日転校して来たばかりの柏木さんですらすでにグループを作っているというのに俺はなんて情けないんだ。そんな黄昏ていた俺の肩を叩く奴がいた。


「なに物思いにふけってるんだよ。早く他のメンバー決めようぜ」


そうやってさも俺と組むのが当たり前かのように側まで近寄ってくるのは亮だった。亮はいつくかのグループから誘われているのにも関わらず俺のことを選んでくれた。やっぱりなんやかんや言っても亮は俺の親友だ。


「あと残りのはどうするか」


亮は頭の後ろをかきながらそうぼやく。グループは四から六人で作る必要があるためどうしてもあと二人足りない。かといって俺がいるとほとんどの人は組みたがらないため途方に暮れていた。そんな時俺たちに声をかける人がいた。


「ねぇ、良かったら私たちと一緒にまわらない?」





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